「播州織」をはじめとした商工業で栄え、日本列島の中心「日本のへそ」に位置する西脇市。日本経済新聞社が2022年9月に実施した「全国市区SDGs先進度調査」の総合ランキング(人口5万人未満の自治体)では、20年の前回調査に続いて1位に輝いた。
掲載:2023年12月号
兵庫県西脇市(にしわきし)
兵庫県の中央部、東経135度と北緯35度が交差する日本列島の中心に位置する人口約4万人のまち。山々に囲まれ、加古川、杉原川、野間川の3本の川が流れる。地場産業「播州織」や「播州釣針」の産地として栄え、「黒田庄和牛」や酒米「山田錦」は全国的に高い評価を得ている。大阪から電車で約1時間45分、車で約1時間20分。
地域産業で育まれた資源を、まちづくりにフル活用
循環型農業の拠点として2009年にオープンした土づくりセンター「ゆめあぐり西脇」。黒田庄和牛の排せつ物を主原料に、完熟たい肥の生産、有機土壌化を進めている。
循環型農業を中心とした豊かな農村環境づくりなどの取り組みが評価された西脇市は、2021年に「SDGs未来都市」に選定された。
「ほとんどが神戸ビーフとなる地域ブランド牛『黒田庄和牛(くろだしょうわぎゅう)』の排せつ物で完熟たい肥をつくる土づくりセンターができたことによって、環境に配慮した循環が生まれました」と政策推進課の板場逸史(いたばいつし)さんは話す。
酒米「山田錦(やまだにしき)」の産地でもある西脇市では、20年に名古屋市の萬乗醸造(ばんじょうじょうぞう)が新たな酒蔵をオープン。酒米づくりから醸造まで西脇市内で一貫生産した日本酒が誕生し、ふるさと納税でも人気No.1だ。米や野菜をつくる農業に、土づくりセンターでできた完熟たい肥を使用し、安心安全な農作物を生産する。副産物の稲わらや酒かすは、黒田庄和牛の飼料として活用している。
約9割が神戸ビーフに認定されている「黒田庄和牛」。農業や酒づくりで出た地元産の稲わらや酒かすはウシの飼料に活用。
黒田庄和牛の排せつ物を活用して完熟たい肥の生産・有機土壌化を進めている。また稲わらや醸造過程で発生する酒かすは飼料に。西脇市では、付加価値を生みながら環境に配慮した循環型農業に取り組んでいる。
農業や酒づくりに欠かせないのが水資源。加古川の源流にある門柳山(もんりゅうさん)は、サントリーホールディングスが水源涵養(かんよう)エリアの森として「天然水の森 ひょうご西脇門柳山」と命名し、地域住民や林業関係者と連携して、森の保全に取り組んでいる。また、使用済みペットボトルを再びペットボトルとして利用するリサイクル活動も実施し、焼却ゴミの削減につながっている。
伝統産業である「播州織(ばんしゅうおり)」では、自然との共生を目指し、これまで廃棄していた残糸やハギレを再利用したり、販売したりとさまざまな活用法を考案した。生地の生産だけでなく製品までつくり上げようと、20人以上の若手デザイナーの移住・定住を応援してきた。
西脇市内北東部にある黒田庄町門柳の風景。このあたりはサントリーが「天然水の森 ひょうご西脇門柳山」と命名し、豊かな森づくりが進められている。
雨水を吸収して水源を保ち、河川の流量を調整する水源涵養林。加古川の源流にある黒田庄町門柳の山々は水源涵養林として高い機能を持つ。
約230年前からつくられている「播州織」。以前は廃棄されていた残糸やハギレを収集し、販売やワークショップに活用。
多くの市民が利用する複合施設「Miraie(ミライエ)」では、市内の企業が連携してSDGsを啓発するイベント「みらフェス」を開催。「企業にとってもSDGs推進は重要です」と板場さんは話す。
誰もが住み続けられるまちづくりを目指し、21年からは低料金で市内を巡る乗り合いタクシー「むすブン」の運行が始まった。事前電話予約制で、目的地へ送迎してくれるデマンド型交通で、高齢者や塾通いの中学生の移動も支援している。一昨年、完成した市役所の新庁舎にはトレーニングジムを併設し、個別プログラムに沿って有酸素運動や筋力トレーニングに取り組む「健幸(けんこう)運動教室」を開講。妊婦の健康を考えた教室も始まる。
このほか、家庭などで余った食品や日用品を回収して必要とする人に無料配布する「フードドライブ」や、障がいのある人が農業や特産品の生産などに携わる農福(のうふく)連携も推進している。
「困ったときには助けられるように、誰もが孤立せず、人と人とのつながりを持ちながら楽しく生きることをサポートするのが行政の役割。住み慣れた地域でいつまでも健やかで幸せに暮らせるまちを目指しています」
昭和初期に建てられた木造校舎の西脇小学校。保存改修し、現役校舎のまま国の重要文化財に指定された。校舎は古いが、ICTを活用した学校教育が受けられる。
西脇市のSDGsここがスゴイ!
循環型農業をはじめ、早くからSDGsの取り組みを推進してきた西脇市。市民の関心も高まっている。
●自然と人にやさしい循環型農業で
神戸ビーフになる「黒田庄和牛」の出荷を確立
●子どもからお年寄りまでライドシェアで市内の移動を支援
●健幸都市「スマートウエルネスシティ」を推進
●もったいない精神から播州織の残糸・残布を活用
「西脇ならではのSDGsで取り組みの効果を高めていきます」(政策推進課 板場逸史さん)
西脇市のここがオススメ!
「まちの未来につながる理想の居場所になるように」との願いが込められた茜が丘複合施設「Miraie」。こどもプラザや図書館などがある。
西脇市のA級グルメ「黒田庄和牛」のステーキ。さらに認知度を高め、もっと食べてもらいたいと、西脇ローストビーフなど新しいグルメ開発も進めている。
西脇市移住支援情報
移住コーディネーターがオンラインでの相談にも対応
田舎の風情がありながら、神戸や大阪まで車で約1時間半とアクセス良好の西脇市。まちの中心部に都市機能が集中し、便利な環境が整っている。空き家バンクで物件を紹介するほか、提案形式で空き家の無償譲渡が受けられる「訳あり☆0円物件」も。オンラインでの移住定住相談も受け付けている。
問い合わせ:西脇市移住・定住促進室 ☎0795-22-3111
西脇市の移住・定住促進サイト「ほっこり、のんびり にしわきごこち」では移住者の声も掲載。
「西脇市は便利なちょうどいい田舎です」(西脇市移住コーディネーター 小林 勲さん)
文/田中泰子 写真提供/西脇市 イラスト/関上絵美・晴香
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