ここは、社会の源である子どもの成長と、命の源である水を見守る山里。「永遠の水源地、土佐町」というビジョンのもと、地元のみならず下流域の人びとにも未来を約束する仕組みの構築が行われている。これからの水源の町の姿はこうなる!?
掲載:2024年2月号
高知県土佐町(とさちょう)
人口約3500人。標高250〜1500mの起伏に富んだ山岳地形に山林、棚田、清流、西日本最大級の貯水量を誇るさめうら湖(早明浦ダム)を有する。中心市街地には量販店や飲食店、総合病院などがまとまり利便性が高い。米どころで、幻の和牛「土佐あかうし」の最大産地。高知龍馬空港から中心街まで車で約1時間。
人と水という2つの源で未来を拓いていく
2014〜19年の土佐町への移住者は163名で、出生数は年平均25〜35。人口比で見ると、どちらも県内トップクラスという明るい兆しのなか、土佐町は「SDGsと住民幸福度に基づく持続可能なまちづくり」に取り組んできた。まず、19年に「土佐町幸福度調査」を実施して町民の幸せの源泉を探り、土佐町の暮らしの価値を再確認した。そこにSDGsを加えて21年に作成した「第7次土佐町振興計画」では、「永遠の水源地、土佐町」というビジョンのもと、暮らしや仕事など10の分野で理想の町の実現を目指している。
なかでも子育て世代の移住希望者が気になる分野は「教育・学び・子育て」だろう。注目は、SDGsにも関連する世界への架け橋になる取り組みだ。
「保育園では海外の保育園とオンラインで交流しています」
とは土佐町役場でSDGs推進担当の尾﨑康隆さん。これまでにフィンランドやタンザニアなど土佐町とは違う世界に触れてきたという。また、町内に住民票がある高校生には海外留学の補助金制度もあり、年間10名程度が短期留学する。
「この地域は教育に強い想いを持つ人が多い」と尾﨑さん。
「地域の人が放課後や休日に学習や体験などを支援する〝学校応援団〞という活動も盛んです」
そして、子どもの成長にかかわるスポーツの振興策も見逃せない。21 年設立の「(一社)土佐町スポーツコミッション」はカヌーアカデミーも運営、カヌー競技に注力している。練習場は水面穏やかで水質もいい、さめうら湖(早明浦ダム)だ。
「コーチはハンガリー人でカヌーの元世界王者。練習環境にひかれた県外からの転入生もいます。県大会優勝や、全国大会で上位に入る選手もいます」
四国第2位の大河・吉野川にある「さめうら湖(早明浦ダム)」。西日本最大級の貯水量を誇る「四国の水がめ」だ。その広大な湖面はカヌーなどのアウトドアスポーツの聖地。
2023年1月に土佐町、本山町、香川県高松市の各首長が一堂に会し、これからの水源域と利水域の連携のあり方について話し合った「流域連携協議会」の様子。
山がちの地形ながら、土佐町にはたくさんの美しい棚田があり、おいしいお米の産地としても知られている。
さめうら湖は「四国の水がめ」と呼ばれ、下流域、特に香川県の暮らしに不可欠だ。しかし、湖への水流を生む森は木材価格の低迷や過疎高齢化で手入れが滞り、気候変動もあって水が不安定になることが懸念されている。そこで土佐町は、水源の保全と涵養(かんよう)のための広域連携を目指した。
「水源地の嶺北(れいほく)地域、そして水を使う香川県一の大都市・高松市が連携します」
過疎化が進む水源地だけで取り組むのではなく、そこにマンパワー豊かな都市部も参加する。水源の環境を守るため、水源地も利水地もともに歩んでいくのだ。
土佐町はまず、水源の実態の把握・定量的評価を行った。また、水源の保全・涵養に必要なお金の流れを生む経済の仕組みづくりも始めている。24年春には「(一財)もりとみず基金」を設立し、ソーシャルインパクトボンドという民間資金の運用手法で利水地と水源地が連携していくという。
「これには交流・関係人口を増やす狙いもあります。SDGsの目標17『パートナーシップで目標を達成しよう』ですね」
水源の持続に伴い、農林業の振興や新規事業の育成、人の交流によるイノベーションが始まるであろう土佐町。見逃せない移住先になりそうだ。
土佐町で行われた林業インターンシップ。「林業とは何か?」「どういう仕事なのか?」など、林業の入り口を体験した。
ゲーム形式で楽しみながらわかりやすく学べるSDGsカードゲームでの研修を実施。SDGsについて住民の理解を深めている。
保育園児を対象にした国際交流・SDGs教育の「みつばせかいプロジェクト」の様子。海外の園とオンライン交流などを行う。
土佐町のSDGsここがスゴイ!
高知県で唯一のSDGs未来都市に選定された土佐町。水源地という豊かな自然環境を活用した取り組みが多い。
- 水源の保全・涵養をテーマに香川県高松市などと広域連携
- 海外交流に力を入れる教育で、グローバルな人材づくり
- さめうら湖を活用した、カヌー競技など自然に親しめる環境
- 地域主体で林業振興に取り組み、担い手の育成も
「誰ひとり取り残されない水源の町をつくっていきます」(企画推進課SDGs推進室長 尾﨑康隆さん)
【土佐町のここがオススメ!】
さめうら湖畔の「湖の駅さめうらレイクタウン」にはホテル、雄大な湖の景観を満喫できるキャンプ場、カヌーに挑戦できるカヌーテラスがあり、大自然へといざなう。
美しい自然環境でのんびりと育てられている「土佐あかうし」。ヘルシーな赤身肉のおいしさが高く評価されている幻の肉牛だ。
土佐町移住支援情報
移住者対象の支援はないが、移住者多し!
これまで、町民対象の支援策のみで移住者をひきつけてきた土佐町。中学校まで給食無料や18歳まで医療費無料など、子育て世代には魅力的だ。移住相談の窓口はNPO「れいほく田舎暮らしネットワーク」(https://reihoku.in/ijyu-contact)。地域愛のあるスタッフが熱心に移住相談に応じてくれる。
問い合わせ/企画推進課 ☎0887-82-2450
土佐町への移住は「れいほく田舎暮らしネットワーク」にお任せ!
「子どもをとても大切にする地域です!」(企画推進課 川田奈美さん)
文/大村嘉正 写真提供/土佐町
この記事の画像一覧
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする