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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

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中村蒼さんインタビュー「誰かの影響を受けて今こうしてここにいると、改めて思える物語です」|映画『アイミタガイ』

吸引力の強いまなざしが底抜けにいい人にもケタ外れの切れ者にも見える、確かな実力派の俳優、中村蒼さん。連作短編小説を一本の長編映画として構成した『アイミタガイ』に出演しています。中村さんが演じるのは、黒木華さん演じるヒロインの心優しい恋人。映画について、ロケ地の三重県桑名市について、子ども時代の記憶について聞きました。

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掲載:2024年11月号

田舎暮らしの本のインタビューを受ける中村蒼さん
なかむら・あおい●1991年生まれ、福岡県出身。2006年に俳優デビュー。最近の主な出演作はNHK連続テレビ小説『エール』『らんまん』、『大奥Season2』、『ギークス~警察署の変人たち~』、『沈黙の艦隊シーズン1~東京湾大海戦~』など。放送中のNHKドラマ10『宙わたる教室』に出演するほか、25年1月より放送のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演が決定している。

 

自分とどこか似通った澄人役を演じる

 「オファーをいただいたときはうれしかったです。まずは黒木さんはじめ、皆さんとご一緒したい!という気持ちになりました。それで原作、脚本と読んでいくと、とても温かい物語で。点と点がつながり、線になって、それぞれがそれぞれに小さな影響を与え、やがて大きな奇跡になる。きっと自分も誰かに影響を与え、誰かの影響を受けて今こうしてここにいるんだなと改めて思えるようで」

 そう振り返るのは、映画『アイミタガイ』に出演した中村蒼さん。黒木華さん演じる梓(あずさ)の恋人、澄人(すみと)を演じた。有能なウエディングプランナーである彼女にとっては、やや頼りない存在。結婚願望のない梓と、彼女を深く愛する澄人。互いの思いは、少しだけすれ違う。

 「家族や職場にも、どこかタイミングが悪い人っていたりしますよね。澄人はまさにそういう人。それで人をイライラさせてしまう場合もあるでしょうけど(笑)、そうならないように。人から愛される、梓にも〝一緒にいてほしい〞と思われる男にならないと。演じるうえで、そんなことを意識していました」

 そう語る中村さんのまとう空気は穏やかで静か。澄人には彼の優しさがそのまま宿る。

 「なんか頑張っているけどそこじゃない、そんなところは確かに似ていると思います(笑)。不思議なもので、具体的にどこかは自分ではわかりませんけど。だから人って、変わらないんでしょうね。例えば何かを判断するとき、いつも自分が最初に思ったのとは違うことが多いから今回はその逆で、と思ったらそのままでよかった……とか(笑)。些細なことで、よく覚えていませんけど」

 ある日、梓はかけがえのない親友の叶海(かなみ)を突然に亡くす。けれどその死を受け入れられず、叶海とのトーク画面にメッセージを送り続ける。

 「澄人は、どこか頼れる人でもあります。大切な人が苦しい状況にあるとき、腫れ物に触るようにそれを避けながらずっとそばにいることもできますよね。でも彼は、〝まあそういうことがあって君は大変だから、僕は今こうしようと思っている〞とちゃんと言葉で伝えます。それはとてもいいことだなと。何が正解かはわかりませんが、センシティブな問題だからと不自然なくらいそれに触れないのではなく、ちゃんと踏み込む。なかなかできないことで、僕もそうありたいなと」

 中村さん自身はどうなのだろう? どん底に思える状況に陥っても、「わりと時間で解決するしかないかな、という感じで」と、そこもあくまで自然体。

 「これまでを振り返ると、いろいろあったけどわりと楽しく過ごせています。だから今起きている悲しいことも完全なマイナスではないのかも、と思うタイプです」

 

日本人らしい言葉「アイミタガイ」

 「黒木さん、とてもステキな方で。実力があってお芝居に間違いがないのはもちろんわかっていましたが、そういう方とご一緒するのは緊張してしまって。〝下手だな、と思われないかな?〞とドキドキしていまいち身が入らないというか……(笑)」 

 と、恋人に扮した黒木華さんとの撮影を振り返る。

  「電車でのシーンは、夜に撮影しました。寒い時季でもあって、撮影の合間に、温かいコーヒーを一緒に飲んでいたんです。フタの付いた紙コップでしたが、僕はいつもフタを外して飲むんですね。すると黒木さんが、〝私もそうやって飲みます〞と。なんだか、すごくうれしかったです」

 時間の限られた夜の駅での撮影、大勢のスタッフでごった返すはずの現場の片隅で、2人がそんな会話をしながらほほ笑み合っていたと思うと、どこかほっこりしてしまう。まるで梓と澄人のよう。なんとなく2人のまとう空気は、そもそも似通っているように思える。

 「確かにどちらもたくさんお話をするわけではないので、ときどき話す、という感じでしたけど」 

 と中村さん。2人にはこんなシーンもある。澄人の前に立つ梓が、ちょっとふざけて、後ろを振り返ることなく真っすぐに倒れ込む。それを慌てて支える澄人。それは、〝この人ならきっと支えてくれる〞という信頼の証でもある。

 「撮影しながら監督が、〝もうちょっと〞〝もうちょっと〞と、どんどん黒木さんとの距離が長くなったんです。最初は、黒木さんが僕のことを信じてくれなかったのかも?(笑)。いや映像で見ると、もっと離れたほうがいいという判断でしょうが、受け止められなかったらどうしよう?と思って。黒木さんは男前な人でもあって、〝怖い!〞みたいなことはなく、〝はいっ〞と勢いよく倒れてくるので、その分こちらは必死で。澄人はそんなことをするとは思っていないところから始まりますから、ドキドキするけど……ドキドキしちゃダメ!と思いながらやっていました(笑)」 

 物語は梓と澄人以外に、一人暮らしの老婦人とヘルパーさん、亡くなった親友・叶海の両親、児童養護施設の職員と、いくつかの物語が同時進行。やがて物語はひとつの線となり、「アイミタガイ」という不思議な響きの言葉に収束する。初めてそれを聞いた中村さんは、「日本人らしいというのか、ステキな言葉だな」と思ったそう。

 「僕はわりと〝自分なんて……〞と思ってしまうタイプの人間ですけど、そんな自分でも、誰かのためになっているのかもしれない。当たり前だけど忘れがちなことでもあって、だからこそ感謝することの大切さを改めて感じました。人に迷惑をかけてはいけないとも教わりますが、自然とそうなってしまうものでもあって。迷惑をかけてはいけないと思う人ほど、そういうときに人を許せなくなってしまう気もしますよね。大切なのは、そんなときでも相手を許してあげること。自分も、たとえ迷惑をかけられても誰かを助ける人でありたい。心に余裕を持って生きていかないとな、と」 

 言葉の端々から、その人柄がじんわりとにじむ。どうしたら彼のように優しい人になれるのだろう。それこそ、「アイミタガイ」のおかげ? 誰かに背中を押された結果なのだろうか。

 「本当にそうです。俳優になったのも両親がすすめてくれたから。背中を押されたというより、中学生でまだ自分のこともわからず、半分は親バカというのがあったかもしれませんけど。それで今も、現在進行形で多くの人に支えられています。自分の力だけで!なんてまったく思いません。こうした作品でも監督の演出、共演者の方と相対したから想像以上の動きができた。そんなことばかりで」 

 この映画にもまた、優しさがあふれている。「みんながお互いを気遣う、優しさにあふれた現場でした」と中村さん。

 「自然に優しくできる人もいるでしょうけど、僕はわりと意識しないとできない人間で。だからなるべく意識するようにしています。どうしても、〝人にこう思われたい〞〝こうは思われたくない〞と、顔色をうかがってしまうところがあるんです。でも嫌われていることにすら気づかない!くらいのメンタルのほうが人生は楽しい気もします。それで、自分はこう思う、と真っすぐ発言できるのがいちばんいい。人にどう思われてもいい、という精神でいきなさい――、と自分の子には思っています(笑)」

 そんな中村さんに、完成した映画はどう映っただろう。

 「いつも自分が出演させていただいた作品は片目で観るというか、手に汗握りながらという感じで。でも今回は、一観客として入り込めました。それで、ステキな映画だなあって。亡くなった佐々部清監督の書かれた脚本からスタートし、ロケ地の方がたもそうですが、多くの方に協力していただいてできた映画。改めて、ひとつの作品をつくるには誰一人欠けてはいけないんだと強く感じました」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける中村蒼さん

 

故郷の福岡に似ていた三重県桑名市

 「近江八幡は山々が広がり、伝統的な町並みが続いていました。空気が澄むせいか、桑名での撮影は寒さも心地いいと思えました。どこか開放的で、深呼吸をしたくなるようでもあって」

 映画のロケ地のひとつは、三重県桑名市だった。

 「桑名ではうどんにもハマグリが入っていたりして、〝ハマグリ推し〞でした(笑)。僕の実家がある福岡は博多駅周辺の一部が栄え、ちょっと電車で行くと田舎という土地柄なんです。桑名もほどよく栄えていてほどよく田舎、僕の住んでいたところにちょっと似ていました」

 そうして記憶は、するすると子どものころへとさかのぼる。

 「一応福岡市内ですけど、実家の隣は田んぼで。通学路の近道に田んぼを通ったりしていました。稲刈りされた後の稲を踏みながら歩くのが気持ちよかったのを覚えています。昔は田畑でよく木を燃やしたりしていましたよね、あれいい匂いがするんですよ。また母方の実家が佐賀県鳥栖市(とすし)で、そこも隣には畑があって。おじいちゃんが野菜を育てていました。おじいちゃんとは、ツクシを採りに行ったこともあったな。持ち帰って、家で料理をして食べたりして」

 中村さんといえば、NHK連続テレビ小説『エール』での役も記憶に新しい。先日は福島競馬場でプレゼンターを務めるなど、福島とのつながりは今に至るまで続いている。

 「朝ドラは年に2本、どんどん新しい作品が放送されるので、見てくれた方の思いも薄れていくものかと思っていました。でもそんなふうに、プレゼンターとして声を掛けていただけることもうれしい。『エール』では福島弁を話す役で、方言ならではの温かさを感じながら演じました。福島の方って実際にお会いすると、〝つながり〞というものを大切にし、みんなで頑張ろう!という底力を感じさせてくれるんですよね」

 ジョッキー役を演じたりと、仕事柄、乗馬との縁もできたそう。

 「小さいころはグラウンドでよくサッカーをしていて。学生時代も一生懸命やっていました。東京に来てからもフットサルをやったりしたんです。でも、今はもうまったく……。普通に、しんどくなりました(笑)。おしゃべり系の芸人さんがやっているラジオを聴くのが癒やしの時間です」

 なんとなく、人の思いに敏感で、気疲れしてしまうタイプかも?と思ってしまう。俳優生活20年はすぐそこ、着実にキャリアを重ねている実力派なのに。

 「友達とは、そうしたことを気にすることなく付き合っています。地元の友達は福岡を出た人がほとんどで、東京にもいて。もともとあまり人に相談することはありませんが、友達にはつらかったこと、普通なら人に隠すようなことも話せるんです。でも、相談されることはあまりありません。相談しても……という感じなのだと思います」

 どこかとぼけながら笑う中村さん。最後に改めて映画のことを聞くと、その表情はキリっと引き締まる。

 「目の前に困っている人がいたら助ける、それがいつかの自分を助けることにつながる――。そんなことを信じられる映画です。しかもそうしたことがすっと心に入り込み、気づけば笑顔になっている。人は人とのつながりで生きている充実感を得ること、助け合いみたいなものの大切さを改めて教えてくれる作品です。ひょっとしたら、それはちょうど、〝田舎暮らし〞に通じるのかもしれませんね」

 

『アイミタガイ』

(配給:ショウゲート)

『アイミタガイ』/©2024「アイミタガイ」製作委員会 『アイミタガイ』/©2024「アイミタガイ」製作委員会
●原作:中條てい『アイミタガイ』(幻冬舎文庫) ●監督:草野翔吾 ●脚本:市井昌秀、佐々部清、草野翔吾 ●出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄、松本利(EXILE)、升毅、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン、草笛光子 ほか ●11月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

ウェディングプランナーの梓(黒木華)は、交際相手の澄人(中村蒼)との結婚に踏み出せずにいた。そんな梓に、親友である叶海(藤間爽子)の死の知らせが。同じころに叶海の両親、朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)のもとへ、娘に宛てて、ある児童養護施設からカードが届く。一方、金婚式を担当することになった梓。叔母の紹介でピアノの演奏を頼みに行ったこみち(草笛光子)の家で、中学時代の記憶が蘇る……。
©2024「アイミタガイ」製作委員会 https://aimitagai.jp/

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/高草木剛(VANITES) スタイリスト/荒木大輔

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