掲載:2021年8月号
移住希望者への支援が充実している鳥取県。地域の役に立ちたい、お店を開きたい、のびのびと子育てしたい、海の近くで暮らしたい……。鳥取県で、自分の“好き”をかなえる暮らしを始めませんか。今回は、自分の理想とする「資源が循環する環境」での暮らしを求め、智頭町で林業に従事している女性のお話です。
納得できる生き方を求めて飛び込んだスギの山
四方を山に囲まれた智頭町(ちづちょう)。町内には「慶長杉」と呼ばれる樹齢300年以上の人工林も残る。智頭町は、吉野杉や北山杉などと並ぶスギの名産地だ。
その智頭の伝統基幹産業である林業の担い手の1人が奥井彩音(おくいあやね)さん(26歳)。町内の若手林業家で組織する合同会社に所属し、林業に従事している。
東京出身の奥井さんは高校時代から日本庭園などの景観や環境に関心があり、「東京にすぐ帰れない場所で1人暮らしをしたい」と公立鳥取環境大学に進学した。奥井さんは、4年生の2019年12月、智頭町の林業就業希望者の募集を知った。就職先は決まっていたが、「好きではないスーツを着て就職活動をすることに納得できていない状態で、自身の生き方を見つけたいと強く感じていました」と奥井さん。
大学4年のときに家具製作体験をして木に関心を持っていたこともあり、この募集に強くひかれ、内定を辞退。大学時代のボランティアサークルの理事長から今の職場を紹介してもらい20年7月に新卒で入社した。
仕事は、製材となる良質な木を育成するために木を切って間引く「間伐(かんばつ)」。夏場は週4〜5日、梅雨時期や冬は天候を見て1〜3日、3人組で朝7時から夕方5時まで森林に入りチェーンソーなどを使い作業する。
「間伐した長さ30mの木は力任せではなく、木の重心を持つことでスムーズに動かせます。チェーンソーの音で声が聞こえにくいときはジェスチャーで説明もします。観察力とコミュニケーションが非常に大切な仕事ですね」。現場で学びながら林業家として成長する日々だ。
暮らしの資源が揃うまちここなら自給自足できる
奥井さんにはもう1つ仕事がある。それはデザイナーとしての活動だ。高校でプロダクトデザインを専攻していたこともあり、自宅横に溶接作業場を設け、地元カフェや仕事場の机を製作。さらに森林セミナーの告知リーフレットの作成、20年12月には地元の智頭農林高校が携わった商品「智頭杉鉛筆」のフライヤーのデザインなど、林業を広げる広報の役割も担っている。
仕事場は町の中心部にあるシェアオフィス。森林での仕事を終えて自宅に戻り準備をして、夜に片道約5kmを自転車で出勤する。じつは自転車は、理想とする「持続可能な循環型社会」の〝先取り体験〞でもある。
「極力、化石燃料を使わない生活を目指して、1年前から移動手段は自転車です。道に杉皮がよく落ちているのを見て〝智頭だなぁ〞と実感しますね(笑)」
東京から鳥取市、そして智頭町と生活拠点をより自然に近づけている奥井さん。智頭町を「おいしい水、ホタル、森林、どれも東京ではお金を払ったり、わざわざ出かけて得られるもの。それがすぐそばにある、あまりにも豊かな場所」と称賛する。
今、奥井さんは生ごみの堆肥再生やマツを着火材として商品化する準備も進めている。「智頭なら本当に自給自足ができると思います」と目を輝かせる。
循環型社会の実現に向けて、智頭での活動はまだ増えそうだ。
智頭町のここが好き
智頭町
岡山県と隣接し町面積の約93%が森に囲まれた人口約6600人の町。町の木はスギ。江戸時代は参勤交代の宿場町、明治以降は林業の町として栄えた。景観整備された智頭宿には国重要文化財「石谷家住宅」など、歴史を感じさせる風情も残る。
智頭町の移住支援
町が主体となり「智頭町空き家・土地情報バンク」を運営し、智頭町への移住希望者に空き家や土地の最新情報を紹介。空き家の改修・購入に対する補助金や所有者の家財道具の処分費への補助金など、住まいに関して幅広く支援している。また保育料軽減など子育て世帯に対する補助や、2021年度からは新婚世帯(3年以内に婚姻届を提出した者)のIJUターン者に10万円(うち5万円は地域通貨)を支給する制度も始まっている。
(問)智頭町企画課 ☎0858-75-4112
https://www1.town.chizu.tottori.jp/chizu/town/emigration/
鳥取暮らしに関するお問い合わせ・資料請求・相談窓口
https://furusato.tori-info.co.jp/iju/
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