コテージ付きの菜園に滞在して農的暮らしが楽しめる「クラインガルテン」。畑やボランティア活動、アルバイトを通じて地域と積極的にかかわり、近い将来移住するための足がかりをつくっている小島さん夫妻を取材した。
掲載:2024年1月号
※情報は2023年11月上旬現在のものです
※募集を締め切っている場合もありますので、詳細はクラインガルテン妙高にお問い合わせください
新潟県妙高市 みょうこうし
新潟県南西部、長野県との境に位置。妙高山(みょうこうさん)や火打山(ひうちやま)などに囲まれた高原地帯を擁し、いもり池などの観光名所や森林セラピー基地がある。冬は9カ所のスキー場がオープン。東京から上信越自動車道経由で約4時間。
畑の経験ゼロの夫妻を地元農家がサポート
小島貴司(こじまたかし)さん●54歳、朋子(ともこ)さん●53歳
東京都府中市在住。2018年までのアメリカ駐在中に「定年にこだわらず、やりたいことをやる人生にしたい」と考え、22年に貴司さんがI T系企業を早期退職したタイミングでクラインガルテンの利用を始めた。朋子さんはフリーランスの翻訳家。11月初旬に小島さん夫妻の畑を訪れると、まだまだ収穫できる野菜がいっぱい! 豪雪地帯だが、ラッキョウやナバナ、イチゴなどは冬前に植え付けて春に収穫する。
ドイツ語で「小さな庭」を意味するクラインガルテン。日本では、菜園にラウベ(宿泊用コテージ)が付いた「滞在型市民農園」として広がり、田舎暮らしの1つの形として定着してきた。週末に短期滞在しながら農的生活を楽しむというイメージが強いが、最近では菜園をしながら中長期滞在する二拠点居住のようなガルテナー(利用者)も増えているようだ。
新潟県の南西部、妙高山裾野の丘陵地帯に位置する「クラインガルテン妙高」の利用者である小島貴司さん・朋子さん夫妻も、「東京には月に数回、家のメンテナンスのために帰る程度です」と笑う。
「2022年に早期退職しました。農業に興味があったのと、大好きなスキーをやりたくて、最初はアパートを探していたんです。そんなときに妙高市のクラインガルテンのことを知り、応募。22年12月から利用しています」(貴司さん)
当初、小島さん夫妻の農作業の経験はゼロ。しかし23年1月に地元農家の新年会に誘われたことや、先輩ガルテナーに土おこしを手伝ってくれる農家さんを紹介してもらったことにより、菜園スキルは大幅にアップ。苗や種、そして牛ふんをベースに配合した自家製の有機肥料まで分けてもらい、1年目にして育てる野菜の種類がどんどん増えていった。
「ガルテンの中でも区画によって土壌が少し異なるようで、農家さんが『ここは水はけがいいからこれを植えるといいよ』とアドバイスをくれます。いちばんよい収穫のタイミングを教えてくれるのも、ありがたいです」(貴司さん)
トマトのわき芽を挿し木にしたら根付いた。朋子さんはトマトが嫌いだったが「こっちで食べておいしさに感動! 食べられるようになりました」。
直蒔きしたナバナが育ってきたので、密集しないように間引く。カットした葉はやわらかくおいしいので、ベビーリーフとして食べる。
冬に旬を迎えるブロッコリー。トンネル支柱に寒冷紗をかけて虫対策をしていたが、葉が大きくなり過ぎてブロッコリー自ら寒冷紗をはぎ取ったほど元気。
近くに住む、トマトとトウモロコシの農家の野沢さん(中央)。苗や堆肥を分けてくれたり、収穫時期を教えてくれたり、春先に大型機械で土を耕してくれるなど、菜園ライフの強い味方だ。
スキーが大好きな小島さん夫妻。シーズンチケットを買って、100日以上利用したという。「いちばん好きなロッテアライリゾートには温泉もあるので、入浴もできて便利です」(写真提供/小島さん)。
「じつは私、もともとはガーデニングや畑が好きではなくて。東京の家の庭も除草シートを張っていたくらいなんです」
そう話すのは朋子さん。
「でも、こっちで種から育ててみたら本当にかわいくって。まるでペットを飼っているみたいに毎朝『元気かな?』って、畑を見に行くんですよ」
農家さんの指導のかいもあって、夏は食べ切れないほどの野菜が穫れる。朋子さんは在宅で翻訳の仕事をしているが、納期と野菜収穫のピークが重なると、目が回るほどの忙しさになるとのことだ。
仕事としての農業を経験してみたいと、貴司さんは市内の米農家でアルバイトを始めた。ほかにも、草刈りや川の清掃、外国人市民の通訳サポートなどのボランティア活動、NPO法人による青少年野外活動の指導者、知り合いになった移住者の自宅リノベーションの手伝いなど、さまざまな活動に奔走。クラインガルテン内のみならず、地域の人たちとも積極的にかかわることで、いろいろなつながりができてきた。
「将来は妙高市に住みたいという気持ちがあるので、今からたくさんの人と知り合いになって、同時に家を見つけたいと思っています。決してのんびりとした田舎暮らしではないけれど、ストレスがない。そんな今の暮らしがとても気に入っています」
サツマイモやカボチャは、収穫してすぐに食べるより、数週間追熟させると甘みが増すので、玄関先に置いて食べごろを待つ。
ラウベの内観。「家具と家電はほとんどがもらいもので、買ったのは電子レンジくらい」と、朋子さん。天井の白いシートは吹き抜けの断熱と結露の水滴対策。
2階の一角が、朋子さんの翻訳仕事のスペース。夏はラウベの中が意外と暑くなるので、冷房の効いた図書館に行くことも多かった。
「妙高山麓直売センター とまと」で買い物。「妙高高原はトマトとトウモロコシの名産地。自分で育てるよりも農家さんのほうが断然おいしいので、この2つは買います!」と、朋子さん。
国道18号沿いには店が点在。農業資材が豊富なホームセンター「コメリ」と、小島さんが冬に野菜を買いに行く「妙高山麓直売センター とまと」。
小島さん夫妻の滞在スタイル
□自宅からの交通手段と所要時間
車を利用して、高速道路利用で約4時間。たまに群馬県や長野県を観光しながら下道で6〜7時間かけて来ることも。
□利用頻度
ほとんど妙高市に滞在し、東京都府中市の自宅には月に1〜2回帰る。
□これまでに栽培した野菜
ナス、キュウリ、トマト、トウガラシ、ピーマン、エダマメ、スイカ、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ラッキョウ、ズッキーニ、カボチャなど。
□月にかかる費用
交通費(1往復)…約1万円、電気・ガス代…約1万円、灯油代…約5000円(冬期)
□周囲のオススメスポット
妙高高原いもり池や苗名滝などの景色が小島さん夫妻のお気に入り。ノルディックウオーキングを楽しむのなら笹ヶ峰の夢見平遊歩道。妙高市内ではないが、日本海で海釣りをするのも好き。
妙高市は温泉も点在。小島さんのお気に入りは燕温泉と、日帰り入浴もできる「山村体験交流施設 大滝荘」(写真)。
妙高戸隠連山国立公園内のいもり池。その向こうには日本百名山の1つ、妙高山も見える。妙高市を代表する絶景スポットだ。
新潟県妙高市/クラインガルテン妙高
●簡易宿泊施設付き区画年間使用料金/43万1700円(共益費込み)、2万6600円(短期)
● 初期費用/0円
●菜園面積/150㎡
●ラウベ施設床面積/40㎡
●募集数/問い合わせ
●募集時期/随時
●所在地/新潟県妙高市大字関山6142-1
●区画数/滞在型18区画、短期型2区画
●利用期間/契約日より1年、短期型は最長1カ月
●更新/1年(最長3年)
●交通アクセス/上信越自動車道妙高高原ICより約7km
●備考/周辺に温泉やスキー場あり。
問い合わせ/妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会
☎0255-82-3935
https://myoko-gt.com/kleingarten/
クラインガルテン妙高 利用のポイント
ラウベに定住することは可能ですか? ペットの飼育は?
住民票を移して定住することはできませんので、二拠点生活をしていただくことになります。ペットは不可です。
農機具の貸し出しや農作業の指導はありますか?
1年に1回、初心者向けの野菜づくり講習会があります。当施設では地域の農家さんとの積極的な交流を推奨していますので、多くのガルテナーは直接農家さんに質問しているようです。農機具は、耕運機や刈り払い機などを貸し出しています。
貸し出し可能な農機具。
ゴミ出しはできますか?
ゴミステーションがあり、ゴミ出し可能です。
野生動物は出ますか? その対策は?
イノシシ、タヌキ、キツネ、クマなどが周辺に生息していますが、さほど頻繁には出ません。予防ネットを張るなどして対策しています。
「移住を考えている方は、短期利用も可能です!」
妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会
竹中結花さん(左)、木賀由香里さん
文/はっさく堂 写真/村松弘敏 写真提供/妙高市
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