2023年5月にSDGs未来都市に選定された鹿島市。肥前鹿島干潟のラムサール条約登録をきっかけに、地域、企業、団体、行政がアイデアと力を出し合い、市全体の環境を守り活かそうと、さまざまな取り組みを進めている。
掲載:2024年3月号
佐賀県鹿島市(かしまし)
佐賀県南西部に位置し、東に有明海、西に多良岳山系と、山里海の自然に恵まれた城下町。河口に発達した肥前鹿島干潟はラムサール条約の「国際的に重要な湿地」として登録されている。人口約2万8000人、年平均気温16.1℃。博多駅より肥前鹿島駅までJR長崎本線特急で約55分。福岡空港から長崎自動車道武雄北方IC経由で約90分。
有明海の干潟から始まったSDGsの取り組み
鹿島市の東に広がる有明海。その特徴は5〜6mにもなる日本最大の潮位差で、干潮時には広大な干潟が現れる。2015年にラムサール条約湿地に登録された肥前鹿島干潟の総面積は約57ha、東京ドームの約12個分。条約の3つの目的「ワイズユース(賢明な利用)」「交流・学習」「保全・再生」を進めるため、2016年に発足したのが「鹿島市ラムサール条約推進協議会」。各地区代表や産業団体、環境団体などが協力する体制が整えられた。
鹿島市ゼロカーボン推進室の中村祐介さんは言う。
「干潟の環境を守るには、活用して経済効果を得るのも大切だというわけです。そしてこの流れは、後のSDGsへの取り組みにつながっていきました」
前鹿島干潟は、鹿島市内を流れる塩田川と鹿島川の河口沿岸に発達した有明海最奥部の泥干潟。
栄養豊富な干潟にはムツゴロウやシオマネキなどたくさんの生物が棲んでいる。(撮影:中村さやか)
干潟の運動会「鹿島ガタリンピック」は今年で40回目を迎え、5000人以上が干潟に入る。
生き物調査を兼ねた「潟を踏もうぜプロジェクト」。干潟は人が歩くほど空気が入って活性化される。
2016年、環境省の提唱する「地域循環共生圏」のモデル地区に選ばれた鹿島市。
協議会からはさまざまなアイデアが生まれ、新たな事業もスタートした。「肥前鹿島干潟ラムサール米」もその1つ。
「干潟周辺の清掃活動とともに、繁茂するヨシを刈り取り、生ごみなどとともに堆肥化したんです。この堆肥を用いて米や野菜を栽培、販売。その売り上げの一部は肥前鹿島干潟基金として干潟での活動に充てます」
2021年には同事業の事業化支援団体となり、取り組みのなかで、視点は海や干潟だけではなく、そこに流れ込む川、上流の里や山地にも向けられた。担い手がなく荒れてしまったミカン畑は放牧地として活用、育てた黒毛和牛を「ラムサール牛」としてPRした。
「『ごえん』という地酒は、棚田を復活させて育てた米を市内の酒蔵が仕込みました。有機栽培を目指す農家と酒蔵の跡継ぎ、若者同志のコラボです」
山間の休耕地に黒毛和牛を通年放牧。草地の景観を保全しながら「ラムサール牛」を育てている。
水生生物調査、干潟体験、野鳥観察など、鹿島市ならではの環境教育プログラムも充実。
棚田で育てた食用米を使った新しい酒造りで生まれた日本酒「ごえん」。
こうして2023年には内閣府の「SDGs未来都市」選定に至る。
「選定を受け、みんなで地域を活性化していこうという意識の高まりを感じます。新たな提案もいただくようになりました」
いま進めているのは隣町の太良町(たらちょう)との広域連携。鹿島市は日本酒などの農産加工品が強い一方、太良町はカニ、牡蠣、ミカンなど一次産品を得意とする。「お互いの魅力を合わせてPRしていきたいですね」。
実証実験も複数始まった。養殖する海苔をついばむカモへの対策は、LEDの光で養殖場から追い払うなど、野鳥保護と両立させる方法を模索。ごみ対策の一環としては、紙おむつ分離機を試用し、効果を検討する。
例年3月開催の「鹿島酒蔵ツーリズム」は、約9万人が鹿島市を訪れる一大イベント。ここでは、地元の米からつくったプラスチックのおちょこを企画、クラウドファンディングで資金を集めて実現した。
市内の全小学校では野鳥観察や温暖化対策などSDGs教育を進めている。中村さんは言う。
「有明海はかつて宝の海と呼ばれ、貝を獲りに干潟に入るのが日常でした。環境と生活スタイルが変わったいま、海や干潟は遠のいてしまいました。ですからへの取り組みを通じて、干潟に対する関心がもっと高まればと思っています」
鹿島酒蔵ツーリズムでにぎわう鹿島市浜中町八本木宿は国の重要伝統的建造物群保存地区。
鹿島市のSDGsここがすごい
国際的に価値の高い湿地としてラムサール条約に登録された肥前鹿島干潟を中心に取り組んでいる。
●肥前鹿島干潟を中心に、市内全域の自然環境保全に取り組む
●自然環境の保全と同時に、それを活かして地域を盛り上げる仕組みを生み出す
●地域、企業、環境団体、行政などが連携できる組織をつくり、お互いの情報交換が活発
●隣接地域と積極的に連携し、広域で地域活性化を目指す
「海・山・里・川・干潟。それぞれ異なる景色があるのが鹿島市の魅力です」
(鹿島市ゼロカーボン推進室 中村祐介さん)
鹿島市のここがオススメ!
市内にある祐徳(ゆうとく)稲荷神社は日本三大稲荷の1つに数えられ、参拝者は年間300万人に達する。
道の駅「鹿島」で行われたナイトツアー。照明は海苔養殖場でカモの対策にも使ったLED装置「ホロライト」。
鹿島市移住支援情報
肥前浜宿の茅葺きの町家で鹿島市の暮らしを体験
移住を検討中の人は、移住体験施設を一定期間お試しで利用できる。施設は国の重要伝統的建造物群保存地区内にある茅葺きの町家。JR肥前浜駅より徒歩約10分、町の歴史や文化、町並みの魅力を知るのに最適な立地。
お問い合わせ:鹿島市企画財政課 ☎︎0954-63-2101
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/13803.html
移住体験施設。鹿島藩の港町としての地割を残す、浜庄津町浜金屋町伝統的建造物群保存地区にある。
「市内循環バスや予約型のりあいタクシーなど交通支援も充実しています」(鹿島市企画財政課 細竹 悠さん)
文/新田穂高 写真提供/佐賀県鹿島市
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