田舎でのお悩みを、田舎暮らしのベテランライターが回答。隣から伸びてきたカキの木。その実は勝手に穫っていいのか、近隣トラブルになりかねない問題です。
田舎に移住して2年。隣家はケチで有名なおじいちゃんで、口もあまり利いてくれません。たまにニワトリが侵入してきたり、カキの木が伸びてきます。ニワトリは追い返しますが、黙ってカキの実をもいだら、「人の果実を勝手に穫るな」とすごい剣幕で怒られました。きちんと剪定しないから悪いと思いつつトラブルを避けるために頭を下げました。法的にはどうなのですか。
熊本県在住 所さん●44歳
民法の改正でどう変わったか?
ご近所とは仲よく付き合うのが田舎暮らしの基本だが、実際には近隣トラブルが少なくない。なかには土地争いにまで発展するような深刻なトラブルもあるが、多くは所さんのようにささいな原因によるもの。もし隣から侵入するものがあれば、法律はそれをどう裁くのだろうか。
カキやナシなどの果樹は勝手に穫れない、タケノコなら無断で掘ってかまわない、というのが民法の長年の定めだった。ところが、2023年4月に改正民法が施行され、隣の家の樹木の枝が境界線を越えて出ている場合、その越えた部分を切除することが許されることになったのだ。つまり、カキもタケノコも侵入してきたものは切除してかまわないのである。
それまでも「切除させる」権利はあったのだが、「切除する」権利はなかったので、この違いは大きい。近隣トラブルが減ることも期待できそうだ。
枝を伸ばすカキの木が、自分の敷地に侵入してくることも。
動物の種類によって法解釈も変わってくる
所さんの家には、隣家からニワトリもやって来るという。広い敷地には隣家に限らず、どこからか動物が侵入してくることもある。この場合、どう解釈したらいいのだろう。
民法195条では「家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、逃げたときから1カ月以内に元の飼い主が返還請求しない限り、捕まえた人のものになる」とある。ニワトリは家畜なので、勝手に飼うことは許されない。所さんがニワトリを追い返したのは正解だった。
もちろん、犬や猫などのペットも持ち主に返す必要がある。捨て犬は判断が難しいが、逃走した家畜と考えるべきだろう。人に支配されないサルやシカ、クマ、キツネ、カナリア、ウグイスなどは家畜以外の扱いになる。ただ、「九官鳥は家畜」という判例もあるからややこしい。
以上はあくまで法律論で、近隣トラブルをなくすにはコミュニケーションを深めるのがいちばん。会話の溝を埋めるように努力してほしい。
旧民法でも、侵入してきたタケノコは自由に収穫してかまわなかった。
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この記事を書いた人
山本一典
田舎暮らしライター/1959年、北海道北見市生まれ。神奈川大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、85年からフリーライター。『毎日グラフ』『月刊ミリオン』で連載を執筆。87年の『田舎暮らしの本』創刊から取材スタッフとして活動。2001年に一家で福島県田村市都路町に移住。著書に『田舎不動産の見方・買い方』(宝島社)、『失敗しない田舎暮らし入門』『夫婦いっしょに田舎暮らしを実現する本』『お金がなくても田舎暮らしを成功させる100カ条』『福島で生きる!』(いずれも洋泉社)など。
Website:https://miyakozi81.blog.fc2.com/
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