大阪市で小さな家具店を営んでいた上田さん夫妻は、「質美(しつみ)」という美しい地名にひかれ、京丹波町の山村地域へと移住。無垢材を使った家具づくりをしながら、米づくりや消防団活動、猟にも携わり、地域に根差した暮らしを実践している。
掲載:2024年12月号
京都府京丹波町(きょうたんばちょう)
標高400〜900mの山々に囲まれ、面積の約83%を森林が占めている京丹波町。黒大豆やマツタケ、栗など、「丹波ブランド」の農作物の産地としても知られる。大阪市内から名神高速道路と京都縦貫自動車道経由で約1時間。
伝統的な技術が好きで古民家の工房兼住居を購入
質美は田畑や集落がコンパクトにまとまった、景色の美しい地域。上田さん夫妻も、近所の農家さんに「田んぼが空いてるから」と誘われて米づくりを始めた。写真/adore studio
古くから豊かな森とともに発展してきた「森の京都」に位置する京丹波町。まちの中央部にある質美地域は、周囲を山に囲まれたのどかな山村地域だ。
2003年に大阪市住之江区で開業した「つみ木家具店」がこの地に移転したのは06年のこと。家具職人である上田大輔さんと亜紀さんが移住を考え始めたきっかけは、家具の展示会でよく耳にした言葉だった。
「自分たちのつくる家具は、『大阪っぽくない』と言われることが多かったんです。この質感は、京都の山のほうでつくっていそうだと。そのギャップを埋めようと、移住先を探し始めました」(大輔さん)
昔ながらの技術が好きという2人は、古民家物件を探し始めた。見つけたのは、質美地域に立つ築80〜90年の家だ。
「不動産屋さんには『もう価値がない家』って言われたのですが、自分たちの目で見て『全然大丈夫』と思いました。中途半端に古い家よりも、これくらいの古民家のほうが、家の構造が見えるので、手を加えやすいんです」(亜紀さん)
家のある地名「質美」も、物件購入の決め手だったそう。
「質美は英語でビューティフルクオリティ。そんな名前の土地で、僕たちはものづくりの手を抜くことなんてできません。この地名も、力をくれそうな気がしたんです」(大輔さん)
古民家の一部を家具工房にしている。テーブルやイス、棚などの家具のほか、食器や写真立て、積み木などの小物も販売。オーダーメイドも受け付けている。
愛犬のバーニーズ・マウンテン・ドッグをモチーフにした、手のひらサイズの「ツミキノイヌ」。色は3種類の木を使い分けて表現している。
つみ木家具店
住所/京都府船井郡京丹波町質美ナ畑28-1 ☎0771-86-1761 Instagram/@tsumiki_furniture https://www.tsumiki.net
山々に囲まれた土地に田園風景が広がる美しい質美地域。これだけ自然豊かなのに、京都も大阪も車で1時間圏内とアクセス良好。
つみ木家具店では無垢材を使い、ホゾ組みやアラレ組みなどの伝統的な技法で、ネジや釘を使わずに家具を製作している。
「無垢の木以外で家具をつくる体験もしましたが、いつも残念な結果になってしまう。それは、無垢の木だと許してもらえることが、集成材だと許してもらえないからだと思っています」(大輔さん)
「金具って便利なので、木を簡単につなげられる。だけど、金具を打てば簡単に完成するものでも、『この木をどうやってつなげよう』と深く考えることで、木が生きてくるような気がするんです」(亜紀さん)
移住当初は、近所の人としか交流がなかったという上田さん夫妻。しかし、消防団に入ったり、米づくりを始めることで、仲間がどんどん増えていった。
「先代の愛犬にあげるため、猟師さんから鹿肉をもらっていたのですが、だんだん自分が手を下さずに命をいただくことに罪悪感を感じて……。それで、僕も免許を取って猟を始めました」(大輔さん)
田舎に移住して実感したことの1つは「自分たちは食べ物を自給できる」という安心感だと、上田さん夫妻は話す。
「お米をつくり、お肉など山の恵みをいただくなどして、以前は他人任せだったことが、自分たちでできるようになりました。『地に根を張る』ということが、少しだけわかってきた気がします」(亜紀さん)
「僕たちは2人で1つの家具をつくります。僕が穴を開けて、彼女が組む。普通、家具は1人でつくるから、珍しいみたいです」と、大輔さん。
工房で製作のお供をするメインクーンのディリゴ。現在、犬4匹、ネコ1匹と暮らしている。
森林のイベントなどへ出向き、木工のワークショップを開くことも。写真/adore studio
消防団の仲間の猟師から犬用の肉を分けてもらううちに、自分でも免許を取り、猟を始めた。
開業へのアドバイス
ネット環境さえあれば、どこででも開業できる時代です。だけど、田舎で店を続けるためには、どれだけ気持ちよく毎日を過ごせるかが大事ですよね。基本は「郷に入っては郷に従え」。おかしなご当地ルールはたくさんあるけれど、「自分のほうが正しい」と主張ばかりせず、周りに合わせることも大事だったりします。
「自己主張はほどほどに、周りに合わせる気持ちを!」
京丹波町の移住の問い合わせ
空き家改修や起業への補助金あり
JR山陰本線や京都縦貫自動車道、3つの国道が交わり、京阪神など都市圏へ1時間台で移動できる交通環境のよさが魅力の京丹波町。町では移住相談窓口を開設し、空き家や移住者支援策の情報提供、移住者との対話の場の提供などに対応。空き家改修や起業への補助金もある。
問い合わせ/企画情報課 ☎0771-82-3801
https://www.town.kyotamba.kyoto.jp/iju/
町内の森林資源を活用し、2021年に完成した庁舎。
「たくさんの移住の相談お待ちしております!」(移住相談員 川邉弘太さん)
文/はっさく堂 写真提供/つみ木家具店、京丹波町
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