鳥取県内で最大の面積を有し、日本一の鳥取砂丘がある鳥取市。家族のために、東京での仕事にピリオドを打って30代半ばで移住した山内さんは、初の転職で住宅営業職に就き2年目には店長に。新天地で順調に夢をかなえる、その秘けつと暮らしをリポートする。
掲載:2022年6月号
都会暮らしの違和感を解消。鳥取での転職で天職に会う
日本海と中国山地に面した鳥取市は、四季をはっきり感じられるまちだ。農林水産業や製造業のほか、県庁所在地だけにサービス業などの第3次産業も盛んで、就業の選択肢も広い。
2020年夏に東京から鳥取市へ移住した山内建治さんは、住宅販売会社で新築戸建販売の最前線で活躍する日々を送る。前職場は大手家電販売店だった。
「やりがいもあり、売上目標も達成して部門責任者にもなって東京での仕事は充実していました。ただ、満員電車での通勤や狭い住宅環境など、じつは東京暮らしに違和感がずっとありました」(建治さん)
当時、2人目の子どもを出産し育休で鳥取市へ里帰りしていた妻・雅子さんは、「東日本大震災も経験して、もし大都会で災害が起きてインフラが止まったとき、2人の小さな子どもと暮らしていくのは難しいと感じていました」と、東京で暮らすことへの不安が大きくなっていた。2人で話し合い、建治さんは学生時代から18年間続いた東京生活にピリオドを打ち、鳥取市への移住を決心したのは、20年1月のことである。
30代半ばで4人家族での移住に、仕事探しは最重要事項。建治さんが相談したのは「ふるさと鳥取県定住機構」。移住者から年間1000件を超える就職相談を受け、親身な相談対応と企業とのマッチングにより、20年度は82件の内定につなげた実績を持つ。建治さんは、コロナ禍の東京で勤めながら電子メールでやりとりし、接客販売のスキルが活かせて給与や休日などの待遇、そして子育てができる環境も考慮して、マッチングする地元企業を探してもらった。
「地方で転職活動をする際は、お金、暮らし、子育てなど優先順位を家族で共有することが大切です」と、ふるさと鳥取県定住機構就職相談員・大田さつきさんはアドバイスする。
紹介された企業のなかで建治さんが大きな関心を持ったのが、鳥取市に本社を置く住宅販売会社「㈱ヤマタホーム」。理由は異業種転職者の多さだった。
「前職がSEやパティシエなど、住宅販売業とは異なる方が活躍されていて、ここで働いてみたいと強く感じました」
建治さんはオンラインで面接を受けた。最終面接は鳥取市の本社で行い、社是の「鳥取で一番、鳥取の人々を幸せにする」に大いに共感して入社を決意。20年8月末で前職を退職。先にUターンしていた雅子さんの実家に家族と同居して、翌9月には新天地で住宅営業の仕事をスタートした。
前職と同じ「販売業」だが売るのは新築住宅。価格はもとより購入過程や方法も異なる業界だったが、前職の経験が建治さんを支えた。
「私が新入社員への研修で必ず伝えていたのが〝入社して100日が勝負〞という言葉でした。上司から〝4カ月で新築3棟販売〞という目標を与えられたので、達成するために100日ロードマップを発表して、自分の目標としました」
土地勘もなかった建治さんだが、人と話すことが好きという持ち前のコミュニケーション力で、見学会で出会った人から人脈を広げた。上司のアドバイスや紹介などのサポート、さらに家電の豊富な知識を活かし、テレビの大きさからリビングの広さを提案するなど「お客さまの暮らしを常に気にかける」提案型営業で、見事目標を達成。入社2年目の今年4月からは、鳥取店の店長に昇格した。
「山内さんはとにかく意欲的。お客さまへの積極的なお声がけやアフターケアも手厚く、社内でも積極的に発言や提案をしてくれます」と、上司にあたるヤマタホールディングス㈱ユニットマネージャー・磯邉昌哉さんは、建治さんが会社に活力をもたらすことに期待を寄せる。
じつは建治さんの出身は熊本県益城町。16年の熊本地震で実家は甚大な被害を受け全壊し、両親は仮設住宅での暮らしを余儀なくされた。実家を再建したとき、建治さんは「家を建てることの大切さを心から強く感じました」という。その建治さんが就いたのは、家を建てる仕事。
「東京にいるときは待遇も含めて〝地方でやりがいのある仕事はできない〞と思っていましたが、今は〝鳥取でこんなにやりがいのある仕事ができるとは!〞と正直驚いています」
念願の見守り保育も実現。自然体で育つ3人の子ども
鳥取市に住んで半年後の21年4月、山内さん一家にうれしい出来事があった。三男・鉄平くんの誕生だ。3人の子どもは自然体験活動を基軸にした保育を行う「企業主導型保育園・鳥取・森のようちえん・風ふうりんりん」に週5日通う。入園は雅子さんのたっての希望だった。
「鳥取で子育てをするなら、子どもの意思が尊重される見守り型の保育を望んでいました。3人とも園ではよく遊んでいますね」と、雅子さんは故郷での理想の子育てに満足。市内は公園も多く、郊外には遊具施設のあるスポーツパークやカニや魚が見学できる水族館「賀露(かろ)かにっこ館」など、無料で遊べる場所がたくさんあるのもうれしいとか。建治さんには鳥取だからこそ家族でやりたいことがある。
「鳥取砂丘の近くでキャンプをしたいんです。道具はあるのであとは行くだけですが、今は仕事が忙しくてまだ行っていません(笑)。でも必ず行きますよ!」
数々の目標を達成している彼のこと、家族5人の楽しい思い出をつくってくれるだろう。
人脈が広げられる地方都市。待望のマイホームも現実に
現在、建治さんは社内のSDGs委員会の委員長として地域貢献の任務にも携わる。大切にしていることは「人に寄り添うこと」だという。
「地方は人脈を広げやすい。異業種からの転職でも大いにチャンスがある」と建治さんは実感している。また㈱ヤマタホームは、オンライン住宅説明会や社員のリモートワークにも積極的だという。これから地方で転職活動をする人は、柔軟な就業スタイルに対応している職場かどうかもチェックするとよいだろう。
今、山内さん一家は「価格と面積から東京ではまず無理だった」(建治さん)という待望のマイホームを新築中。鳥取市への移住転職は、新たな幸せをつかむためだったのだ。
【鳥取県】「とっとり仕事・定住人材バンク」で就労サポート
鳥取県内(鳥取市、米子市)に就職相談専門員が在籍し、オンラインも含めて鳥取県内への就職をサポート。移住希望者が「とっとり仕事・定住人材バンク」に登録すると、①求人、合同説明会などの就活情報の提供 ②就職相談、仕事紹介 ③企業からのスカウト情報も受け取れる。「ふるさと鳥取県定住機構」では県内の人材募集情報を収集しており、経歴や希望職種、求める暮らしに合わせて就職相談員からの提案もしてもらえる。
問い合わせ/ふるさと鳥取県定住機構
☎ 0120-307-238
鳥取市の移住&子育て支援情報
◎市内13カ所に子育て支援拠点を設置
「地域のみんなでする子育て」をモットーに、民生児童委員や地域ボランティアが協力して子育て支援に力を入れている。地域子育て支援拠点は市内に13カ所あり、子育て世代のネットワークも充実。本文で紹介した「森のようちえん」など自主性を伸ばす保育を行う園もある。このほか日曜・祝日の休日保育や妊娠・出産包括支援も行っている。
問い合わせ/鳥取市定住促進・Uターン相談支援窓口
☎ 0120-567-464
https://tottori-iju.jp/
◎鳥取市でワークライフバランスを充実
県内在住の妊婦と18歳未満の子どもがいる家庭には「子育て応援パスポート」を交付。スーパーをはじめ協賛店舗で商品の割引や買い物ポイントの加算、授乳室の利用など各種子育て応援サービスが受けられる。移住相談窓口「ふるさと鳥取県定住機構」では、近年高まる「ワークライフバランスの充実のニーズ」に応えるサポートを心がけている。
問い合わせ/ふるさと鳥取県定住機構
☎ 0120-841-558
https://furusato.tori-info.co.jp/
文/植田英樹(鳥取情報文化研究所) 写真/齋藤 愛
写真提供/ふるさと鳥取県定住機構、鳥取市
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