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田舎暮らしの本 8月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 8月号

7月3日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

おばあちゃんの家で、家族の新しい暮らしが始まった ―「孫ターン」という選択【和歌山県和歌山市】

孫ターンとは、先祖が暮らした土地に若い世代が根を下ろし、新たな暮らしを紡ぐ移住のかたちだ。おばあちゃんの家を引き継ぎ、和歌山市の豊かな自然のなかで、地域とつながりながら暮らす藤原和香奈さん一家の暮らしを取材した。

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掲載:2025年6月・7月合併号

和歌山県和歌山市
和歌山県和歌山市
和歌山県の県庁所在地で、人口は約35万人。関西国際空港から電車で約40分とアクセスも良好。海・山・川に囲まれた自然と、都市機能が共存する暮らしやすい地方都市として、移住先としても注目されている。写真/虎伏山(とらふすやま)の頂上に位置する和歌山城は市のシンボル。四方に市街地を見下ろすことができ、城内には動物園や「わかやま歴史館 歴史展示室」などがあり散策も楽しい。

 

気づいていなかった、心の奥の声

藤原さんファミリー/和歌山県和歌山市
藤原さんファミリー
藤原和香奈さん(千葉県出身)、夫の巧さん(東京都出身)、長女の愛ちゃんの3人家族。愛ちゃんが2歳だった2020年10月、東京都港区から和歌山県和歌山市へ移住。祖母の逝去後、空き家となっていた築約100年の古民家を引き継ぎ、ニワトリとの暮らしやDIYに挑戦しながら日々を営んでいる。和香奈さんは移住者コミュニティ「ツナガルワカヤマ」を運営するほか、YouTubeチャンネル「移住家族ちゃんねる」を通じて、移住生活や和歌山の魅力を発信している。写真/広い庭でニワトリの飼育を始めた。毎朝、産みたての卵が食卓に並ぶ暮らしが日常に。「東京では土を踏むことさえほとんどなかったので、本当に大きな変化です」(和香奈さん)。

 「東京での暮らしも楽しかったんです。だからまさか自分が地方移住するなんて、それまで考えてもみませんでした」

 そう語るのは、2020年に東京から和歌山市へ家族で移住した藤原和香奈さんだ。当時は港区のマンションに住み、2歳の娘を育てながら共働きをしていた。

 「港区は子育て支援も充実していたし、第一希望の保育園にも入れました。近くには気の合う友人もいて、慌ただしいながらも日々を楽しんでいたんです。でも、いつも余裕がなくて……。子育ても家事も〝これでいいのかな〞と悩むことは多かったですね」

 ある日、夫・巧さんが口にした「地方に住んでみない?」という提案が、和香奈さんの心に小さな波紋を広げた。

 「最初は反対しました(笑)。でもいろいろ調べていくうちに、だんだんワクワクしてきて。自分では気づいていなかったけれど、本当はずっと、時間に追われる生活に違和感を感じていて、変えたいと思っていたんだと思います」

 それから夫婦で日本地図を広げて、理想の暮らしと移住先を話し合った。

「おばあちゃんの家、見に行ってみたら?」

 候補に挙がったのは、東京からアクセスしやすい千葉や埼玉、静岡だった。しかし、いざ物件を紹介されると土地勘がないので、なかなかしっくりこない。マンションの退去日を決めてしまっていたので、徐々に焦りが募っていた。

 そんなとき、思いがけない提案が舞い込んだ。

 「父から電話があって、『空き家になっている和歌山のおばあちゃんの家を見に行ってみたら?』って。完全に盲点でした」

 和歌山県和歌山市。和香奈さんの祖母が長年暮らし、父が生まれ育った場所。幼いころ、夏休みやお正月に訪れた思い出のある地でもある。

 その家は、大工だった曽祖父が大正10年に建てたという古民家。半ば恐る恐る見に訪れると、築100年とは思えない、すぐにでも暮らし始められる状態だった。

 「水回りは祖母が住んでいるころにリフォームされていたし、誰も住まなくなってからは、近所に住む叔母や、大阪から叔父が通って手入れを続けてくれていたんです」

 そしてもうひとつ、心を強く動かされたのが、家から徒歩15分ほどで行ける片男波(かたおなみ)の海だった。「快水浴場百選」にも選ばれるその海は、透明度の高い水と美しい砂浜が広がり、思わず息をのむほど。

 「幼いころ何度も来ていたはずなのに、こんな海が近くにあるって記憶になかった。移住先の条件に〝できれば海の近く〞を挙げていたので、これはもう運命だと思いました」

 その場で、移住の決心が固まった。

和香奈さんの祖母が使っていた足踏みミシン
祖母が使っていた足踏みミシン。祖母は着物の仕立てをしながら、女手ひとつで5人の息子を育て上げた。「日記も残っていて、この家でおばあちゃんはこうやって暮らしていたんだな、と思いを巡らせることがあります。自分のルーツやご先祖様のことに、自然と心を向けるようになりました」。

大工だった曽祖父が建てた家は、重厚なたたずまい
大工だった曽祖父が建てた家は、重厚なたたずまい。「子どものころにいとこたちと駆け回った思い出の場所で、今は自分の娘が元気に走り回っているのを見ると、感慨深い気持ちになります」。

片男波海水浴場/和歌山県和歌山市
家から歩いて15分の場所にある片男波海水浴場は、環境省選定の「快水浴場百選」に選ばれた名所。さらに、全国に10カ所しかない「海の部特選」にも選ばれている。「娘は泳ぐことが大好きになりました!」。

地域の一員として迎えられて

 和香奈さんの移住は、いわゆる「孫ターン」。祖父母が暮らしていた土地に、孫世代が戻って暮らす一世代飛び越えたUターンのかたちだ。

 「それまで家を管理していた叔父も高齢になって、今後どうするか悩んでいたそうなんです。売るか貸すか……でも、先祖代々の家を手放すのはやはり心苦しかったようで、私たちが住みたいと伝えると、本当に喜んでくれました」

 引っ越し後、ご近所に挨拶回りをすると、「おばあちゃんに着物を仕立ててもらったのよ」「本当にお世話になったわ」と、温かな言葉をかけられた。

 「祖母が築いてきた深い地域とのつながりを、そのまま引き継がせてもらったような感覚でした。孫ターンだったからこそ、最初から〝地域の一員〞として受け入れてもらえた気がします」

 夫の巧さんもすぐに地域に溶け込んだ。パソコンやスマートフォンに詳しいことから、今では〝地域のⅠT担当〞として頼りにされる存在に。ご近所の方がたから相談を受けることもしばしばだという。

 「庭先から〝おーい〞って声がかかるんですよ(笑)。今では自治会の役員も引き受けています」

 自治会の集まりには娘の愛ちゃんも一緒に参加する。

 「おじいちゃんおばあちゃんがかわいがってくれるのがうれしいようで、ついていきたがるんです」

和歌山市は歴史深いまちで、日本遺産に登録されている庭園や神社が身近にあり、家族でよく足を運ぶ
和歌山市は歴史深いまちで、日本遺産に登録されている庭園や神社が身近にあり、家族でよく足を運ぶ。「娘には、住んでいるまちに誇りを持って育ってほしいなと思っています」。

思い立つと、家族3人で片男波の海へ出かける
思い立つと、家族3人で片男波の海へ出かける。愛ちゃんは砂浜で貝殻を夢中で拾い、巧さんは波間に目を凝らして魚を探す。その風景を眺めながら過ごす穏やかな時間が、和香奈さんにとって何よりの幸せだ。

五感を刺激する、自然のなかでの子育て

 自然のなかで成長していく愛ちゃんの姿は、和香奈さんにとって何よりの喜びだ。和歌山市での暮らしは、五感を刺激される体験があふれている。海で泳ぎを覚え、森を駆け回り、時には野菜の収穫を体験させてもらう。ニワトリの飼育は、愛ちゃんの生活の一部だ。

 「卵からひよこをかえし、成長を見守り、毎朝産みたての卵をいただく。時には、さばいて命をいただくこともあります。一連の流れを見て、〝命ってこういうことなんだ〞と娘なりに感じてくれている気がします」

 卵以外にも、和歌山市に来て、食卓が格段に豊かになった。

 「バケツを持って近所の漁港に行くと、獲ってきたばかりの新鮮な魚を漁師さんから直接購入できます。野菜は、家庭菜園やご近所のお裾分けでいただくことも多いんですよ」

 和香奈さん自身も、新たな働き方へと踏み出した。地域の課題解決を目指す起業支援を受けながら、移住者同士の交流や、和歌山の魅力を発信する事業を立ち上げたのだ。

 「交流会の参加者から、『気の合う仲間ができた』『一緒にイベントを企画したり、マルシェに出店した』などの声が寄せられています。つながりのきっかけとなったことが、うれしいです」

 今後について尋ねると、和香奈さんは少し考えたあと、こんなふうに話してくれた。

 「地域の人たちと支え合って生きていきたいという思いがすごくあるんです。子育てもそうですが、家庭だけで抱えるのが大変なことってたくさんありますよね。困ったらSOSを出せて、誰かが手を差し伸べてくれる。そういう地方だからこそのつながりを、築いていけたら……」

 高齢化が進む和歌山市では、家族と離れて暮らす高齢者も多い。誰かに頼りたくても頼れず、孤独を感じている人も少なくないだろう。だからこそ、和香奈さん家族のような若い移住者が、地域の力になれることは多い。

 「この地で心地よく暮らせているのは、おばあちゃんが築いてくれた地域との信頼関係があったからこそ。恩返しの気持ちも込めて、地域に少しでも貢献できたら。夫は力仕事やIT関連のサポート、私は人と人をつなぐ場をつくること。それぞれの得意を持ち寄って、地域の助け合いの輪の中に、自然と加わっていけたらと思っています」

 孫ターンとは、先祖が築いた土地に若い世代が再び根を下ろし、新たな暮らしを紡いでいく移住のかたちだ。ひとつの家に再び灯りがともることで、地域全体に温かな光が広がっていく。

有精卵を購入し、孵卵器で温めてヒヨコを孵化させた
有精卵を購入し、孵卵器で温めてヒヨコを孵化させた。9個の卵のうち4羽が元気に誕生。「家族みんなで見守った命の誕生は、かけがえのない思い出になりました」。

鶏小屋もDIYで製作した
「おばあちゃんの家を受け継ぎながら、DIYで暮らしやすく整えています。欲しいものがあったら、つくれないかな?と考えて自分たちで工夫している姿を、娘にも見せていけたら。鶏小屋もDIYでつくりました」。

近くにある雑賀崎漁港では、漁師から直接、獲れたての魚を購入できる
近くにある雑賀崎漁港では、漁師から直接、獲れたての魚を購入できる。「新鮮な魚をびっくりするような値段で買うことができます。夫が魚をさばけるので、お刺身や魚のフライが毎日のように食卓に並びます」。

「釣りに出かけたり、虫捕りをしたり。海も山もある和歌山市では、娘が自然のなかで五感を使いながら思いきり遊ぶことができています。移住して一番よかったと感じている点です」
「釣りに出かけたり、虫捕りをしたり。海も山もある和歌山市では、娘が自然のなかで五感を使いながら思いきり遊ぶことができています。移住して一番よかったと感じている点です」。

娘に収穫体験をさせてもらうこともある
娘に収穫体験をさせてもらうこともある。「最近畑を借りて、自分たちで家庭菜園も始めたんです」。

和香奈さんは「わかやま地域課題解決型起業支援補助金」に採択され、移住者のコミュニティづくりと和歌山の魅力を発信する事業をスタート
和香奈さんは「わかやま地域課題解決型起業支援補助金」に採択され、移住者のコミュニティづくりと和歌山の魅力を発信する事業をスタート。移住者交流会を定期開催している。「移住して来られる方って、パワフルで面白い方が多いんですよ」。

 

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