苦難の道程を乗り越えて、ようやく農園が完成!
元プロ野球選手で、親も農家ではない。相手が素人だとわかると、農地の金額を吹っ掛けられたり、関係者から嫌みを言われることも一度や二度じゃなかったという。
「見積もりを取って、いざ契約となったときに、相場の120倍の賃料を吹っ掛けられたりしました。こちらは当然、市での平均の金額で貸してくれると思うじゃないですか。
え え え え え え~ って思いましたよ!(苦笑)」
心ないやり取りに何度も気持ちが折れそうになることがあった。
相談に乗ってくれるはずの先輩農家にも「親は農家なのか?」「なんで農業なんかやるんだ?」「そんなに農家は甘くねえよ!」と言われる毎日。元プロ野球選手という経歴があることで、色眼鏡で見られてしまうのか、周囲の風当たりは想像以上に厳しかった。
遠くから見てもいちご農園とわかる看板は、土地を耕してからすぐに設置。この看板を励みに、農園のオープンに間に合うように努力したのだそう。
三ツ間農園では直売も行っています。
そんななかで出会ったのが、都内の強豪校でサッカーを続けてきたという3歳上の農家だった。同じ元スポーツマンということもあり、引退後のセカンドキャリアについても理解を示し、三ツ間さんに農業のイロハを教えてくれた。
「僕も家族で縁もゆかりもない横浜にやってきて、『やれる、やれない』ではなく、やらないといけなかったんです。そしたら『それだけやりたいなら』と言ってもらえて、気持ちを試されたわけではないですけど、そういうことがありましたね」
背景にあったのは、農家を始めたにもかかわらずハウスを残したまま夜逃げ同然で農業を離れて行った一部の若者の存在。
「『あっ、そういうことかっ!』って後々わかりました。農家のみなさんには、せっかく就農をサポートしたのに、途中で離脱してしまう人がいるという、そうしたトラウマがあって、新規参入の農業者を疑ってくるんだなと……。」
厳しい現実に、心ない言葉の雨、普通の若者だったら逃げ出してしまっていたかもしれないが、そんな三ツ間さんを支えたのは、育成選手枠から支配下契約を勝ち取ったプロ野球選手時代の経験と、野球強豪校ではない大学から独立リーグを経験し、厳しい状況のなか、プロ入りを勝ち取った雑草魂だ。
「独立リーグに行くまで、自分は一流どころで野球をやっていなかったんですけど、(プロの)野球選手になりたかったし、なれるもんだと勘違いをしていたんです。
でも、大学3年生で就活を始めたときに『自分は、なれない立場の人間なんだな……』って現実をみるようになって、そこで一度は夢を諦めるすごく悔しい思いをしたんです。
それでも諦めきれずに、自分を振り返ったときに『まだまだ自分は本気で野球に向き合えていないのでは?』と気づいたんです。人生をかけて、あと1年だけ本気で野球に取り組んでみようって思ったんです。それもあって中日ドラゴンズに行けたんですけど、そのときに本当の『本気』を知りましたし、これだけすべてを賭けないとプロにはなれないんだなと感じましたね。だから農業もそこは一緒だなって。人生のすべてを賭けないといけないなって」
三ツ間農園で初めて収穫されたいちご。一番花から採れた果実が最も美味しいといわれています。(写真:三ツ間さんのInstagramより)
後には引けない思いもある。三ツ間さんがまだ現役の野球選手だった2020年の春、世界中で新型コロナウイルスが拡がった。国からは緊急事態宣言が発令され、あらゆるプロスポーツが活動を自粛。三ツ間さんを含めた選手たちは外出もままならない日々を送ったが、そんなとき家族の心のケアとなったのが、マンションのベランダの一角を使ったいちご栽培だった。
「そのいちごを息子が食べたら『美味しい』と笑ってくれて、それが本当に嬉しかったんですよね」
そこから三ツ間さんは家庭栽培を続けた。その生活は現役最後まで続き、そんな姿を見てきた妻の法子さんは、セカンドキャリアで悩んでいた三ツ間さんに言う。
「野球選手は、なかなかなりたくてもなれない職業。好きなことを仕事にできて、プロにまで行けたということは、人とは違った努力ができる人なんだと思う。私から見て、野球以外で熱中していることと言えば、息子のためにいちごを作っている姿だと思う」
法子さんは、三ツ間さんが中日を戦力外になってから、いちご農家がオープンするまでの約2年半、都内の会社に働きに出て家計を支えた。
今年で5歳になる息子の伊吹くんも“パパのいちご”ができるのを心待ちにしていた。
「息子が最近、まだ赤く染まっていない緑のいちごを『食べたい』と言うんですよ。『まだ酸っぱいからやめておけ』と止めるんですけど、自分でとって食べちゃってね。『美味しいよ。パパが一生懸命に作ったやつだから美味いんだよ』とか言ってくれるんです。それがもう嬉しくって……(泣)」
※2023年末、いちごがまだ熟していない時季に取材しています
「息子のこの笑顔のためにセカンドキャリア頑張ってきました。今シーズンは色んな人の笑顔を見られるといいですね」(写真:三ツ間さんのInstagramより)
次はこの笑顔を自分の家族だけでなく、多くの家庭に届ける番。ブルペンからビニールハウスに居場所を変えた男は万全の準備を整えて、農園というマウンドへ向かう。
三ツ間農園
https://mitsumanouen.jp/
Instagram:@mitsuma_takuya_43_15
【完全予約制】
プレミアムいちご食べ放題(イチゴ狩り)
コンデンスミルク無料!(おかわり自由)
制限時間:30分
料金:大人1名(小学生以上)…¥4,300、子ども1名(1歳から幼稚園児まで)…¥1,300
開催期間:1月中旬〜5月下旬
営業日:土曜日・日曜日・祝日のみ(※平日は不定期開催予定)
営業時間:10:00〜15:00
①10時/②11時/③12時/④13時/⑤14時
※1日5回のタイムテーブル(定員:1回につき18人まで。食べるいちごがなくなり次第終了)
予約方法:完全予約制です。ホームページから予約してください。6名以上の方は電話で予約してください。(080-6260-9883)
※いちごの状況によって価格が変更される場合がありますので、随時ホームページか電話で確認してください。支払いはキャッシュレス、QR決済、現金に対応しています。
住所:神奈川県横浜市泉区和泉町金子山5012-2
☎:080-6260-9883
【交通】
・相模鉄道いずみ野線・いずみ野駅から徒歩10分。
・神奈川中央交通(バス)の場合、いずみ野駅から「い06:いちょう団地左循環台村行」に2分乗車し、金子山で下車。バス停から徒歩1分
【駐車場】
14台分
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この記事を書いた人
永田遼太郎
ながた りょうたろう|スポーツライター。1972年茨城県生まれ。雑誌編集を経て'05年からフリーとして活動開始。いくつかのプロ野球球団のオフィシャルサイトの記者を経て、現在に至る。
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