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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

市原隼人さんインタビュー「芝居も撮影現場も何度も嫌になったけど、それ以上に好きになって」

掲載:2022年6月号

実直に、どこか不器用そうに生真面目に、モノづくりに熱く取り組む俳優の市原隼人さん。主演を務める『劇場版 おいしい給食 卒業』が公開されます。2019年に連続ドラマ『おいしい給食』がスタート。その後、劇場版、シーズン2と続いて今回、劇場版第2弾として完成しました。この作品に市原さんが込めた思いとは? 趣味のカメラやDIYのこと、将来的な田舎暮らしの夢についても聞きました。

いちはら・はやと●1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。2001年に映画『リリィ・シュシュのすべて』でデビュー。近年の主な出演作はテレビドラマ『おんな城主 直虎』『正直不動産』、映画『太陽は動かない』『ヤクザと家族 The Family』。映画『レッド・シューズ』が今秋公開予定。

 

給食シーンではどれも3回完食!

 「私は給食が好きだ。給食のために学校に来ていると言っても過言ではない」――。真顔でそう言い切るのは、市原隼人さん演じる中学教師の甘利田幸男(あまりだゆきお)。

 『おいしい給食』シリーズでは同じく極端な給食好きの生徒、神野ゴウと「どっちがよりおいしく給食を食べられるか?」という、無言の壮絶バトルを繰り広げる。

 「甘利田は好きなものを好き!と言い、滑稽な姿をさらけ出して人生を謳歌する。その姿はうらやましく、生徒に、負けた!と素直に言えるのもすてきで」

 『劇場版 おいしい給食 卒業』の舞台は1986年。甘利田は、黍名子(きびなご)中学で3年生の担任を務める。受験より授業より、今日の献立が気になる甘利田。ようやく迎えた給食の時間、まずはみんなで校歌斉唱。給食へのわくわくが抑えきれず、曲に合わせてノリノリで踊る姿はもはやアニメのキャラのよう。全力過ぎて、なんだかカワイイ。

 「校歌に合わせて踊るシーンも、シーズン1の〝ちょっと手を動かしてみます?〞に始まり、シーズン2では毎回、どう踊ろう?と頭がぱんぱんになるくらいで。これまでのどんな感情芝居もアクションシーンも差し置いて、いちばんハードでした(笑)」

 班に分かれて食事を楽しむさまは、コロナ禍で黙食が常識の今とは遠い。市原さん自身は、「学校に行くのが大好きな子どもだった」と振り返る。

 「からだを動かすのが好きで、2歳から器械体操、水泳などをやって。小学生になってからはとにかく早く学校に行き、ボールを確保して誰かと遊びたい!と。給食は早く食べ終わるのが格好いいと思ってました。牛乳も特別好きでもないのに、牛乳じゃんけんに加わろうと一生懸命に早く食べて。当時、好きだったのはきなこパンです。給食でしか食べられない、という希少価値もありますし」

 劇中、肝となるのは給食シーン。完食までの一連と部分部分を押さえるため、どのシーンも〝3回戦〞はしっかり食べる。給食シーンの撮影では朝から晩までひたすら食べるしかない。

 「なので汁ものがあるとちょっとつらい(笑)。フードコーディネーターの方が変化球にはせず、ちゃんと給食としてつくってくださっておいしいんですけど」

 シーズン2から、よりほのぼのした駄菓子屋シーンも登場。

 「小学生のころ、学校の真横に駄菓子屋がありました。ベビースターのちっちゃい版、クジ付きのが好きで。あとブタメンを食べてる人はヒーローでしたね! カップラーメンで、ほかの駄菓子よりちょっと高くて」

 楽しげなエピソード続出も、ときはコロナ禍。本番以外は常時マスクを二重に、私語厳禁。それで多くの生徒と向き合った。

 「15 歳の夏って大きい。多感な時期に、この撮影に参加してくれたことは感謝しかないです。役者という職業も映画も、なくても社会は成立します。だからこそ、この夏を作品に費やす意義を自分で見いだしてほしくて。撮影前に〝必ず何かを持ち帰り、本気で泣いて悔しがって、本気で笑えるほど真剣に向き合ってください〞と伝えました。それで撮影が終わったあとにスタッフみんなで集まり、生徒に手づくりの卒業証書を渡したんです。曲をかけて、一人ひとりに。みんな号泣してました」

 市原さん=甘利田先生!? この生真面目さ、モノづくりへの誰よりも熱い思いが市原隼人という役者なのだろう。完成した映画の感想を聞くと、表情はさらにキリッと引き締まった。

 「僕自身がコロナ禍、大衆向けエンターテインメントの重要性を改めて考えました。それで監督と、親が子どもに見せたくないシーンはなしにしましょうって。暴力的なもの、押し付けがましいもの、子どもが理解に苦しむ遠回りな表現もしたくない。それでいて妥協は一切なしで。〝キング・オブ・ポップ〞と呼べるような王道のコメディでありたい。そこに食べ物についての知識や教養を培う要素も入り、物語性の深みも増しています。まさに極上のエンターテインメントだ!と、思っているんです」

甘利田先生と、生徒の神野ゴウ(佐藤大志)は、「独自のアイデアでいかに給食をおいしく食べるか?」を競うライバル同士。ナポリタンとかきたま汁、さてどう食べる?

 

ぜいたくだと思う、「時間の無駄遣い」

 映画は全編、埼玉でロケを敢行。のどかな田舎の風景が続く。

 「都会のコンクリートジャングルより好きです。前から1人でぷら〜っと車やバイクで箱根に行き、富士山や湖を眺めたりするのが好きで。ずっと何かに追われるような生活で、時間の無駄遣いってぜいたくだなと」

 自然にひかれるのには、俳優という仕事にも理由があった。

 「芝居ってどれだけ努力しても噓っぱち。俳優は虚像で、芝居をして噓をついている申し訳なさがあります。それで本物のドキュメント、完全なノンフィクションは人間が手をつけていない空間かなと。どんな建造物も在り方より見せ方を大切にするようだけど、自然はあるがまま。誰かの意思が入らない場所でゆっくりする時間が、年齢を重ねてもっと好きになりました」

 趣味のカメラも、そうした思いに重なる。

 「記録する過程が好きで、そのままを撮りたい。目線があるものもいいけど、誰かを何かを追いかけていたい。最近は山にこもって何かを撮りたいとずっと思っています」

 明日のことは一切考えず、時計も携帯電話も置き、自然のなかでテントを張って「時間の無駄遣い」をしたい。その先には、田舎で暮らしてみたいという思いも。

 「のんびりと自給自足、野菜をつくるとか……。イチゴの栽培って難しいのかな? イチゴがいちばん好きなんです」

 甘利田はロールケーキのイチゴだけ取って食べてましたね?と水を向けると、「食べたくなって、本番で食べちゃいました!」と心からおかしそうに笑う。自由な試行錯誤で役柄だけでなく、料理やDIYとモノをつくることを日々楽しんでいる。

 「天板を買ってきて、脚は自分で考えて発注してテーブルをつくるとか。コンクリートも好きですが、やっぱり木に囲まれていたくて。料理も好きで、包丁は8本持っています。普通の三徳包丁や牛刀と、自然に増えていく。道具に凝っちゃいますね。値段の問題ではなく、刺身ならスパッと切れたら口当たりが全然違いますから。用途に合い、自分の手に合うものがいい」

 築地で買い物をして朝ご飯をつくるのもしょっちゅう。

 「シンプルなペペロンチーノを何十回とつくったりしました。手でつぶしたりブレンダーを使ったり、ニンニクをどうなじませるかをいろいろ試したら、結局よくわからなくなっちゃいましたけど」

 とにかく凝り性。やり始めると、とことんのめり込む。役者としてのからだづくりもしかり。

 「普段は毎日、ほぼ同じようなものを食べています。朝は卵5個とプロテイン、あと鶏の胸肉や脂身の少ないステーキ。でも何でも食べていいチートデーにはジャンク、ジャンク、ジャンク! それでトレーニングが朝のルーティンです。起きたらまず有酸素運動。そこから(バックシートの角度を変えられる)インクラインベンチ、ダンベル、腹筋を鍛えるクランチ、懸垂するマシン。それで一日が始まります」

 筋トレに2時間かけていたら体重が落ち過ぎてしまい、コンパクトに終えるようになった。

 「芝居をしていて、体力のなさを痛感したことが多くて。メンタル的にダメージを負ったこともあり、心身ともに鍛えようと思いました。常に自分を超えようとすると妥協がなくなり、少しの余裕が生まれる。頼りになるのが日々のトレーニングなのです」

 サボろうと思ったことなんて何度もありますよ!と聞いてほっとするほどのストイックさ。

 「プレッシャーもあって、20代前半は部屋の隅っこでしくしく泣いたり、心のバランスがとれずに何度ももどしたりしました。そういう時間を含めて達成感を味わえる、しっかり向き合って活を入れてくれる現場が好きです。段々と自分でコントロールできるようになったかはわかりませんが、絶対に慣れてはいけないなと。自分に課題を与え続けるのがトレーニングで、サボったら自分に負けてしまう。芝居もそうなることにつながるような気がして。だから妥協せずにやり抜こう!と思えるんです」

 

芝居に翻弄される自分も嫌いじゃない

 彼の演じることへの一途な思いは、画面越しにもびんびん伝わってくる。お酒にはカラっきし弱い甘利田先生がウイスキーボンボンで泥酔するくだりで見せる酔拳の切れ味の鋭さ。「ジャッキー・チェンが好きで、動きは入っていた」と言う彼が思いついたもの。40 度を超える真夏の撮影の合間、「見られたら恥ずかしいから」と車の陰で、汗だくで練習した成果だった。

 「先日、学校に行けなくなってしまったという子が『おいしい給食』を大好きになってくれたと知って。甘利田として手紙を書いて送ったら、涙を流して喜んでくれたと。本当にうれしくて! ああ役者の醍醐味ってここにあるんだな、と涙が止まらなかったです。そんな作品に出合えた自分は幸せ者だなと」

 これからも、例えば「唯一現実を忘れさせてくれる乗り物」という古いバイク、愛車のZ1に乗って骨に響く振動を味わったり。いまだに交流が続く小学時代からの友人との時間を持ったり。ときに俳優の自分をちょっと脇に置く時間をつくり、撮影に入れば全身を投じるように役へのめり込んでいくのだろう。

 「芝居をしていないと、何のために生きてる?と気持ちが落ちる。不安定になる自分もいます。でもそんなふうに、芝居に翻弄される自分も嫌いじゃないんです。芝居も撮影現場も何度も嫌になったけど、それ以上に好きになって。好き嫌いを通り越し、よくわからない感じです(笑)。人生の3分の2を自分ではない人間を演じてきて。どれだけうれしいことがあっても悲しい涙を流さなきゃいけなかったり、独特な世界にいるなあと。でも観てくださる方に楽しんでいただけるのが醍醐味で、そのためにできることは何でもしたい。その欲はずっと収まらないので、これからもどんどんいろんなことに挑戦していきたいですね」

 

『劇場版 おいしい給食 卒業』
(配給:AMGエンタテインメント)

●監督:綾部真弥  ●企画・脚本:永森裕二  ●出演:市原隼人、土村芳、佐藤大志、勇翔(BOYS AND MEN)、登坂淳一、いとうまい子、直江喜一、木野花、酒井敏也ほか  ●5月13日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開

黍名子中学3年の担任、甘利田幸男(市原隼人)は給食が大好き。頭の中は今日の献立のことでいっぱいで、学年主任の宗方早苗(土村芳)から「この前の話、私なりに考えます」と言われても、なんの話かピンとこない。今日も、甘利田同様に給食好きの神野ゴウ(佐藤大志)との“うまそげ対決”に熱が入る。ある日、給食メニューの改革が決定。甘利田は素性を隠して試食会に参加する。
ⓒ2022『おいしい給食』製作委員会 https://oishi-kyushoku2-movie.com/

 

文/浅見祥子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ) 
衣装協力/73r

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