震災前から数多くの移住者を受け入れてきた福島県田村市。その後も原発事故やコロナ禍に負けず、阿武隈高原の地域資源をいかしたユニークなまちづくりを展開している。明るい人柄で市をリードする白石高司市長に、これまでの取り組みや今後の展望などを伺った。
掲載:2024年3月号
ユーモアたっぷりの白石市長。手にしているのは健康志向の人に人気があり、地理的表示(GI)産品に登録された「エゴマ油」で、生搾りと焙煎の2種類ある。
白石高司(しらいし・たかし)●1960年、船引町(現・田村市船引町)生まれ。上武大学商学部卒業後、都内で2年半の社会人生活を経て、家業の自動車販売会社の代表に就任。2018年4月に田村市議会議員、2021年4月に田村市長に当選。現在1期目の折り返しを通過して活躍中。
福島県田村市(たむらし)
福島県中通りの最東端にある市。中心部に都市機能が集約されている一方で、約7割を山林が占めている。2005年に5町村合併で誕生。人口は約3万3000人。東京から東北新幹線で郡山駅まで約1時間20分、郡山駅から磐越東線で船引駅まで約25分。
田村市 注目POINT
1 あぶくま洞、阿武隈高原の風景、「田村の美桜88景」など自然が豊か
2 「 さい餅」や「凍み餅」など、おいしい郷土料理が受け継がれている
3 東京・渋谷に移住相談の窓口を設置。また「キッチンカー移住チャレンジプロジェクト」で3名の移住者が活動中
「昆虫の聖地」を宣言! 市役所内に昆虫課も新設
田村市は阿武隈高原の中央に位置し、自然豊かで古い歴史と文化に彩られた都市です。地域の絆も強く、お互いに助け合いながら暮らしてきました。5町村が合併した当市は旧町村の個性が強く、農林業、観光、商業などさまざまな魅力が詰まっています。私のまちづくりの方針は、いまある地域資源を見つけ、ワクワクしながら磨いて次世代へつなげていくことだと考えています。
観光の目玉は鍾乳石の種類と数の多さで知られる「あぶくま洞」。自然の造形美が楽しめ、コンサートなどのイベントも開催しています。さらに「あぶくま洞」の幻想美を際立たせる照明演出や通路の改善を行うための基本計画を作成したところです。
隣の三春町には日本三大桜の1つである「滝桜(たきざくら)」があり、約20万人の観光客がそれだけを見に来ます。もったいないので、市内への周遊促進を見据えて、市民の皆さまから応募いただいた139本の桜から、選挙で88本選んで「田村の美桜88景」としてパンフをつくったら、それを見て回る人が増えたんですよ。
悠久の歳月をかけて造形美がつくり出された「あぶくま洞」。昨年、新たに未公開部分のツアーを始めた(条件付き・予約制)。
田村市は”さくらの都”。「田村の美桜88景」の中でも人気が高い「小沢の桜」。映画『はつ恋』のロケ地にもなった。
かつて葉タバコの有数の産地でもあった田村市は、広葉樹の腐葉土によりカブトムシの絶好の産卵場所であったことから、日本で唯一の虫の楽園「ムシムシランド」を設立して地域おこしに活用してきました。
2023年7月には「第2回全国クワガタサミット」を開催。市では「昆虫の聖地」を宣言し、市役所に昆虫課も新設しました。生態系の底辺の昆虫が生きられるのに、人間に悪い影響が出るはずがない。被災市町村と共同の取り組みとして、原発事故の風評被害を防ぐのも目的の1つです。
2023年にリニューアルした「ムシムシランド」内にある「昆虫館」。昆虫の標本やヘラクレスオオカブトなどに触れられる。
市役所にバーチャル部署の昆虫課が 新設された。課長は市のゆるキャラ「カブトン」。
エゴマと豆腐のたれで和える「さい餅」、寒干しでつくる「凍餅(しみもち)」など、おいしい郷土料理が数多く受け継がれているのも魅力です。「さい餅なんて聞いたことがない」と話す東京の友人がかわいそうになります(笑)。
田村でお餅といえば「さい餅」。お正月にも食卓にのぼる。
田村市のふるさと納税の返礼品は野菜や加工品など。一番人気はお米だとか。詳しくは、田村市ふるさと納税サイトを参照。
渋谷に窓口を設置したら、移住相談が大幅に増加!
田村市はここ数年、移住者が増加傾向にあります。渋谷に市独自の移住相談窓口を設けたのが大きいですね。田村市に関心を持っている方に、支援の本気度が伝わるからです。
市では、観光やイベントで交流人口を増やす一方で、生業をつくる起業型地域おこし協力隊を募集しています。コミュニティ拠点の開業を目指したり、キャンプ場の事業化を目指している移住者もいます。
また、一昨年に「キッチンカー移住チャレンジプロジェクト」を実施。キッチンカーでカレー、パンケーキ、ハンバーガーをつくる3名の移住者が市内だけでなく、東京都や神奈川県まで出向き、田村市の地元食材を使ったオリジナルメニューを提供しています。故郷の香りがするものは、都会の人も温かく迎えてくれるんですね。そういうチャレンジをする移住者の皆さんを、市も全力で応援していきたいと思っています。
来て、見て、味わって、体験すれば、地域の魅力は伝わります。いいところだから、とにかく一度、田村に来てみんせえ!(来てくださいの福島弁)
キッチンカー移住チャレンジプロジェクトで選ばれた3人。3月20日(水・祝)に食の祭典「KITCHENCAR PARK ABUKUMAうんめぇFES」(運営事務局 ☎050-5871-6544)を開催。
田村市 最新移住支援情報
新たな地域の担い手となる起業型地域おこし協力隊を募集
東北の地域担い手を創出するMAKOTO WILL社と一般社団法人Switchが、地域の資源や課題をいかしたビジネスの担い手を募集。就労支援としては、総合人材サービス会社ワールドスタッフィング社による求人発掘とキャリア相談を実施。専門のアドバイザーが相談に乗ってくれる。Switchでは市からの受託事業で、空き家紹介や民間の賃貸物件も含めた総合的な相談窓口を用意。下記の窓口で気軽にご相談を。
移住者や地元の親子が一緒に遊べる自然体験コミュニティ「もりのび」。竹を活用した流しそうめん体験も実施した。
1日1人300円で移住体験ができるトレーラーハウスでは、田村市の大自然が満喫できる。
田村市 移住相談の窓口 お気軽にお問い合わせください!
●田村市「田村サポートセンター」(テラス石森内)☎0247-61-7575
●東京「田村市・東京リクルートセンター」(渋谷スクランブルスクエア内)☎03-5447-7748
田村市移住・定住ポータルサイト「たむら暮らし」
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田舎暮らしの本編集部
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