大阪市中心部から車で1時間圏内でありながら、田園風景やブナの原生林など豊かな自然が残る能勢町。地元にUターンし、5年以上かけて古民家と離れをDIYし、B&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)スタイルの宿をオープンさせた夫婦を取材した。
掲載:2024年12月号
大阪府能勢町(のせちょう)
大阪府最北端に位置する能勢町。古くから摂津の国と日本海方面を結ぶ交通の要衝として栄えた。深山や剣尾山、日本三大歌垣の1つに数えられる歌垣山などに囲まれた自然環境が魅力だ。大阪市梅田から阪神高速11号池田線経由で約1時間。
山を買ったら、築80年の古民家が付いてきた
小早川勝平さん・辻本まみさん夫妻。2人とも能勢町出身だが、Uターンするまで面識はなかったという。辻本さんはイラストレーターとしても活躍中。
万葉の時代より「歌合わせ」が行われてきた歌垣山。その麓に、古い民家をセルフリノベーションした1日1組限定の宿がある。能勢町出身の小早川勝平さん・辻本まみさん夫妻が営む「アトリエトナリ」である。
小早川さんは自動車整備士として働いた後、青年海外協力隊に参加。帰国後は地雷除去機を製造する会社に就職し、2014年に地元に戻ってきた。
「両親が山の一部を借りて家庭菜園をしていたのですが、土地の所有者の方から、この山を買わないかと提案がありました。昔から『山を持つ』ことに憧れがあったので、買うことに。その際、この古民家も一緒にどうぞと言われて」(小早川さん)
家は築約80年。20年ほど使われていなかったが、定期的に風通しがされているということだった。小早川さんはこの家を「海外の友達に泊まってもらえるようにしよう」と考え、リノベーションを決意した。
しかし、荷物を処分して床をはがしたところ、家の土台部分は水たまりになっていた。
「庭が家の床下より高い位置にあるため、雨が降ると水が流れ込んでいたんです。だから、庭の土を移動させ、溝を掘ることに。機械を入れる広さがないので、すべて手作業です。とても大変でした」(小早川さん)
当時はまだ結婚していなかったが、辻本さんも作業に参加。2人がかりで半年かけて庭の排水を完成させ、さらにステンレスの風呂を取り払い、昔ながらの五右衛門風呂を設置した。
家のリノベーションで最初に手がけたのがこの五右衛門風呂。森林整備で出た間伐材を使い、井戸水を沸かす。宿のゲストにも好評だ。
「アトリエの家(母屋)」の部屋。1日1組限定で、母屋か離れのどちらかに宿泊できるため、プライベート感たっぷり。6人まで宿泊できる。
「トナリの離れ」は2人まで宿泊可能なこぢんまりとした空間。ベッドルームは屋根裏のような雰囲気だ。1階には五右衛門風呂がある。
母屋のベッドルーム。4人分のバルクベッドと、シングルの布団がある。本を読んだり音楽を聴いたりできるリラックススペースも併設。
宿の外観。辻本さんはコーヒーの焙煎が趣味で、時間のあるときにはこちらでコーヒースタンドをオープンしている。
アトリエトナリ
住所/大阪府豊能郡能勢町倉垣841-1 MAIL/atelier.tonari@gmail.com Instagram/@atelier_tonari
http://ateliertonari.com/book/
宿の人気の理由の1つであるインテリアは、イラストレーターとして活躍する辻本さんのアイデアが活きている。
「最も目に入る部分だけでもこだわると印象が違ってくるのに、勝平さんに任せると、余った板とかでやってしまって(笑)。勝平さんにとって、私はうるさい現場監督みたいな存在だったかも」(辻本さん)
敷地内には母屋のほか、こぢんまりとした離れもある。2人はそちらを改装して、20年、念願の宿「アトリエトナリ」をスタートさせた。
「当時は母屋に住んでいたのですが、『こっちも泊まってみたい』と言われることが多くて。それなら母屋で家族向けの宿をやろうと、22 年にこちらもオープンしました」(小早川さん)
宿を開業してから、近隣のお店や農家さんとのつながりが一気に増えたと話す小早川さん。
「地元を大切にする人たちと仲よくなり、みんなが気にかけてくれて本当にありがたいです。いつか、バックパッカーがくるようなゲストハウスも、開業できればいいですね」
朝食には、サラダミックス、能勢の地卵、ウインナー、クロワッサン、バター、丹波ヨーグルト、丹波牛乳などが用意されている。
小早川さんが買った山に栗園があったので、栗の栽培も始めたそう。今はほかの土地でも栗園を借りて、全部で100本ほどの栗の木を管理している。
書籍の挿絵や店舗イラスト、個展など、活動の幅が広い辻本さん。作品は宿でも見ることができる。Instagram:@_mamitsujimoto
買い取ったときには荒れ放題だった山だが、小早川さんが5年以上かけて少しずつ手入れをし、里山としての機能を取り戻した。
開業へのアドバイス
最初、宿だけで食べていくには難しい売上で、何度も諦めそうになりました。でも、個人で事業をしている人にその話をしたら「早過ぎるわ」って笑われて。それじゃ、もうちょっと頑張ろうと思い、続けてこられました。町の人たちと仲よくなって、同じように頑張っている人たちと情報交換しながら営業することが大切だと思います。
長期的な目線と人脈を大切に!
能勢町の移住の問い合わせ
都市近郊にありながら、里山の原風景が残るまち
大阪市、神戸市、京都市へ車で約1時間でアクセスできる能勢町。子育て支援施策として、病後児保育室の設置や、子ども医療費の助成に取り組んでいる。また、町立義務教育学校「能勢ささゆり学園」の、広大な敷地16ha(甲子園球場約4つ分!)には、サクラやフジ、メタセコイヤなどが植えられ、四季折々の変化を感じながらのびのびと学べる環境が整っている。
問い合わせ/総務課 ☎︎072-734-3036
義務教育学校の能勢町立能勢ささゆり学園。2016年に町内の5つの小学校、2つの中学校を統合して開校した。
町のシンボルツリー「野間の大けやき」。樹齢1000年以上とされ、国の天然記念物にも
指定されている。毎年初夏にはアオバズクが飛来し、多くの人でにぎわう。
文/はっさく堂 写真提供/アトリエトナリ、能勢町
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