掲載:2022年3月号
金属加工を中心にさまざまな技術が集積し、打刃物やキッチンウエア、アウトドア用品、木工製品などの特産品を世界に送り出す三条市。築80年超の町家を利用した移住体験&アトリエ付き滞在施設「Craftsmen's Inn KAJI」は、車がなくても利用可能なエリアに立地。ぜひ周辺を歩いてまわり、ものづくりのまちの雰囲気を体感しよう。
※「Craftsmen's Inn KAJI」は2022年4月1日に名称を「SAKUNOYA」に変更しています。
凛とした雰囲気のあるカフェ兼宿泊施設
江戸時代の和釘づくりに始まった鍛冶の技術を受け継ぎ、現在は金属加工技術に長けたものづくりのまちとして世界から注目を集める三条市。上越新幹線の燕三条駅がある市街地には都市機能が充実する一方、車で30分走れば海にも山にも行けるとあって、利便性と自然のバランスを求める移住者から人気だ。
市街地から少し離れた弥彦線北三条駅近く、昔ながらの町並みに溶け込むような古民家が、市の移住体験住宅としても機能する宿「Craftsmen's Inn KAJI」だ。築80年以上の町家を落ち着いた雰囲気にリノベーションしており、宿泊は1日1組のみ。日中は、あんみつが自慢のカフェとして営業している。
「このあたりに多い、間口が狭くて奥行きが深い『うなぎの寝床』と呼ばれる間取りが特徴です。元文房具屋さんなんです」
そう話すのは、運営企業(株)下田村の薩美鈴音さん(23歳)。
ガラガラと重く懐かしい音を立てる木枠の引き戸を開けると、右側は鍛冶道具の展示、左側はあんみつカフェのカウンター。カウンターの奥の和室が飲食スペースだ。ここは吹き抜けで、2階の廊下を見上げる面白い造り。その奥にもコタツの置かれた客室が続いている。この2つの部屋は、カフェの閉店後、宿泊客が食事をしたりくつろいだりするのに使うことができる。
レトロな台所には調理器具が揃っているが、特筆すべきは三条産の逸品が置かれていること。包丁工房タダフサの包丁、三条特殊鋳工所(ユニロイ)のホーロー鍋、マルナオの箸など、滞在中に自炊をする際、使い心地を試すことができる。諏訪田製作所自慢の爪切りも備品として置いてあり、その切れ味に感動して購入する人も多いそう。
「鍛冶技術の体験施設『鍛冶道場』に近いということもあり、ものづくりのまちの雰囲気を味わってもらい、クラフトマンとまちに来る人をつなぎたいという気持ちで始まった宿です」
そう話すのは、三条市地域経営課の長野真弥さん。
「ぜひ、三条が誇る製品を手に取って試し、鍛冶が生活に根付いたまちの雰囲気を味わってほしいですね」
KAJIの中のあんみつカフェの名称は「SAKUNOYA」という。
「『SAKU』とは散策の『策』で、このあたりを歩いてまちのことを知ってもらえたらという気持ちが込められています」と、薩美さん。
ものづくりを間近に感じる、三条市ならではの生活が体験できることだろう。
【Craftsmen’s Inn KAJI クラフトメンズ イン カジ】
古民家の町家を改修した1棟1組の宿泊施設。2021年より運営企業が変わり、地元の鍛冶技術でつくられた道具の展示や利用体験、あんみつの販売も行う施設としてリニューアル。
●利用料金/2人1泊1万1000円(人数と日数によって変動)
●利用できる期間/1泊2日〜6泊7日(7泊以上は応相談)
●間取り/4LDK
●アクセス/弥彦線北三条駅より徒歩5分
●問い合わせ/㈱下田村 ☎0256-46-8872
移住体験施設利用時の Q & A
Q1 申し込み方法は?
㈱下田村のAirbnbページから予約可能。不明点については㈱下田村 村長の家(☎0256-46-8872)へ問い合わせを。
Q2 備品は? 持参したほうがよいものは?
寝具、タオル、歯ブラシなどのアメニティなど必要なものはすべて揃うので、基本的に手ぶらで利用可能。鍋や包丁、ホットサンドメーカーなどの調理器具は、三条が世界に誇るブランドのものを用意。大人数で鍋料理をつくる場合は大きめの鍋も用意可能なので、予約時に相談を。
Q3 車なしでも滞在できる?
徒歩で弥彦線北三条駅へ約5分、食堂のある交流施設「ステージえんがわ」へ約3分、鍛冶体験ができる「三条鍛冶道場」へ約5分で、車なしでも滞在可能。7月には図書館等複合施設「まちやま」も徒歩約1分のところにオープン予定。車の場合は無料駐車場あり。
Q4 周辺の買い物スポットは?
1km圏内に中央商店街があり、野菜や果物、魚、お茶、酒、和菓子などを購入することができる。周辺には飲食店も点在している。また、「中央市場」では2と7が付く日に朝市を開催。新鮮な野菜や魚などが手に入るので、日程が合えばぜひ足を運んでみて。
【三条市】オススメ滞在プラン
職場見学や空き家の内見など、希望に応じてオーダーメイド
中央商店街にある「Blanc(ブラン)」。ここはまちの人が気軽に立ち寄れるカフェであると同時に、移住相談や空き家紹介などの移住支援を行う場でもある。運営するのは地域おこし協力隊の池田和也さん(31歳)。
「移住の目的や、計画がどのくらい具体化しているかなどは人それぞれ。だから、相談者の状況に合わせて内容を変えるオーダーメイドの移住体験を行っています」
移住に伴う転職を考えている人には地元企業の見学をアレンジし、子育て中の世帯には学校や児童館などの情報を提供。「職人を目指したい」という人も一定数いるので、ものづくりの現場に案内することも多い。
「三条は市街地から里山までをカバーする広い自治体で、雪が多いなどの特性もあります。ツアーでは、実際住んでみないと見えてこないことを、住民目線でお伝えし、リアルな体験を提供しています」
池田さんイチオシの1泊2日滞在プラン
【1日目】
まずは三条市の全体像を知ってもらうため、まちなかエリアと里山エリアを案内。見学したい業種や会社があれば適宜立ち寄る(通常は1日2〜4社ほど見学できる)。午後は似た業種や家族構成など、参考になりそうな先輩移住者との交流。KAJIで自炊滞在する場合、食材が買える店を地元の人目線で紹介。
【2日目】
住まい探し。まずはエリアごとのメリットとデメリットを説明し、住みたい環境に合わせた物件を一緒に考える。例えば子どもがいる世帯には、学校や児童館のほか、公園などの遊べる施設も考慮。空き家バンクのほか、アパートやマンションなどの集合施設も視野に入れて検討する。
【三条市】移住支援情報
移住に関する心配事をコンシェルジュが一括サポート
移住コンシェルジュがワンストップで支援。「三条おしごとナビ」や空き家バンクサイトでは、会社の雰囲気や物件の内部まで紹介し、自分に合った仕事や住まいが探しやすい仕組みになっている。20〜40代の移住者が多く、子育て施設が充実。中心市街地の空き家を使って起業したい人に対する助成金もある。
三条移住コンシェルジュ ☎0256-55-6095
地域経営課 ☎0256-34-5646
文/はっさく堂 写真/村松弘敏 写真提供/新潟県三条市
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