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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

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「良い」孤独、「悪い」孤独/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(25)【千葉県八街市】

 7月9日。このところの光の強度はものすごい。久しくなかった体感だ。何ゆえか。ふだんの年なら今はまだ梅雨、雨の日が多い。そして、梅雨明け後に夏と呼ばれる季節がやって来るわけだけれど、その時、実際は夏の盛りをすでに過ぎている。お盆休みが近くなる頃にはもう庭で虫の声が響き、日没時刻も早くなり、天空ではすでに秋の支度が始まっている。つまり日本では、本来の夏が梅雨空で覆われてしまうのだ。ところが今年の場合、夏至が過ぎてほどなく梅雨明けが宣言された。つまり、まさに太陽は真上にあり、1年で最強の光が降り注いでいるのが現状なのだ。そんなキビシイ暑さに立ち向かい、僕は働く。手元が見えなくなるのは午後7時25分くらいだから、4時半で暗くなる真冬に比べると夏場の労働時間は3時間くらい長くなる。風呂に入るのは8時。寝床に入るのは11時。蚊取り線香に火をつけ、朝まで扇風機を回しながら寝る。昼間の疲労がうまく作用し、寝苦しさも感じることなく、グッスリ眠れる。省エネ型のエアコンに買い替えるとポイントがもらえるのだと聞くが、熱帯夜を扇風機でやりすごしている人間にポイントは授与されないのだろうか・・・。

 荷造りであたふたしているところに佐川急便の馴染みのドライバーが荷物を持ってきてくれた。漫画家Fさんからのお中元のビールだった。もうかなりベテランの漫画家だが、彼女とのお付き合いが始まったのは30年以上も昔。以来ずっと野菜の有り難いお客さんでいてくれる。本当ならお中元を贈るのは僕の方だが、Fさんはワインやビールをお歳暮でも贈ってくださる。恐縮。僕がその好意に応えられるのは美味しい野菜、果物、卵を作って送り届けるしかない。

遠足などで、ぞろぞろぞろぞろ。みんなと同じ方角へ歩くのはとてもいやでした。列をつくって、兵隊さんのように。 篠田桃紅

 もう何か月も前に目にした「折々のことば」のこれは引用なのだが、ああ、オレの心もこの言葉に近いなあ・・・そんな思いで切り抜きを手元に大事に保存しておいた。解説の鷲田清一氏はこのように綴っている。

合唱もそうだけれど、みんなに合わせることがどうにも性に合わなかったと、美術家は少女時代をふり返って言う。制服には襞の数まで決まりがあったが、襞をうんと細かくするほうがずっと見栄えがすると思っていた。規律を強要されるのも、迎合や付和雷同も大嫌い。何をするにも自分には考えがあったと。『これでおしまい』から。

 僕もみんなで一緒にというのが苦手である。「嫌い」というほどはっきりした意思ではなく、気持ちが素直にそこに入っていかないだけなのだ。僕の好きなスポーツはマラソンとボクシングである。その共通項は単独でやれること、チームメイトとハイタッチしたり抱き合ったりすることがないこと。黙って、独り・・・ここにも我が孤独の姿があるみたいだな。僕は野球も好きなのだが、あの、熱狂的な、みんないっせいの応援は好きになれない。試合は最終回。ツーアウト満塁。カウントはツースリー。投手がここをしのげればチームAの勝利。一本出ればチームBのサヨナラ勝ち。この場面、水を打ったように、静かに、固唾を呑んで次の投球を見つめるべきところだろう。しかし実際は観客席からの声援が鳴りやまない。みんなメガホンを叩いて熱くなっている。野球だけの話ではなく、僕には、世の中、多くの人が興奮を求めている、コーフン出来る場所をいつも探している・・・そんな気がする時がある。あまりに激しい興奮状態だと、それが終わった時には落差が大きすぎ、心にポカンと隙間が出来るんじゃないだろうかと、余計な心配までしてしまう。「ぞろぞろぞろ」と、大きな列に加わり、同じ方角に進んでいく。どうしても、僕は子どもの頃からそれが出来なかった。これを褒められるべきことだと思っているわけじゃない。むしろ自分の我儘精神が背後にはきっとある。思った通りにやりたい。誰の助けも借りたくない、指示されたくない、好きにやらせてくれ・・・我が孤独を「モナカ菓子」に例えると、それを手でふたつに割って出てくるのは我儘という名の「つぶアンコ」である。

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