特別に手厚い移住者支援をしているわけではないのだが、毎年人口が増え続けている南箕輪村。特に家族連れの転入が多く、村の平均年齢は43.8歳と県内で最も若い。「村の子どもは、村で育てる」という信念に、昔から寄り添い続ける村の姿が見えてきた。
掲載:2024年7月号
地価が安いので、周辺の自治体で土地を探す際に不動産業者に南箕輪村を紹介されて移住する人も。空き家バンクもある。
長野県南箕輪村(みなみみのわむら)
天竜川の上流に位置し、2つのアルプスを望む村。伊那(いな)盆地の中央に位置し、近隣市街地へアクセス良好。1875年の村政開始から一度も合併や分離をしておらず、来年150周年を迎える。面積は40.99㎢だが、このうち約半分は飛び地で人は住んでいない。東京から中央自動車道経由で約3時間、名古屋から中央自動車道経由で約2時間30分。
南箕輪村のキャラクター、アカマツの妖精まっくん。ゆるキャラグランプリでは最下位となったが、村内の子どもたちには絶大な人気を誇る。
子育て支援が手厚く、地価も手ごろな村
関東圏と中京圏の両方からのアクセスが良好な上伊那エリア。伊那市の北部に中心市街地を広げる南箕輪村は、2つのアルプスを見渡す眺望と山麓を覆う深い森、田園風景が広がる美しい村だ。じつはここ、人口減少と高齢化が進む自治体が多い長野県において、若い世代の人口増加が目立つ村としてたびたび話題に上っている。
南箕輪村の人口は、1975年ごろから右肩上がりに増え続け、現在は1万6054人(5月1日現在)。1875年の村制施行時の2333人と比べて6倍以上となっている。2023年の長野県市町村別人口動態(日本人)によると、人口が増加したのは南箕輪村を含む2町村のみ。20年の国勢調査では、高齢化率は県内市町村で最も低い23.5%、平均年齢は県で最も若い43.8歳だ。
なぜ南箕輪村に人が集まるのだろうか。地域づくり推進課の東澤規江さんに伺った。
「移住の専門部署はありますが、ほかの自治体と比べて突出して移住をアピールしているわけではないんです。でも、住んでいる方の口コミで『なんだか住みやすそう』と興味を持ってもらえることが多いようです」
この「口コミ」には、先人が種を蒔いてきた土壌がある。日本の人口が増加の一途をたどっていた昭和時代に、先駆的な手厚い子育て支援をスタートした。
「保育料や子どもの医療費負担を段階的に引き下げるなどの施策を行ってきました。それに加え、不動産価格が比較的安いこともあって、家を建てたり子どもが生まれたりなどのタイミングで、周辺の市町村から転入してくるご家族が多かったようです。今では、そんな方たちが先輩移住者となり、『子育てするなら南箕輪村がいいよ』と口コミで推してくれています」
信州大芝(おおしば)高原の大芝公園は、湖やアスレチック、散策路などがある憩いの場所。近くには温泉施設やキャンプ場、カフェなどが点在。
並木道の奥にあるのが信州大学農学部。南箕輪村は日本で唯一、保育園から大学院まである村だ。卒業生が定住するために戻ってくるケースも多い。
以前は村内に小学校は1校だけで、村の南部に住む子どもたちは、最寄りとなる伊那市の学校に通っていた。しかし、当時の村長が「村の子どもは村の小学校に通わせたい」と、木材をふんだんに使った小学校を1996年に新設。森に囲まれたこの学校は、自然のなかで子育てしたい家族に好評で、南部エリアに移り住む人も増えている。
周辺の自治体と比べて地価が安いことも、若い家族の「マイホームを持つ」という夢を後押ししている。
「昔は上下水道が整備されていない土地があり、地価が上がらなかったようです。今はインフラも整備されましたが、土地の価格は周辺に比べてまだ安いです。景色がよくて買い物にも行きやすい、子育てにちょうどいい土地が安く入手できます」
子育て世帯が暮らしやすい環境を整えることに尽力してきた南箕輪村。そのサービスを利用した先輩移住者たちの口コミが足がかりとなり、さらに子育て世帯の移住者が増えるという好循環が起こり始めている。「村の子どもは、村で育てる」という基本を要に据えた政策が、時を超えて大きな成果をもたらした。
村内には2つの小学校がある。写真の南部小学校は1996年に新設された学校で、中央アルプスを背にした眺めのよい場所に立つ。
開放感のある南部小学校のランチルーム。開設当初は全校児童が一緒に給食を食べていたが、現在は児童数が増えたので1、2、3年生が利用している。
子育ての拠点となる「南箕輪村こども館」。遊戯室や放課後児童クラブ、創作室、学習スペース、子育て教育支援相談室、女性の就業お仕事相談窓口などがある。
南箕輪村が人気のポイント
- いち早くスタートした手厚い子育て支援
- 人口の7割以上が移住者で、村民が移住者に慣れている
- 周辺自治体と比べて地価が安い
- 女性の再就職サポートがある
- 村内に保育園から大学院まである
【移住者の声】
さりげなく助けてくれる心地よい距離感がうれしい
有時倫子(ありときのりこ)さん(41歳)
2022年に兵庫県から移住してきた有時さん一家。夫の直哉さんが信州大学農学部に通っていたため、移住先として南箕輪村を選んだ。
「山がきれい、水がきれいで、水道水ですらおいしいことにびっくりしました。南部小学校に見学に行って、木の校舎や窓が大きくてオープンな教室などを見て『子どもをここに通わせたい!』と思いました」
最初は「がんばって地域に溶け込まなくては」と緊張していた倫子さんだが、村の人口の7割以上が移住者ということもあり、すぐになじむことができたという。
「地域が受け入れてくれているという安心感がすごくあります。皆さん、いろいろ質問してくるわけでもなく、だけどいつも気にかけてくれていて、例えば雪かきなどで困っていると、さっと来て手伝ってくださいます。その距離感がとても心地よくて、ありがたいです」
南箕輪村の移住の問い合わせ
コテージでお試し暮らしが可能
高校3年生までの子どもの医療費が無料。子育て支援の拠点施設「こども館」や一時的保育「すくすくはうす」、病児・病後児保育などもある。信州大芝高原の宿泊施設「高原のコテージ」は、お試し住宅として格安で利用可能(要件あり)。
お問い合わせ:南箕輪村地域づくり推進課 ☎︎0265-98-6640
https://minamiminowa.net
具体的に移住を考えている人は、信州大芝高原にある「高原のコテージ」をお試し住宅として利用可能(1人2000円)。
「伊那盆地の中心なので、買い物や通勤にも便利な田舎です!」(南箕輪村地域づくり推進課の東澤規江さん)
文/はっさく堂 写真提供/長野県南箕輪村
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