リゾート地として名高いニセコ町。2001年に全国で初めて住民自治による自治体運営を定めた基本条例を策定、14年には「環境モデル都市」に選ばれるなど、SDGsにつながる取り組みを進めてきた。2018年には「SDGs未来都市」に選定され、環境配慮型の新街区を官民連携でつくる。
掲載:2023年9月号
北海道ニセコ町(にせこちょう)
道央西部、北にニセコアンヌプリ、東に羊蹄山を望む。年平均気温6.7℃。冬の積雪深は市街地で2mを超える年もある。パウダースノーの降るスキーリゾートとして知られ、国内外から年間100万人以上が来訪。人口約5000人。札幌から車で約2時間、高速バスで約3時間。
環境配慮型の新街区を、官民連携と住民参加で
新街区「ニセコミライ」は町の運動公園に隣接、東に羊蹄山を望む。
初代「SDGs未来都市」の1つとして選定されたニセコ町。町の人口は微増しているが、住宅に空きがなく「町内に住みたくても住めない」という声がある。町内企業に町外から通勤する人は500人ほど。また、ここに移住して広い家を建てた町民がその後高齢化し、小規模な住居への住み替えを希望しても、物件を見つけるのは難しい。
住宅不足という課題に、町はSDGs未来都市として取り組むことにした。国の「自治体SDGsモデル事業」に選ばれた「NISEKO生活・モデル地区構築事業」は、市街地近郊の約9haに約450人が暮らせる新たな街区を開発するもの。高気密・高断熱住宅、発電と熱利用のハイブリッド、太陽光発電と蓄電池の導入、それらを効率的にマネジメントするシステムの構築など、企業との実証実験も行いながら最新の技術を取り入れてCo2排出を減らし、エネルギーコストを大幅に下げる。
第1、2工区は2026年ごろまでに完成予定。分譲と賃貸の低層木質化マンションを中心に開発を進める。
各戸の除雪負担を軽くするには集合住宅が有利。駐車場には屋根を付け太陽光パネルを設置する。
田中健人さん。札幌市でWEB制作やマーケティング支援などの会社を経営、
ニセコ町で「ニセコミライ」のまちづくりに携わる。
事業を進めるのは行政だけではなく、町が38%、町内事業者が34%、専門家集団のクラブヴォーバン(※)が28%の比率で出資して設立した「株式会社ニセコまち」。取締役の1人、田中健人さん(32歳)はニセコ町と札幌市とで二地域居住する。
「持続可能なまちづくりの先進事例〝ヴォーバン住宅地〞の勉強会を企画して以来、ニセコ町の皆さんにお世話になっています。早くから移住者が多く、コロナ禍前には人口の約8%が外国人。この町には外からの人に寛容な気風があります」
情報共有と住民参加はSDGsはもとよりニセコ町の基本理念。計画についての町民説明会は約40回を数え、2度のアンケート調査も行った。新街区のネーミングは町民から公募。集まった100件以上の候補のなかから「ニセコミライ」に決まった。
街区の完成は10年ほど先。住む人の声を聞きながら柔軟に計画を進める。住民同士の新たなコミュニティづくりには、農園など広くとった共有地が生かせればと田中さんは言う。
「『ニセコミライ』から似た取り組みが各地に広がっていくような、魅力あるまちをつくっていけたらうれしいですね」
(※)一般社団法人クラブヴォーバン ドイツ・フライブルク市の“ヴォーバン住宅地”をモデルとして、日本国内で脱炭素社会に対応した「持続可能なまちづくり」を目指し、さまざまな分野の人が学び集うネットワーク。
「ニセコミライ」には共有の畑もある。今年はみんなでエダマメづくりに挑戦中。
「ニセコミライ」で行われた町民参加の冬のイベント。除雪で集めた雪山で遊んだ。
この春町内に完成した「NISEKO BOKKA」。ニセコミライの次世代高機能住宅と同タイプの集合住宅で、オープンハウスも行っている。
実証実験で建てた2階建ての集合住宅。超高断熱・高気密により、エアコン2台で建物全体の暖房を実現。
文/新田穂高 写真提供/ニセコ町、株式会社ニセコまち、川村剛弘
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