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田舎暮らしの本 1月号

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田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

異常気象―そしてパリ五輪/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(56)【千葉県八街市】

畑仕事をし、洗濯をし、煮物を作る。そしてウナギの世話もする。冷凍庫で凍らせたペットボトルを朝と夕、水槽に入れてやる。ウナギだって家族だものね。

畑仕事をし、洗濯をし、煮物を作る。そしてウナギの世話もする。冷凍庫で凍らせたペットボトルを朝と夕、水槽に入れてやる。ウナギだって家族だものね。

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  • 人参につられて馬は走る。僕は、一晩冷蔵庫に入れておいた、よく冷えたマクワウリにつられて猛暑の中を働く。
  • 仕事の合間、毎日必ず夕食の1品を作っておく。今日は売り物にならないカボチャ、それを豚肉とともに太陽光発電につないだ鍋に仕掛けておく。
  • 光には重さがある。午後1時の太陽を真上から受けてそう思う。光がのしかかって来る感じなのだ。
  • 荷物を運んで行ったクロネコの営業所、その足で立ち寄ったスーパー。そこでのエアコンはとても心地よい。しかしエアコンを設置しようと思わないのは、ひょっとして、隙間だらけのボロい家に暮らしているせいか。
  • 秋冬ものの野菜の苗は毎年8月初旬に作る。暑さゆえにそもそも管理が難しいが、今年の難しさは格別である。
  • どんなに高温でも、雨が全く降らなくても草は勢いよく育つ。草さえも枯れる・・・それが異常気象の最悪シナリオであろうか。
  • 10回、20回、100回、200回。鍬の打ち込みとともに単調な時が流れる。汗も流れる。食べ物を作る・・・その作業はちっともドラマチックじゃない。
  • この猛暑の中、テストケースとして引っ張り出されたキャベツの苗たち。僕も、後に続く他の苗たちも成り行きに注目している。
  • 小さな苗は光を遮るものがないと植えた翌日にはぐったりする。水やりしても効果がない。そこらにあるもので光を遮ってやる。見てくれはなんともひどいが。
  • 高温で雨が降らない。それを快適な生活条件だとするカメムシの心が僕にはわからない。僕が踏み殺しそこなったヤツらは再びピーマンの枝に登ってくる。
  • 35度という暑さの中で裸。驚く人もいるが、ある意味で合理的。全身にあふれる汗は、邪魔するものがないゆえ、どんどん蒸発してく。汗は体温を下げるという生理作用にこの裸仕事は理にかなっているのである。ついでに書くと、熱中症を招く要因は体表温度の高さではなく体内の温度だと言われる。僕が熱中症にならないのはこの働き方でもって体の深部温度が低く保たれているからではあるまいか。
  • 例年ならば種まき後3週間の苗はもっと大きい。しかし今年は成長が鈍く、その小さな苗が焼け付くような光の中に放り出されたらどれだけ苦しいか。わかってはいるのだが、これもテスト。百姓生活での今後に役立つ体験だと考え、やってみた。
  • スコップ仕事のなかでもとりわけエネルギーを使うのがこの写真、40センチ、場合によっては50センチまで掘り下げ、地表の土と反転する作業だ。自分は何歳まで百姓でいられるか。その判断材料のひとつがこの土の反転である。
  • いかに数多くの品を作るか。自分で食べるために、お客さんに喜んでもらうために。スーパーでこれだけの品を買って帰るのは大変だろう。それが玄関先まで届く。流通ドライバーに感謝である。
  • この場所は午後4時以降の、太陽が大きく西に傾いた時刻にも光が当たる。そして、小さな苗にとって、その西日というのは案外強いストレスとなる。なんとか生き延びてくれ。この掛布団の中に僕は半身を入れ、苗たちに囁きながら水やりするのである。
  • 腹筋は、人間の行動のすべてを支える重要なポイント。そう考えて僕は夕刻必ず腹筋台に乗る。腕に食いつく蚊のヤツらをパチパチと叩きながらの上下動だ。
  • ふるさと祝島での果物、その記憶の一番はこのマクワウリだ。身びいきだと言われるだろうが、完熟をよく冷やしておいたマクワウリはメロンよりも美味い。
  • トマトとゴーヤ。タップリの梅酢に泳がせ、畑から上がって風呂に入る前、冷凍室に入れておく。時間は15分ほど。ビールのつまみにグウーである。
  • 現在12匹いるヒヨコ。その中でこれが最も僕に親近感を示す。ママの後を追って地面を走るばかリ。まだこんなに高い所から景色を眺めたことがない。
  • 3日がかりで整地した畑に人参の種を落としていく。セミが鳴き、ホトトギスも鳴く。この瞬間、胸にあるのは心地よい風呂の湯、よく冷えたビールてある。
  • 人参への水やりの後、この日はウナギなどの魚がいるプールにも大量に注水した。プールの表面を覆いつくすアオコ。それでも彼らは生きていた。さあ冷たく新鮮な水だぜ、みんな。
  • お客さんに送る荷物に入れたサツマイモ。穴に手を入れ探るが、このサイズに出会えるのは5回に1回ほど。汗が目に入る。猛暑の今年は、汗との戦いも過酷だ。
  • 草を刈りながらラジオでパリからのマラソン中継を聴く。42キロという長い距離を、飛ぶでもなく、回転するでもなく、ただただ足を前に動かして進む。かつて何度もフルマラソンを走った僕は、その単調さと辛抱を百姓暮らしと重ね合わせる。
  • この暑さの中で、人間も動物も生きるのに懸命である。ハクビシンかタヌキか。カボチャを齧り、マクワウリを齧り、今はひたすらピーナツを掘り出して食う。
  • ランニングの途中、多くのセミが道路で仰向けになっているのを見る。地上に出てからの命は短いと言われるセミたちにとって、今年の猛暑はこたえたか、平気だったか。
  • 畑仕事をし、洗濯をし、煮物を作る。そしてウナギの世話もする。冷凍庫で凍らせたペットボトルを朝と夕、水槽に入れてやる。ウナギだって家族だものね。
  • とてつもない金額のこのマンション。かつてこの場所でナスやイモを作っていた人と僕は顔なじみだったが、これを目にしたらどんな感慨を催すだろうか。
  • このカボチャたちは最後まで宙に浮かんでいられるか。それともケーブルと支柱が音を上げて地面に落下するか…77歳の男が見せる幼き遊び心である。
  • 百姓はいつも次の一手を考える。半月前までエダマメのあった場所。ここにキャベツを植える。そして来春にはジャガイモを植える。
  • こんな姿勢だと背骨が丸くなっているのがよくわかる。なぜ農家の人は背中が丸いのか。子供の頃の疑問がようやくいま解けた。
  • 瓦屋根の家屋はそうでない家屋に比べ、重量負担が大きいという。土嚢を作って屋根に運び上げるたび、さらに負荷が大きくなるなあ、うちの家は。そう思う
  • 土嚢を抱いて脚立を登る時に要するのは力である。運び上げた土嚢を所定の場所に設置するために移動するときに要するのは全身のバランス感覚である。
  • もしかしたら今年のサトイモは高値になるか。荷物を出しに軽トラを走らせる道の左右で目にするサトイモの葉はどれも火傷を負っていた。

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