数々の移住・定住支援を展開し、交流人口増加による地域活性化にも力を注ぐ豊後高田市。「このまちで野菜づくりをしながら暮らそう」と移住した夫妻は、当初の想定になかった民泊やバーガー店に挑戦することに。順風満帆ではないものの前向きに取り組んでいる。
掲載:田舎暮らしの本 2024年11月号
国東半島西部に位置し、六郷満山ゆかりの名所が点在する豊後高田市。懐かしい商店街の景観が広がる「昭和の町」、海辺のリゾート「長崎鼻」、市内6カ所からなる「くにさき六郷温泉」など魅力が満載。大分空港から車で約45分。
夫妻で試行錯誤しながら
コストを抑えて店づくり
バーガー店と農泊を営む平手さん夫妻。定住できるか様子を見るため物件は賃貸にしてもらったが、ゆくゆくは買い取る計画。
豊後高田市の中心部から車で10分ほど走ると、清流の周辺に見渡す限りの田園風景が広がる。この場所で週末にバーガー店を営み、予約が入れば農泊も受け入れているのが、平手竜治(ひらてりゅうじ)さん(60歳)・里沙(りさ)さん(37歳)夫妻。以前は佐賀県内のマンションで暮らしながら、会社員やパートとして働いていたが、竜治さんの早期定年退職を機に畑付きの空き家を探し、2020年に移住した。
「豊後高田市に興味を持ち、移住女子ツアーや空き家探しで訪れ、移住者が多いことやまちの雰囲気にひかれたんです」
そう話す里沙さんは、自給自足的な生活に憧れていたそう。見つけた物件は、2階に居室を備えた離れの倉庫付き。市の担当者から「倉庫の2階で農泊もできますよ」と提案され、「そういう暮らし方も面白そう」と夫妻は検討を始めた。
まずは傷みが激しかった母屋をDIYで改修し、荒れていた庭を整地。併せて倉庫の2階を客室として整備し、20年秋に簡易宿所の許可を取ったが、コロナ禍で利用者はゼロだった。
そこで目をつけたのが、1階の倉庫スペースだ。
「使わないのはもったいないので、カフェにして地元の方が集える場所にしよう、と。昔から生豆を自家焙煎してコーヒーを楽しんでいましたから、その趣味も生かせると思って」
と、竜治さん。DIYで内装と設備を整え、地域にないハンバーガーがメインの店として21年7月に開業。今では地元の常連客に親しまれ、遠方から訪れる客も少なくないというが、必ずしも想定どおりではないと竜治さんは話す。
「自家製にこだわって焼いていたバンズは効率が悪いと気づき、国産小麦で手づくりされたものを取り寄せることに。また、来店者数が休日と平日でまったく違うという現実もあり、食材のロスを減らすため現在は週末のみの営業にしています」
商売の難しさを実感する半面、やりがいも大きい。
「特に農泊で都会から来た子どもたちは虫を見つけたり、満天の星を見たりするだけで、とても喜んでくれるんです」
と、里沙さん。今後は利用者を増やすために知恵を絞り、農泊と店だけで生計を立てられるようにすることが目標だ。
平日は夫妻ともに同じ運送会社の社員としてトラックドライバーの仕事をしている。
現在はコスト面も意識して可能な範囲で素材にこだわったメニューを提供。
一番人気のオリジナルバーガー(980円)。国産合いびき肉のパテ、チーズ、タマゴ入り。
倉庫を活用した「HiNATA cafe(ヒナタカフェ)」。営業は第1~3週の土・日曜10時30分~16時ごろ。
Instagram:@hinata_house.cafe.farm
イベント出店のため、2022年に中古のキッチンカーを約40万円で購入。
カフェの2階にある和室2部屋が農泊の客室。1日1組で1泊1人4000円(素泊まり)。
近所のヤギたちと遊ぶ平手さんファミリー。「飼い主さんがいつでも歓迎してくれるので、宿泊のお客さまをいつもご案内しています」と里沙さん。
裏庭にはDIYで広いウッドデッキを設置し、ブランコを手づくりした。
自宅の改修もDIY。キッチンは土間にしてダイニングは畳からフローリングへと改修した。
一部を野菜畑として利用している470坪の農地には既存のカボスの木やクリの木も。
収穫したカボス、ジャガイモ、ニンニク。このほかイモ類を中心に自然栽培で育てている。
自家製のカボスを使った夏・秋限定のカボススカッシュ(350円)。
目の前に美しい田園風景が広がり、背後には緑豊かな山が迫るロケーション。
平手さんに聞く!開業Q&A
Q. 農泊に必要な手続きは?
A. 消火器や火災報知器、防炎カーテンなどの設備を整え、消防署の消防法令適合通知書を取得。その後、保健所に申請して簡易宿所の許可をもらいました。
Q. 飲食店に必要な手続きは?
A. 保健所の指導に従ってシンクや網戸などの設備を揃え、講習を受けて食品衛生責任者の資格を取得。検査を経て飲食店営業許可が得られました。
Q. 毎月の経費はどれくらい?
A. 今は営業日が少ないのであまりかかりません。家賃や光熱費は事業用7割と自宅3割で計算し、食材代などを合わせて月10万円弱です。
文・写真/笹木博幸
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