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【親子で田舎体験vol.3(後編)】移住したくても移住できない!? 「おしゃれ」で「新しい」田舎らしくない田舎。人口の半分が移住者の人気のまち で“子持ち様論争”を考える|北海道東川町
執筆者:揖斐 麗歌
移住したくても移住できない!? 移住者が人口の半数を占める人気のまち、北海道東川町で親子体験移住!(後編)
東京在住、共働き。6歳息子と3歳の娘の母である筆者が、親子で田舎を巡り、その様子をレポートする連載「親子で田舎時間」。第3回は、移住希望者の数に住宅供給数が追い付かず、もはや「移住したくても、なかなか移住できないまち」とも言われている北海道東川町に行ってきました。今回は、前編・後編にわたってお届けします。度々話題に上がる“子持ち様論争”。子育て世帯に人気の町で“子持ち様論争”はあるのでしょうか?
(※前編の記事はこちら: 素敵すぎる「東川小学校」を見学! 子どもと一緒にリモートワークも )
後半は夫も合流! 東川町の魅力を体感
|おしゃれな田舎!町内散策が楽しい
週末にあたる後半は、町内を散策。東川町には、移住者が起業する際、100万円を上限に対象事業の1/3が助成される「起業家支援事業」があり、東川町の環境に惹かれた移住者が、ハイセンスなカフェ、レストラン、セレクトショップなどを次々とオープンさせ、街を魅力的にしています。また、木工家具やクラフトのアトリエやギャラリーも多く、アートを身近に感じることができます。
「おしゃれ」と「田舎」、反意語のように感じる2つの言葉が結びついているのが、東川町の魅力!
|ヨシノリコーヒー
東川町は、北海道でも唯一の「上水道のないまち」。町民は、大雪山の大自然が蓄えた雪解け水が長い年月をかけて地中深くに染み込んで運ばれた天然水を、生活水として使用しています。ミネラルも豊富に含まれた最上級の美味しい水を無料で使えるまち! なんという贅沢!
そんな「美味しい水」を活かして、東川町には魅力的な珈琲ショップがたくさんあります。なかでも気になっていた、ヨシノリコーヒーへ。町内外から多いときには1日に300人が訪れるという東川町随一の珈琲ショップです。
SNSで見てはいたけれど、広大な田園の真ん中に唐突に表れる店舗に驚きました。360度の田園は圧巻で、写真を撮らずにはいられない!
コーヒーと子どもたち用にジュースと焼き菓子を購入し、店内でいただきました。ゆっくりコーヒーを楽しむために遠くからもお客さんがきている場所に子どもを連れていくのことに申し訳なさを感じていたのですが、訪れてみて、その温かい雰囲気になんだかホッとしました。
談笑するお客さんの声、子どもたちに優しく声をかけてくださるスタッフの方……!
オーナーの轡田紗世さん
なかでも、パワースポットのような明るさでお店を切り盛りしていたのが、オーナーの轡田(くつわだ)紗世さんです。轡田さんは小学生の娘さんがいて、子育てをしながらヨシノリコーヒーを経営しています。ヨシノリコーヒーは、本店を含め東川町内に2店舗、旭川市に1店舗あり、加えてコーヒー豆のネット通販も行っています。その仕事量はきっと私の想像以上に違いありません。 子育てとの両立、どのようにしているのだろう……! お話を聞かせてもらいました。
移住のきっかけと田舎暮らしの驚き
轡田さんは、コーヒーショップの開店のために、出産後すぐに、お隣の旭川市から東川町に夫婦で移住してきたのだそう。お隣といっても、北海道第2の都市である旭川市と、人口約8000人の東川町は、暮らし方も文化もまったく違っていて、当初は田舎ならではの近所付き合いの濃厚さに戸惑うことも多かったといいます。
「引っ越ししてきて最初に驚いたのは、町内会長が突然やってきて、区域のすべてのお家に挨拶に行くことになったとき。私のそれまでの感覚だと、引っ越しの挨拶って、お向かいさんとお隣さんの数件のレベルだったから。店舗兼自宅が完成したときの建築会社主催のお披露目会には、ほとんどすべての近所の方がいらっしゃってて、建築段階から近所中の話題になっていたようです(笑)」
田舎の文化と地域コミュニティへの適応
都会にはない田舎ならではの文化に、ストレスを感じることやときに衝突することもあったという轡田さんですが(衝突した相手は、今はいちばんの相談相手になっているそう)、移住するにあたって、先住民の習わしを尊重することや、地域コミュニティに参加することは、田舎暮らしには適応するためには必須だといいます。
「オープン当初は娘はまだ赤ちゃん。コーヒーショップの経営も初めてなら、子育てもはじめてで、その両立は、今思い出しても過酷でした! そんなときに近所の方やママ友が代わる代わる子どもの面倒を見に来てくれたのが本当にありがたくて。今も、例えば、娘の習い事の送迎が難しいとき、連れていくよーと声をかけてくれる人がいたり、自宅を留守にするときや、子どもの登下校時などに、異変があったら知らせてくれるコミュニティがあることで、安心して暮らせています。東川町に移住して、人生観が180度変りました。」
地域とのつながりと今後の展望
子育て中に、地域とのつながりに助けられたという轡田さん。今後は、ヨシノリコーヒーを、地域のコミュニティの拠点のようにしていけたら、と考えているのだそう。
「コーヒー一杯を飲みに来て、そこで気軽に相談がしあえるような、そんな場所になってきているのを感じています。あと、私は、子育て中のママに、子育てを理由に働くことをあきらめずに済む場所を提供したいと思っていて、ヨシノリコーヒーでは、ママ友でもあるスタッフがたくさん働いてくれています。日々の家事と子育てをマルチタスクでこなしてきたママは、高いスキルのある人材! 活躍してもらわなくちゃもったいない!」
「お店の横に別宅をつくって、子どもの“預かり場”にしています。突然の学級閉鎖などがあった際には希望があればスタッフの子どもをそこで預かります。飽きないように課題を渡したりして。そういうときには、誰かが犠牲になることがないように意識して働き方をミーティングします。状況に合わせてルールをカスタマイズして、環境を整えることを最重要課題だと思っています。」
会社が、子どもの有無にかかわらず、従業員のそれぞれの状況を理解し、環境を整える……。
……今、企業にもとめられているのはそれだ!
|大雪旭岳源水
ヨシノリコーヒーの轡田さんが東川町に移住することになった理由のひとつでもある、東川町の水。大雪山の自然が作り上げた銘水がこんこんと湧き出る、大雪旭岳源水に行ってきました。
ミネラルがバランスよく含まれた水はなんとなく甘みが感じられ、水温は年間を通して6~7度と冷たくておいしい! 岩から流れ出る水をペットボトルに汲んで飲む、という体験が楽しくて、娘と息子は大量に水を飲んでおなかがちゃぷちゃぷに(笑)
|デジタル地域通貨を町民の80%が利用! キャッシュレス最先端のまち
東川町滞在中、スーパーや飲食店などいたる所で見かけたのが、「HUC加盟店」の文字。HUC((ひがしかわユニバーサルカード)は、町内100以上の店舗で利用できる、IC式ポイントカード。買い物だけではなく、イベントへの参加や、金融機関や町の施設、行政からのポイント付与など、幅広く活用されているデジタル地域通貨です。スナックのカラオケ高得点者に対してHUCポイントが贈呈されるのだそう! なんとアットホーム!
驚くべきはその浸透率。2017年11月にスタートして約7年、なんと町民の8割が使用しているのだそう。まさか北海道の人口1万人に小さな町で、こんなにキャッシュレス化が進んでいたとは!
|後半の宿泊は、東川暮らし体験館
後半の2日は、東川町がふるさと納税の返礼品として宿泊を受けている施設、東川暮らし体験館に宿泊しました。
ちなみに、東川町では、ふるさと納税を「投資」、納税者を「株主」と呼んでいます。このことに限らず、東川町について知るほどに思ったのは、東川町が、まるで会社経営のようにまちが運営されているということ。慣習や忖度、古い、という田舎のイメージを、東川町からは感じません。むしろ新しい!
東川町の家具工房の洗練された家具が並べられたお部屋は、まるで北欧のお家のよう。
東川暮らし体験館の前には、遊具がある公園と、芝生が広がる広場があります。本当に目の前なので、日が落ちるギリギリまで公園で遊ばせてあげることができました。都内の公園だと、禁止になっていることも多い、キャッチボールやサッカーもまわりを気にせず楽しめるので息子は大はしゃぎ!
洗練されていて新しい、田舎らしくない田舎
昔からの景観を大切に守っているのだけど、その景観をビジネスにした施設は、現代的なセンスに溢れ洗練されている。デジタル地域通貨が浸透していてキャッシュレス化が進んでいる。……4泊5日の短い期間ですが、滞在を経た、私の東川町の印象は、「田舎なのにおしゃれ!」「田舎なのにあたらしい!」。
それは東川町に、「写真の町」という共通認識が浸透していて、さらに人口の半分が移住者なので、変化を受け入れやすく、新しいことを取り入れていく雰囲気があるからでしょうか。
|「子持ち様論争」のない社会とは
さて、冒頭の、「子育て世帯に人気のまちに、子持ち様論争はあるのか」について。
まず物理的に、広大な土地に対して人口が少ない東川町は、騒音によるご近所トラブルとか、交通機関での問題はなさそう。
でも、子育て世帯の過半数が共働きなのは東川町も同じだそうで、職場ではやはりいろいろあるだろうなと思う。
そう思ったときに思い出すのが、ヨシノリコーヒーの轡田さんの言葉です。
「犠牲になる人がいないように、スタッフ全員の状況を知ったうえで、環境を整えることを最重要課題にしています」
轡田さんはこうも言っていました。
「子どもが熱を出したとか、急に仕事が入ったってときに、助け合える環境は、確かに都会より田舎の方があると思う。でもそれが、ただ関係性によるものになっていると、きっと負担がかかる人がでてくるし、頼りづらいと感じる人もいると思う。だから、ちゃんと行政システムにできるといいなと思っているの」
人口が少なく、その半分が移住者というまちだから、人々のまちづくりへの参加意識が高く、新しい施策が浸透しやすい東川町。
「子持ち様論争」のない社会システムを生み出すのは、もしかしたら東川町のような地方創生をけん引する地方都市なのかも!?
……と期待してしまったのでした。
(※前編の記事はこちら: 素敵すぎる「東川小学校」を見学! 子どもと一緒にリモートワークも )
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この記事を書いた人
揖斐 麗歌
いび れいか|東京都在住、宮崎県出身。出版社勤務を経て、2023年子育て世帯と地域をつなぐことを掲げて㈱IBIを設立。6歳の男の子と2歳の女の子の子育て中。田舎ならではの親子時間を目的に、リモートワークをしながら親子で日本各地を巡っています。
Twitter:@oyakodeinaka
Instagram:@oyakodeinaka
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