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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

島田洋七さんインタビュー後編「遊び場という感覚で家をつくったんよ」

掲載:2020年9月号(※年齢および内容は本誌掲載当時のものです)

51歳で佐賀への移住を決断した漫才師の島田洋七さん。なんと妻の律子さんに黙って移住を決め、300坪の土地に平屋の日本家屋を建築しました。
インタビュー後編では、洋七さんの「不便を楽しむ暮らし」や律子さんとの微笑ましいエピソード、そして年間120~130本をこなす講演会への思いなどを語っていただきました!

(※前編の記事はこちら 島田洋七さんインタビュー前編「佐賀ってネームバリューがないやんか。でも海も山も近いし、むっちゃ便利よ」

 

庭には露天風呂と、釜風呂まである! 洋七さんにとって、自宅がまさに“遊び場”。

囲炉裏とかまどで不便を楽しむ暮らし

 家を建てるにあたっては「かまどと囲炉裏と土間は絶対につくろう」、そう決めていた。

「小学校2年生でばあちゃんに預けられたんだけど、ばあちゃんは掃除婦で朝4時半からいないのよ。だから日曜以外の毎日、俺がかまどでご飯を炊いて。中3までテレビがなくて、冬場は囲炉裏端でみそ汁を飲んでいろんな話をした。そういう思い出があったからな」

 いまも来客があるとかまどでご飯を炊いたり囲炉裏で火をおこしたりしてもてなす。

「もちろん電気もあるけど、薪でご飯を炊いたりするのが楽しい。〝最初は割りばしで火をつけるんですか!?〞って、そこから会話が生まれるやん。炊飯ジャーのスイッチを入れたって、ジャーについて語らんやんか(笑)。昔は誰もがやっていて、難しくもなんでもないし。10分で炊き上がって、10分蒸らす。電気釜よりずっと早いし、火力が強いからかおいしい。やってる間は夢中になれるのもええな」

 庭には「実のならへんものは植えるな」というばあちゃんの教えに従い、ミカンにユズにモモにカキが植えられている。夏を前に、庭の畑には野菜がにぎやかに実っている。

「最初はいろいろつくったけど、キャベツとか葉っぱもんはやっぱり虫が食うやん。農薬をかけなあかんやんか。だからキュウリ、トマト、ピーマン、シソをつくって……あとは、買いに行ったほうが早いな(笑)」

 キレイに整えられた芝生は西日の強い照り返しを和らげるため、3年前に洋七さんが敷いたもの。普段から律子さんがこまめに雑草を抜き、洋七さんが機械を使って刈り揃えている。

 ほかにも「ばあちゃんがやってるのをずっと見てたからな」と、ハクサイやキュウリの漬物を仕込んだり。製材所からもらってきた丸太をチェーンソーでカットし、薪ストーブ用に軒下にストックしたり。家にいたら「あれもこれも」と、じっとしていられそうもない。

「遊び場という感覚で家をつくったんよ。弟弟子の(島田)紳助も何回か来たけど、〝うわ〜兄さん、未来を先取りしてまんなー〞って言うとった。昔に戻ったような生活だけど、先取りだと。不便っていうのが逆に楽しい。昔の人みたいにモンペをはいてるわけじゃなくジャージやジーパンだけど、年をとって70歳になって、我ながらこの家が似合うな」

絶対につくろうと決めていた「かまど」。遊びに来た友人も米のおいしさに驚くという。

かまどの奥には漬物のバケツがズラリ。

野菜は無農薬で。肥料も使わないが、乳酸菌を撒いて発育良好。

キュウリも乳酸菌のおかげで(?)、この大きさに!

「これがからだにいいんや~」と、長ネギを収穫してはトロトロの液体を吸う洋七さん。

自宅にいるときと講演しているときが楽しい

 よく夫婦は似てくるというが、洋七さんと律子さんが並ぶととてもよく似ている。さぞ夫婦仲もいいだろうと尋ねると、「そりゃそうでしょ、協力せんとやっていけんもんね」と即答する。

「〝私洗濯してるから買い物に行ってきて〞と言われたらすぐ行くよ。あちこち行ったほうが、歩数も稼げるやん(笑)。ケンカ? せんよ、そんなもん。俺はほら芸人やから、なに言うてもギャグに聞こえてアホらしくなるんちゃう? 芸人の浮気がニュースになると〝お父さんもやってるの?〞と聞くから、〝やってるよ〜〞って」

 確かにそれでは、怒る気になりそうもない。しかもコロナ禍で、奥さまとの時間も増えた。

「〝ああ嫁さん、こんなことが上手なんや〞と知ったり、昔のことを話したり。このご時世で一緒に旅行ができないのは残念やけど、それはそれなりにね。友達が来んでも、2人でかまどでご飯を炊いてみたりして」

 洋七さんのような人柄なら、移住先へ溶け込むにもなんの問題もなさそうだ。

「俳優さんやったら声をかけにくいかもしらんけど、俺の場合は芸人やから。〝洋七さ〜ん〞と言われ、〝こんちわ〜〞ってなるもん。壁とか全然ないない。ウオーキングしとったらキュウリいる?とかしょっちゅう言われる。最初のころは 〝いらん〞言うたら向こうもがっかりするからもらってたけど、19年もおると〝いやウチも植えてるし!〞と(笑)。人付き合いは人によるけど、夫婦のどっちかが社交的なら大丈夫やな。ほんでわからんことは近所の人に聞いたらきっと教えてくれはるよ。性格のいい人と悪い人とがいるのは都会も田舎も一緒やけど」

 自宅で遊び、講演会の仕事で全国を飛び回る。その回数はついに4800回を超えた。

「ライブが好きなんね。ひとりで1時間しゃべって、18秒に1回は笑かしてるな。人がわっと笑ろうたら、それより気持ちいいもんはないね。〝おもろかった〜、どこからどこまでが嘘かわからんかったけど〞って言われたりして。俺は笑福亭仁鶴師匠の落語で噺の落とし方、ネタのふり方を勉強して、それを漫才に変えたのがB&B。16年くらい前、色紙にサインください!って仁鶴師匠に言うたら、師匠ものすごい照れはってな。そこに書いてあったのが〝雑談〞〝虚笑〞。落語も漫才も、芸っちゅうのはそういうもんかなと」

 趣味は特にない。家にいるときと講演をやっているときがむちゃくちゃうれしい。これ以上ないくらいシンプルな暮らし。

「ず〜っと芸能界で飯を食える人って少ないもん、一時よ。10日ほど前もたけしと電話でそういう話をしたんよ。コロナのことから、〝なんでこんな世の中になって〞と。でも講演という仕事を見つけ、佐賀に暮らして、〝おまえ正解やな〜〞って。コロナが収まったら、あと2〜3年は講演会をやろうかな。年とったら好き勝手に生きたらええねん」

リビングで律子さんと。床板を外すと囲炉裏が4つ。上部には煙対策のために換気扇も4台設置している。

仁鶴師匠からもらった色紙は自宅に飾っている。「仁鶴師匠が大好き。師匠の落語は芸術やな」。

しまだ・ようしち●1950年2月10日生まれ、広島県出身。漫才コンビB&Bとして、80年代漫才ブームの牽引者に。著書『佐賀のがばいばあちゃん』はシリーズ累計1000万部を超えるベストセラーを記録、祖母との生活をもとに語る講演会は累計4800回を超えた。『島田洋七の朝から言わせろ!』(KBCラジオ)にレギュラー出演中。

文/浅見祥子 写真/樋渡新一

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