「30歳までに地元を離れてみたい」。漠然とした思いがコロナ禍をきっかけに動き出した。オンラインで交流した久留米の人たちの魅力に惹かれて移住を決意。“ちょっと発展した田舎”でデザイナーとして独立し、つながりを広げてチャレンジを続ける。
掲載:2025年3月号
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福岡県久留米市(くるめし)
福岡県南部、筑後川流域の筑紫平野の中央に位置する中核都市。江戸時代には久留米有馬藩の城下町で商業都市としても発展。ゴム産業をはじめとする製造業も盛ん。市内の酒蔵と焼き鳥店の数は日本有数。人口約30万人、年平均気温16.8℃。JR九州新幹線で博多駅から久留米駅へ約17分。
コロナ禍はチャンス! リモートで出合った移住先
久留米の市民活動が集まる「くるめソーシャルグッド」にも委員として参加。たくさんのつながりが生まれた。
高橋那月(なつき)さん(31歳)
宮城県石巻市出身。専門学校卒業後、看板や建設関係の地元企業にデザイナーとして勤務。2021年6月、オンラインイベントからつながった久留米市に移住。フリーランスのグラフィックデザイナーとして名刺や企業のロゴ、チラシなどを制作している。
「初めて九州に来たのは地元・石巻で就職した会社の社員旅行です。都会と田舎がすごく近いところが新鮮で、一度は九州に住みたいなと思いました」
という高橋那月さんは実家で家族と暮らしていたが、いずれ地元を飛び出してチャレンジしたいと考えていた。九州の魅力を知ったあと、旅行で一人訪れたりしたが、ほどなく新型コロナウイルスが流行。忙しかった勤務先での仕事が急激に減った。
「これはチャンス!」。そう思った高橋さんはSNSで見つけた「オンライン全国移住フェア」に参加。以後、九州各地の自治体の情報がメールマガジンなどを通じて届くようになり、移住担当者とリモートで話をする機会も得た。そんななかで「面白い!」と心に響いたのが久留米市だった。
「オンラインの移住イベントをのぞいたら、まちの人たちが堅苦しくなく、いいことも悪いこともさらけ出して話していて」
〝くるめオンライン公民館〞という定期的なイベントにも参加するようになった。
「最初は音声だけの画面オフ。それでも呼びかけていただき、すっかり打ち解けてたくさんの方とお話しできました。やがて『いまがタイミングじゃないか!』と会社を辞めたんです」
実際に久留米を訪ねてみると、会うのは初めての人たちが、前からの知り合いのように感じたと高橋さん。初めての滞在は1週間。この間に新居となるアパートを探し、部屋が空くのを待って2カ月後に移住した。
市内を流れる筑後川は九州一の河川。対岸の佐賀県側から眺める久留米はお気に入りの風景。
人情の厚い風土に支えられ、フリーランスで独り立ち
移住後は転職先をあえて探さず、フリーランスのグラフィックデザイナーとして独立した。
「『つてもないのに、よく思いきったね』と言われますが、オンラインのときにつながった皆さんから依頼を受けたり、紹介していただいたり。久留米の人たちは、いい意味で〝お世話焼き〞で人情が厚い。めちゃくちゃ助けられてます」
独立に際しては、ネットでの営業をせずに顔を合わせた人と仕事をしようと決めていた。
「私に頼んでくださる方に全力で応えたい。人と人とのかかわりを大切にしたいんです」
久留米でもう1つかかわっているのが「じじっか」の活動。母子家庭の声から生まれた相互扶助組織で、親子食堂をはじめ誰もが実家のように集える拠点としての事業を展開している。
「すぐに地元には帰れないところがいいと九州に来ましたが、『じじっか』は誰かと話したいときに気軽に立ち寄れる場所。オンラインのころからのつながりで、今はスタッフとして働いています」
今後は久留米での経験から、石巻でもじじっか的で異なる何かができないかと考えている。
「人もニーズも違う場所で求められているものを探して、かたちにできれば。いずれは二拠点で活動していきたいですね」
子どもたちの居場所でもある「じじっか」。「1人の人として接すると子どもが好きになりました」と高橋さん。
代表の中村路子さんはじめ、「じじっか」のスタッフはフレンドリー。あいさつは実家のように「お帰り」「ただいま」。
移住後にデザインを担当した看板。「じじっか」のつながりから依頼を受けた。
移住して変わったこと
たくさんの応援を受けて、やりたいことを一気にやっちゃいました!
「人生が変わりましたね。30歳まで地元にいたら、そのままずっと同じ状態。28歳のとき「やるだけやって、だめなら考えればいい」と思いきりました。風土も人もまったく違うところで生活して、地元にいたら絶対やらないような仕事にも出合って、新しい人間性みたいなものが磨かれたと感じています。来てよかったです」
久留米市移住支援情報
移住コンシェルジュが相談に対応! オーダーメイドツアーも実施
久留米市は、筑後川と耳納連山を有する自然の豊かさと、都会的な部分を併せ持った「トカイナカ」なまち。「医療のまち」として知られ、人口10万人当たりの医師数は全国トップクラス。2名の移住コンシェルジュが、久留米での暮らしを考えている人の移住相談に対応している。また、移住コンシェルジュが市内を車で案内する「オーダーメイドツアー」では、要望に合わせて見学場所をカスタマイズ可能。見学の際にかかる宿泊費を補助する制度もある。
お問い合わせ:久留米市移住定住促進センター ☎0120-888-748
くるめのくらし|久留米シティプロモーション
オーダーメイドツアーで西鉄久留米駅構内を案内している様子。子育て施設、病院、スーパーなど暮らしに便利なスポットを紹介。
文/新田穂高 写真提供/高橋那月さん、久留米市
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