本誌「住みたい田舎ベストランキング」で常にトップを保つ豊後高田市。その背景には、「地域の活力は人」という信念に基づく、まちづくりへの明確なビジョンがある。「人口増施策」と「新たな観光振興」を柱に据える取り組みについて、佐々木敏夫市長に話を伺った。
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大分県豊後高田市(ぶんごたかだし)
国東半島の西部に位置する豊後高田市は、国宝の富貴寺大堂をはじめとする六郷満山文化ゆかりの史跡や、国の重要文化的景観に選定された田染荘の小崎地区など、多様な自然・文化・歴史が息づく。大分空港から車で約40分。
真玉海岸にて佐々木敏夫市長(左)と編集部・柳(右)。
佐々木敏夫(ささき・としお)
●1942年、豊後高田市生まれ。87年から大分県議会議員を8期務め、県議会議長などを歴任。2017年に豊後高田市長に就任し、現在2期目。市政に関する数々のアイデアは、入浴時や就寝時などにひらめくことが多いという。
柳 順一(やなぎ・じゅんいち)
●1969年、神戸市生まれ。2008年から編集部に在籍し、地方移住の現場を見てきた。趣味は仏教と料理とパン屋巡り。
子育て支援の強化と観光資源の活用がカギ
レトロな風情を残す商店街「豊後高田昭和の町」の観光拠点施設「昭和ロマン蔵」にて。
編集部・柳(以下、柳) 市長就任当時から力を入れてきた取り組みについてお聞かせください。
佐々木市長(以下、市長) 全国的に少子高齢化が進むなかで豊後高田市の将来を見据えたとき、何もしなければ消滅してしまうという強い危機感がありました。地域の活力は人、投資なくして人口増なし。そこで人口増施策を最重点課題に位置付け、2018年から子育て支援を整えてきました。
柳 市外の園に通う場合も含めた0歳児からの保育園・幼稚園の無料化、中学生までの給食費の無料化、高校生までの医療費の無料化、県立高田高校や市外の高校へ通う場合の授業料無料化をはじめ、本当に充実していますね。
市長 さらに24年に、小・中・高校入学時の子育て応援入学祝い金として各5万円支給、高校生までの入院時の食事代無料化を開始。25年度からは高田高校での昼食無料提供を予定し、高校生までの「保育料、授業料、給食費、医療費の完全無料化」を実現します。
柳 国や県に先んじた数々の施策の手応えはいかがでしょうか。
市長 23年まで10年連続で人口の社会増を達成し、人口戦略会議の消滅可能性自治体からも脱却しました。最近の国勢調査でも、20歳〜39歳の若年女性人口増減率が県内で唯一、本市のみが増加しています。今後は人口の自然増の実現が目標です。
柳 そのきっかけづくりとなるのが、新たな観光振興ということでしょうか。
市長 国宝の富貴寺大堂、真木大堂、熊野磨崖仏といった六郷満山文化ゆかりの史跡に加えて、24年に国の史跡に指定された六郷山から「豊後高田昭和の町」まで、本市は豊かな観光資源に恵まれています。日本の夕陽百選選定の真玉海岸には23年、観光交流拠点施設「恋叶♥ゆうひテラス」を整備。それには国の交付金や地方債を活用しました。
柳 真玉海岸、昭和の町、市役所本庁舎の計3カ所に、チームラボの常設展示があるなど、新旧の魅力を併せ持つ点にも目をひかれます。
「チームラボギャラリー昭和の町」。自分の描いたキャラクターが画面上で交流し、伝統芸能の踊りを披露する。
市長 アートでは22年、長崎鼻リゾートキャンプ場内のデジタルアートギャラリー「不均質な自然と人の美術館」において、「太陽と月の部屋」が文化庁メディア芸術祭アート部門大賞を受賞しました。ただ、花の名所や海水浴場などとして親しまれる長崎鼻は、主に夏型のスポットというのが実情。周辺を含めて年間通して楽しめるようにすることが課題です。目標は、国東半島全体の観光資源を生かして、本市全体を一大観光拠点化すること。長崎鼻の少し東にある馬ノ瀬は全国でも珍しいトンボロ現象(干潮時に本土側と島がつながる現象)が見られますが、その近くに観光施設を設ける計画など、いくつかの具体的な構想もあります。
柳 そうした観光振興が地域活性化や雇用を生み出し、移住・定住にもつながるわけですね。
市長 地域の観光資源に磨きをかければ、さらに100万人の観光客を呼び込むことも夢ではありません。今後の展開をぜひ楽しみにしていてください。
スパランド真玉は「くにさき六郷温泉」の1つ。市内のどこに住んでいても、車で10分以内の範囲にいずれかの温泉がある。
豊後高田市は九州を代表するソバの産地で春と秋の年2回収穫。市内12店舗が「豊後高田そば」提供店に認定されている。
『田舎暮らしの本』編集部の柳が住みよさ実感! お試しリポート
数多くの移住・定住施策だけでなく、地域の温かな人たちを含めて住みよい環境に恵まれていることも豊後高田市の魅力。移住希望者の目線で編集者の柳が体験してみた。
地域の人との交流を通し、まちの素顔に触れる
最初に案内してもらったのは空き家バンク物件。常時100件余りの賃貸・売買物件が登録され、住まいの選択肢が多いのも豊後高田市の人気の理由だ。
まずは相談!
地域活力創造課が移住相談の窓口。希望する体験内容は事前に伝えておくとスムーズ。市役所を訪れたら玄関ホールにあるチームラボの作品「四季千年神田図 -田染荘」も必見。
空き家の内覧へ
案内してもらった物件は、5DKの木造2階建てで家賃月2万5000円。即入居可。
学校を見学・体験
続いて訪れた田染小学校は、全校生徒25人のうち16人が移住者のお子さん。地域の人たちが子育て世帯を呼び込むため熱心に取り組み、毎年新入学生を迎え続けているのは過疎地域としては珍しい。校長先生の話によると、地域の人たちの教育への参加や、小・中学校連携の取り組みも特徴だという。写真は小学校6年生の教室。移住予定の子どもは体験入学が可能な場合もある。
地産品を生かした給食
この日の主役は鶏肉とニラを使った「トリニータ丼」。給食には地元の食材も多く取り入れている。
農家民宿で宿泊
農家民泊で滞在したのは安部自然農園の「山帰来(さんきらい)」で、若いころに東京からUターンした安部章二(あべしょうじ)さん・良子(りょうこ)さん夫妻が営んでいる。「自然に触れる心地よさや、畑での野菜づくりの楽しさなどを感じていただければ」と良子さんは話す。
滞在中はかずら編み体験や農作業体験などができる。いろいろ楽しむなら2泊がオススメ。
田舎暮らし体験プラン「半住半旅」は、ホテルのコテージ(最長13泊)または農家民泊(同2泊)にお得な料金で滞在できる。進化し続ける豊後高田市の原動力は郷土愛。その軌跡と未来に思いを馳せて胸が熱くなった。
家族のように接してくれる「山帰来」の安部さん夫妻。Instagram:@abeshizen_nouen_sankirai
料理には安部さん夫妻が育てた有機栽培の野菜や米を使用。「自分が子どものころから食べてきたものを提供しています」と良子さん。
豊後高田市移住支援情報
新婚専用の賃貸住宅を用意しています!
住まい関係の支援も数多く用意している豊後高田市だが、新婚さん応援住宅「ハピネス・ステージ」は全国的にも珍しい新婚専用の市営住宅。市内中心部に近い便利な立地でありながら、駐車場2台分付きの3DKで家賃月4万円とお手ごろ。夫婦のいずれかが50歳未満であることのほか所得条件あり。入居できる期間は5年間。
旧県職員住宅の内装を全面リニューアルした、3階建て全12戸の「ハピネス・ステージ」。
移住見学ツアーの参加者募集!
2025年2月22日(土)~24日(月・休)の3日間
【JALで行く豊後高田市移住見学ツアー】
航空料金1グループ5万円助成、宿泊代無料(食事なし)の移住見学ツアーを2泊3日で実
施。18歳未満の子どもがいる世帯が対象で、申し込みは2人以上。空港からのレンタカ
ー付き(助成あり)。2日目の移住見学ツアーへの参加が条件。詳細は下記Webサイトへ。
https://www.jal.co.jp/jp/ja/domtour/jaldp/bungotakada-ijyu/
【豊後高田市のお問い合わせ先】
奥深い歴史と伝統が息づく、海と山を望む学びのまちです
豊後高田市地域活力創造課 ☎0978-25-6392
豊後高田市移住支援サイト
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