コロナ禍により働き方が一変したことで、家族で過ごす時間が増えた葦原さん一家。その時間をもっと大切にするために始めたのが都会と海辺のまち、大洗の二拠点生活。現在は大洗に移住し、自身の経験をもとに別荘サブスク「OURoom」を運営。理想の暮らしと仕事を実現した葦原さん夫妻に話を聞いた。
掲載:2025年1月号
茨城県大洗町 おおあらいまち
太平洋に面した海辺の町。人口約1万6000人。海水浴やサーフィン、水族館、またアニメの聖地としても知られる県内有数のレジャータウン。苫小牧港との間に定期フェリーが就航しており、首都圏と北海道を結ぶ海上交通の要衝ともなっている。東京駅から水戸駅乗り換えで大洗駅まで約1時間30分。
自身の二拠点生活で見えた課題からビジネスを創出
「OURoom」の敷地内にあるご自宅の縁側で、家族5人揃って。
葦原 知さん、亜由美さん
陸くん(6歳)、碧くん(2歳)、翠ちゃん(8カ月)との5人家族。知さんは兵庫県神戸市出身、亜由美さんは茨城県水戸市出身。コロナ禍をきっかけに家族で過ごす時間を見つめ直し、当時住んでいた千葉県流山市と大洗町の二拠点生活をスタート。2022年3月、大洗町に移住、同年10月に「OURoom」をオープン。開業にあたっては地域への説明会も実施した。
先年のコロナ禍は、多くの人にとって暮らし方や価値観を考え直すきっかけになった。当時、千葉県流山市に暮らし、IT関連企業に勤めていた葦原知さんもその一人。
「それまでは毎日、子どもが起きる前に家を出て、帰宅したときにはもう寝息を立てているような暮らしだったのが、リモート勤務になって一日中家にいるようになったでしょう。いつでも家族の顔が見られるんですよ。そのとき思ったんです。こういう時間をもっと大切にしたいなって」
理想の暮らしを模索するなかで始めたのが、流山市と茨城県大洗町の二拠点生活。以前から「いつか海の見えるまちで暮らしたい」という思いがあったことと、妻の亜由美さんの実家が大洗町に隣接する水戸市だったこともあって、自然とこの場所に足が向いていた。ただ、二拠点生活を続けるのは簡単ではなかった。
「始めたころは月に2回は来ていたんですが、だんだん足が遠のいて1年後には2〜3カ月に1回くらいになっていました。落ち着けなかったんですよ。別荘でもあれば、日常の延長のようにゆっくりできるんでしょうけど、宿泊はビジネスホテルで食事も外食。二拠点生活というより旅行に近いですものね」
とはいえ、別荘を所有するのは金銭的にも維持管理のうえでもハードルが高い。もっと手軽に何度も訪れたくなる居心地のいい場所を地方に持てないか。そんなことを考えて始めたのが別荘サブスク「OURoom」だ。
別荘サブスクとは、月額料金を支払うことで、会員が好きな場所の別荘を自由に利用できるサービス。既存の別荘サブスクの多くが月数万円という家賃のような月額料金なのに対し、「OURoom」は月額1000円という手軽さ。あとは利用するときだけ宿泊料を支払うシステムなので無駄がない。清掃や管理の手間も不要。部屋にはキッチンや家具も付いているので、自宅の延長のように気兼ねなく利用できるのだ。
OURoom1号は、葦原さんの自宅の敷地内に設置した3棟のコンテナハウス(宿泊棟2棟、ダイニング棟1棟)。大洗のまちや海、筑波山など、周辺の景色を一望できる高台にある。「OURoom(アワールーム)」https://www.ouroom-oarai.com
シンプルで洗練された空間にはキッチンと家電、冷暖房、浴室、トイレを完備。現在OURoomは、茨城県と千葉県で4拠点4物件が稼働中。これからさらに拠点を増やしていく予定だ。
「OURoom」を運営する葦原さん夫妻と代表の平間一輝さん(右)。平間さんとは起業イベントで知り合い、意気投合して起業に至った。
「田舎暮らしに関心がある人ってとても多いと思うんです。ただ、移住となるとクリアしなくてはならない問題がたくさんあってハードルが高い。その点、二地域居住は、拠点さえあれば今すぐにでも始められます」
そんな誰でも持てる拠点(別荘)が「OURoom」なのだ。
二地域居住は旅行や観光とは違う。そこがいつもの居場所になることで、地域との関係が深まっていく。それが本格的な移住につながることも多い。
「いつか海の見えるまちで暮らしたい」。2人のそんな会話もかつては現実感のない憧れでしかなかったが、二地域居住を始めてからは、少しずつ身近なことになっていった。そして、今、葦原さん家族は〝海があるまち〞大洗に暮らしている。
海までは車で約5分。子どもたちにとっては最高の遊び場だ。魚もおいしい。大洗に来てから子どもたちはこれまで以上によく食べるようになったという。
葦原さんの二拠点LIFE!
◆二拠点居住していたときの状況
「千葉の流山から茨城の大洗までは、車で1時間30分程度。滞在にかかる費用は、交通費、宿泊費、食事代などで4万~5万円。「二拠点を頻繁に行き来するなら費用もしっかりと考慮する必要があります」。
◆二拠点LIFEのアドバイス
「二拠点居住を始めるのは簡単ですけど、続けるには、そこに何度も訪れたくなる居心地のいい場所が必要だと思います。普段の暮らしの延長のようにゆっくり過ごせる拠点ですね。私たちにはそれがなかったので、ちょっと疲れちゃったのかもしれません。また、がんばりすぎないことも大切。気が向いたときにフラッと訪れる感じでもいいと思います」
大洗町移住支援情報
海のあるまちで暮らせる! 都内から約90分の好アクセス
茨城県の太平洋沿岸のほぼ中央に位置する大洗町。海、川、湖に囲まれた小さなまちで、恵まれた自然環境のもと古くから人びとが暮らしを営んできた。ここ数年は、若い世代の移住や二拠点居住、起業・創業、関係人口創出などによって新たなまちづくりも進んでいる。移住支援制度としては、町内に住宅を取得して定住した子育て世帯向けの定住促進奨励金などを用意。
お問い合わせ:大洗町まちづくり推進課 ☎029-267-5109
移住・定住 | 大洗町公式ホームページ
平安時代創建の古社・大洗磯前神社の高台からの景色。
「大洗町へぜひ来てね! 待ってるよ~」(大洗町イメージキャラクター「アライッペ」)
文/和田義弥 写真提供/葦原 知さん、亜由美さん
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