皆野町と東京で二地域居住をしながら、キャンプ場「僕らのミナノベース」の開拓を進める松藤さん。困難を極めた土地の契約から始まり、現在は木々の伐採や古民家の改修などに勤しむ毎日だ。新たなコミュニティベースを目指すその現場を訪ねた。
掲載:2023年5月号
地元との信頼関係を大切に、土地の長期契約を実現
観光客でにぎわう長瀞(ながとろ)の岩畳から、秩父郡皆野町ののどかな山里へ車で走ること15分。水量豊富な清流にかかる小さな橋を渡ると、気持ちのいい広場に出た。ここが松藤裕也さん(41歳)が開拓するキャンプ場「僕らのミナノベース」だ。
「広場」と書いたが、実際には2800坪を超える広大な敷地。もとはクワの木が乱立する耕作放棄地だったというが、今では美しく整備されている。
「木の伐採を始めたのが1年前。チェーンソーの扱いはうまくなりましたよ」
フリーランスの映像作家として活動する松藤さん。皆野町と都内の自宅を行き来して映像の仕事を続けながら開拓作業を進めている。
「妻は都内で働いています。子どもの学校もあるので、今は二地域居住状態。でも将来的には、この土地に家を建てて暮らしたいですね」
楽しそうに話す松藤さんだが、作業が始まるまでは苦労も多かったという。
「この土地は長期契約で借りています。地権者さんは5名おられるのですが、皆さんに納得いただけるまで何度も話し合いをさせていただきました」
都心から気軽に来られる場所に、新しいコミュニティベースをつくりたい。そんな夢を抱いて秩父エリアへ来たのは2年前。そこからオートバイで周辺を巡り理想の土地を探した。そしてついに「ここで!」という土地に出合ったが、そこから先が大変だった。
「地元の人の信頼と協力がないと絶対にダメだと考えました」
地権者さんはもちろん、土地周辺の住民の方がたにも「自分が何者で、ここで何をしたいのか」を説明し、時間をかけて信頼関係を築いていった。
「賃貸契約を結んだときは感涙しました(笑)。ただ、それがゴールじゃダメ。信頼に応えるためにも、ここからがスタートですから」
開拓に必要な道具を集めた松藤さんがまず立ち向かったのが、敷地内に密集する樹木。チェーンソーの扱いはプロのログビルダーを訪ねて教えてもらったが、大変だったのが土中に残る根の処理。
「ロープをくくりつけて車で引っ張ったりしました。でもこれが手に入ったのでね」
そううれしそうに話す松藤さんの隣には、数日前に手に入れたばかりのショベルカーが!
「まだ使い方もよくわかってないですけど」
そう言って笑う顔は、新しいおもちゃを手に入れた少年そのもの。そう、この場所はどんな遊びにも対応できる、大人の秘密基地なのだ。
「伐倒と同時にやっているのが、古民家の改修。ここで地元の食材を使ったおいしい料理を出せたらうれしいですよね」
敷地内で朽ちていた古民家もDIYで改修工事中。腐った壁や床板を外し、骨組みを補強する。将来、ここはキャンプ場の受付兼カフェバーになる予定だ。
「キャンプ場のオープンはこの夏の予定。急ピッチで作業してますが、やりたいことが多過ぎて時間が足りない」
車が出入りできる安全なキャンプスペースをつくることがまずは基本だが、松藤さんの夢はそれだけでは終わらない。地域のおいしい食材やジビエが楽しめる料理の提供や仲間が集えるサロン空間、水辺のプレイスペースにウッディなサウナ……と頭の中の構想図にはさまざまな夢が詰まっている。
「この地でビジネス抜きの友人が多くできました。彼らと少しずつ夢を現実にしていきたいです」
「僕らのミナノベース」の噂は秩父エリアで少しずつ広まり、見学や手伝いに来てくれる若者が大勢いるそうだ。
「この夏、この地からどんな物語が始まるのか、今からワクワクしてます!」
松藤さんに聞いた「山暮らし」のここがいい!
ビジネス抜きの人間関係が充実
昔から自然が好きでよくキャンプに行っていましたが、ここの開拓が始まってキャンプ欲が一切なくなりました。日々、木や土と接しているので精神的に満たされているのだと思います。東京では仕事の人間関係が中心でしたが、こちらではビジネス抜きの人間関係がたくさんできました。過疎化・高齢化の進んでいる地域のはずなのに、都会にいたときよりも年の若い友達が増えましたね(笑)。
皆野町移住支援情報
転入世帯への支援金が充実! 無料で使えるお試し住宅も
皆野町では、東京圏からの移住者に最大100万円の移住支援金を支給。18歳未満の子どもとともに移住した世帯には、さらに30万円を加算する。ほかにも子育て世帯への住宅取得奨励補助金として新築住宅に50万円、中古住宅には25万円を支給する(条件によって20万~30万円の加算あり)。皆野町の気候風土や生活を体験できる体験施設「来てみ〜な」は、事前予約で7日間まで無料で宿泊可能だ。
問い合わせ/産業観光課移住定住促進担当
☎︎0494-62-1462
文・写真/阪口 克
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