中世から海外交易の拠点や商都として発展を遂げてきた「自由・自治都市」が堺市。「ものの始まりなんでも堺」といわれる先取りの精神は、SDGsの取り組みにも息づく。企業と市民一体型の小さな取り組みが相乗効果を生み、大きな動力として結実しつつある。
掲載:2023年12月号
【大阪府堺市(さかいし)】
堺市は大阪府泉北(せんぼく)地域に位置する人口約81万人の政令指定都市。世界最大級の墳墓である仁徳天皇陵古墳などの百舌鳥(もず)古墳群は世界遺産に登録。茶の湯を大成した千利休、「情熱の歌人」こと与謝野晶子の故郷としても知られる。関西国際空港から南海本線特急で約30分。
会員同士のマッチングを課題解決の推進力に
ステージイベントとして開催されたゼロカーボンロックフェスには、市外を含めた高校の軽音楽部が参加。そのなかでSDGsソング「街空」が披露された。
刃物、線香、自転車などの伝統産業を守り継ぐとともに、多くの企業が集積する商業のまちとして栄えてきた堺市。2009年の「環境モデル都市」選定に続き、18年には大阪府内初の「SDGs未来都市」に選定された。基盤となるのは21年に設立した会員組織「さかいSDGs推進プラットフォーム」だ。経緯について政策企画部の眞下雅貴さんは次のように説明する。
「古くからものづくりの拠点である堺市は、ポテンシャルの高い中小企業が多く、学校での社会活動なども盛ん。それぞれが持つアイデアや得意分野を活かすため、SDGsという共通の目標をきっかけとしてマッチングすることが目的です」
現在の会員は約1300組織にまで拡大。SDGsに取り組む意欲があれば誰でも無料で参加できることに加え、異業種の会員同士がつながることで新たな価値を創出できるという利点が認知され、ネットワークの拡大に結び付いている。
市からは会員に対して積極的に提案を行ってきた。例えば「脱炭素型SDGs演奏会」は、コロナ禍で公演の場を失った高校の軽音楽部の悩みを知り、太陽光発電の導入を進めていたマリーナ運営企業に電力と場所を提供してもらい、運送会社による楽器運搬の協力を得て実現。秋の恒例行事として定着し、市民に喜ばれている。
「街空」を演奏した皆さん。バンド「スクう空氣」のメンバー(後列)が作曲、「泉北高校K-ON楽部」のメンバー(前列)が作詞を担当。
「SAKAI SDGs fest.」の会場になったイオンモール堺鉄砲町の赤レンガ広場。3日間でプラットフォームの40会員が参加し、盛り上がった。
「骨格に据えるのがSDGsの17番『パートナーシップで目標を達成しよう』です。会員の層が厚みを増し、できることの幅が広がってきました」
と、眞下さん。なかでも市民主導の取り組みを象徴するイベントが、堺市のSDGs月間である9月に、プラットフォーム会員の手で開催された「SAKAI SDGs fest.」だ。ステージイベントでは、泉北高校とバンドのコラボで生まれたSDGsソング「街空」を初披露。同時に販売されたCDの売り上げの半分は、まちづくり活動「泉北レモンの街ストーリー」へ寄付される。ステージ用の電力は、堺工科高校定時制課程の生徒たちが手がけた廃油発電機で発電。燃料として家庭の廃油を回収するなど、一般参加者もSDGsを意識できる工夫が凝らされていた。
ほかのイベントでも目玉コンテンツになっている「ぐるり0円物々交換会」は、各自が誰かに引き継ぎたい衣類や雑貨を持参し、ほしいものを持ち帰るというもの。もともと市外のアパレル会社が各地で開いていたものに市の担当者が目をつけ、会員として参入してもらった。
市内外にこだわらず「よいものはどんどん取り入れよう」という姿勢が堺市の大きな特徴。最近は市の橋渡しがなくても会員同士がつながる、自走型の活動へと進化してきたという。
子ども向けワークショップを実施した「学生服リユースShopさくらや」は、不要になった学生服を回収し、安価で販売。ひとり親家庭の支援として、さらに半額で提供している。
「泉北をレモンの街にしよう」と取り組む「泉北レモンの街ストーリー」ブース。泉北レモンで特産品づくりをすすめ、泉北レモンクラフトコーラなどを製造・販売。
堺工科高校定時制課程では生徒たちと一緒に廃油発電機を活用し、ステージで使う電気を供給。「プラごみから油をつくる機械もつくりました」と保田光徳先生。
泉北高の生徒とコラボしたSDGsキッチンカーも。廃棄されていた特産のコマツナを粉末化し、クレープの生地に練り込んだ商品を開発した。
堺市のSDGs ここがスゴイ!
活動の核となる会員組織を立ち上げただけでなく、新規会員の掘り起こしやマッチングが大きな成果を生んでいる。
●いち早く「環境モデル都市」「SDGs未来都市」「脱炭素先行地域」として取り組む
●企業、団体、教育機関などが対象の登録料・会費無料の会員組織「さかいSDGs推進プラットフォーム」を設立
●SDGs担当職員が市内に限定することなく、SDGsに熱心な企業や団体を発掘
●会員同士のマッチングで相乗効果を創出
「市役所1階にあるSDGs自販機は賞味期限が近い商品を安く提供。飲料メーカーと地元高校生のコラボで実現しました!」(政策企画部 眞下雅貴さん)
堺市のここがオススメ!
都市のイメージが強い堺市だが郊外では農業も盛んで新鮮な野菜が手に入る。特にコマツナの生産量は大阪府内でもトップクラス。
「堺まつり」に代表される伝統的な行事だけでなく、「ぐるり物々交換会」など地域と連携した新しいイベントも続々と誕生している。
堺市移住支援情報
伴走型の子育て支援や空き家購入費補助を用意
妊娠時からの伴走型の子育て支援や出産・子育て応援給付金、小・中学校で力を入れる英語教育など、子育て世帯が安心して暮らせる環境を整えている堺市。住宅支援では「堺市子育て世帯等空き家活用定住支援事業補助金」として、若年世帯または子育て世帯を対象に最大120万円の空き家(中古住宅)購入費補助を実施している。
●お問い合わせ先/住宅施策推進課 ☎072-228-8215
https://www.city.sakai.lg.jp
認可保育所ではJAの協力を得て田植え体験なども行っている。
三味線の販売店と小学校が連携し、子どもたちに三味線体験授業を実施。
「未来を担う子どもたちのための施策も充実させています!」(ハニワ部長)
文・写真/笹木博幸 写真提供/堺市
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