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田舎暮らしの本 9月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 9月号

8月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

棚田の保全活動に励みながらトップリーグを目指す女子サッカーチーム「FC越後妻有」が熱い!スポーツの枠を超えた価値を地域に!

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「FC越後妻有(えちごつまり)」は“おじいちゃんおばあちゃんの笑顔を創り出す”をコンセプトに、過疎化で担い手がいなくなった棚田を全国から移住してきた女子サッカー選手が管理しながら、競技にも取り組んでいます。地域住民との温かい触れ合いを通じて、スポーツの枠を超えた価値を地域にもたらす全国でも例を見ないプロジェクトで、選手たちは自然のなかで心身ともに磨かれています。

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街の日常は山の非日常、山の日常は街の非日常

思ったより早く成長

 新潟県十日町市内を拠点に2015年に創設した女子サッカーチーム「FC越後妻有」。ここでプレーする選手は、NPO法人越後妻有里山協働機構の職員として、棚田の保全活動や、世界最大級の国際芸術祭である「大地の芸術祭」の運営に携わりながらプレーしています。

 現在、チームを率いているのが、2021年にGM兼監督に就任した元井淳さん。千葉県出身の元井さんは、高校の教員を経て2005年から11年間はJリーグの「大宮アルディージャ」のコーチングスタッフとして選手を指導し、2016年からはなでしこリーグ「ちふれASエルフェン埼玉」、19年から同「バニーズ京都SC」の監督を務めるなど、トップカテゴリーで手腕をふるってきました。

「監督の仕事は米づくりで言えば肥料。与えすぎるとダメ」と指導論を語ってくれた元井監督
「監督の仕事は米づくりで言えば肥料。与えすぎるとダメ」と指導論を語ってくれた元井監督

「FC越後妻有は立ち上げのときから知っていて、なかなか選手が集まらないと伝え聞いていた。私自身は女子のトップカテゴリーにいたので、まさかお話しいただけるとは思っていなくて・・・。自分の見聞を広げるためにまずは現地を視察しようとこの地に来ると、4月初頭なのに雪で囲まれていて。でも、こういう山奥に来たときに、大地の力っていうのか、言葉にならないですけど、すごくワクワクしたというか、惹かれるものがありました。街の日常は山の非日常だし、山の日常は街の非日常。未知の世界で、自分がどう成長できて、チームはどうすればうまくいくんだろうって帰りには考え始めていました」(元井監督)

 元井監督就任後、チームは躍進を続けています。2022年に北信越リーグ2部で優勝し1部に昇格、2023-24年は2年連続3位。24年は皇后杯北信越大会で準優勝。25年はレギュラーシーズンを2位でシーズンを終えました。

「選手個々のレベルは決して高くない。でも好きでサッカーをやっているから伸びしろがすごい。成長させる自信はあったのですが、思ったよりも早く成長している。僕が来たときには、皇后杯の本大会出場とか、北信越リーグで優勝を狙うとか考えることもなかった。今思うと、自分の価値観や物差しのせいで、選手の成長を阻害していることがあったんでしょうね・・・。今は、選手たちはどこまで行くんだろう?と、一緒に挑戦していく感じが好きだし、楽しいですね」(元井監督)

地域の方はチームより選手個人個人のファン

今できることをやってみよう

加入5年目の今季からキャプテンに就任した山下選手
加入5年目の今季からキャプテンに就任した山下選手

 2021年に加入し、チームの躍進を支えてきたキャプテンの山下由衣選手にも話を伺いました。大阪府出身の山下選手は、小学1年生の頃から近所のスポーツクラブでサッカーやテニス、トランポリンなどをはじめ、中学では男子に交じってサッカー部で活動。高校、大学では女子サッカー部で活躍してきました。元々海外に興味があり、幼少期には英会話もやっていた山下選手は、大学では国際関係学部に入り、卒業後は海外に行くと決めていましたが、ちょうどコロナ禍で保留。サッカーは続けたいと思いながらチームを探していました。

「たまたま知り合いだった当時のFC越後妻有のキャプテン(石渡美里選手)から紹介してもらって。農業をやりながらサッカーをやると聞いたとき、それまでの実業団チームのイメージがガラッと変わって、新しいなと思いました。自分的にもサッカー以外でもやりがいを重視していたので、今のタイミングでしかできないことをやってみようと決めました」(山下選手)

練習以外はずっと田んぼ

「農業をやることは魅力的でした。私も何かを作り出すことが好きで、興味もあったのと、実際体験に来たときに地元の方が温かくて、初対面のおじいちゃんなのにフレンドリーに話してくれて。しかも元気だし、この人たちと一緒にいたら絶対楽しいだろうし、私も元気になれそうだと思いました」(山下選手)

 山下選手は、加入後約2年間は農業チームで、棚田での農作業に従事。FC越後妻有では、「農業チーム」以外にも「作品メンテナンスチーム」や「ツアー・食チーム」「施設管理チーム」「広報チーム」など「大地の芸術祭」運営を行う様々な部署に分かれて業務を行っています。

高齢化によって担い手が少なくなった棚田の保全に従事するメンバー
高齢化によって担い手が少なくなった棚田の保全に従事するメンバー

「練習以外はずっと田んぼ。平日は午前中に作業をして、午後4時くらいからサッカー。火曜日は午前中に練習があって午後はお休み、水曜日は丸一日オフで、土日もシーズンがないときは農業をするという感じでした。いまは『農舞台チーム』で、農作業をしていた時間を“まつだい「農舞台」フィールドミュージアム”という美術館での運営や受付をしています。“大地の芸術祭”は海外のお客さんやファンも多く、今日もお昼頃、海外のファミリーが来られて、英語でご案内しました」(山下選手)

地元の子どもたちからお年寄りまで交流

 FC越後妻有の活動は他にも、地元の子どもたちを対象にしたサッカー教室や、お年寄りの方の体操教室を定期的に行い、地域深耕を行っています。そうした活動から、2025年にはチーム結成後初めて地元の高校生の和田美優選手が加入しました。和田選手は2024年にサポートメンバーとして加わり、女子サッカー部のある高校には進まず、正式なメンバーとなりました。

サッカー教室は子どもから大人まで、誰でも参加OK。選手だけでなく監督も参加
サッカー教室は子どもから大人まで、誰でも参加OK。選手だけでなく監督も参加

「キッズスクールとかは高校でもやったことがあったんですけど、お年寄りの方と何か一緒にやったのはここが初めて。どう教えていけばいいんだろうと思いましたが、その人にできるだけ寄り添ったプログラムを考えています。おばあちゃんたちも続ければ本当に体が柔らかくなってくるし、『腰痛が治まった』とか『肩回りが動きやすくなった』と言ってくれます。教室ではストレッチポールを使うのですが、みなさん自宅用に買ってくれて、拠点の室野地域は日本一ストレッチポールの保有率が高いんじゃないかな」(山下選手)

体操教室もお年寄りだけでなく、子どもたちから誰でも参加でき、年間を通して行われている
体操教室もお年寄りだけでなく、子どもたちから誰でも参加でき、年間を通して行われている

 農作業や体操教室などでチームや選手に興味を持ったお年寄りも試合の応援に駆けつけているそうです。その応援スタイルは独特で、2025年に加入した三井愛里沙選手は、昨年は対戦相手のチームでプレーしていましたが、FC越後妻有のメンバーの掛け声やサポーターの雰囲気に魅力を感じて移籍を決めました。

「お年寄りの方の方が多いかもしれません。応援も入った当時から比べるとクオリティが上がっていて、いい意味でオリジナル感がすごい。応援歌も考えて、方言とか入っていたり、本当に唯一無二。相手チームへの感謝もしっかり伝えてくれる、最高のサポーターです」(山下選手)

「地域の方々は、チームというよりは選手個人個人のファンなんです。彼女たちが一生懸命働く姿とか、彼女たちが地域と触れ合う、そういうところから興味を持ってもらえる。サッカーの“サ”の字も知らなかった人たちが、午前中の農作業を終えてから軽トラで試合を見に来てくれるんです」(元井監督)

選手として成長するのに必要なものはサッカー以外にある

ムーブメントが来ている

 先ごろ、JFA公認指導者を対象にしたセミナーで「地域と歩むFC越後妻有の未来」というテーマで話をした元井監督は、サッカー界以外からも注目度が高くなっていることを実感しています。

「競技を引退したとき、その選手に何が残るのかはスポーツの大きな課題。そういう意味で、自然と向き合いながら彼女たちは磨かれている。それを見ている地域の人たちが心から応援してくれる。地域が選手を磨くというのをすごく感じています。スポーツの価値観をブレイクスルーしているんです。こういう活動が日本のスポーツの新しい価値を創造すると信じています。最近、そのムーブメントが来ているのを実感していますし、サッカー界ではないところからも注目度が高くなっている。ここからが楽しみで、だから面白い」(元井監督)

 また、元井監督は自身がこの地を初めて訪れて気付きがあったように、一度は足を運んでほしいといいます。

「僕は選手を他クラブから引き抜くことはしない。移住するのは簡単ではないし、雪深いところの生活も大変です。だけど、こういうところに一度足を運んでみるのは何のマイナスにもならない。サッカー選手として伸びるために必要なものは、サッカー以外に必ずあります。FC越後妻有は『おじいちゃんおばあちゃんの笑顔を創り出す』をコンセプトに、地域の誇りを僕らが守るつもりで日々取り組んでいます。ここに来れば、自分の人生の“棘(とげ)”とか“角(かど)”がなくなる。今いる選手にはここでやれるだけやってほしいし、今後も僕たちの活動に賛同してくれる仲間が増えたらいい。いろんな人が交じり合い、どう変化していくのか楽しみですし、加速度が上がってきた感じがします」(元井監督)

“大地の芸術祭”のコンセプトのもと集まり、地域で磨かれているメンバー(C)「木湯」鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志 Photo Nakamura Osamu
“大地の芸術祭”のコンセプトのもと集まり、地域で磨かれているメンバー(C)「木湯」鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志 Photo Nakamura Osamu

価値観をいい意味で壊せる環境

 山下選手も、これまでのチーム環境とは違う環境に魅力を感じたといいます。それは女子サッカーならではの課題でもありました。

「ここは過疎高齢化とか、いろんな社会課題があります。でも、私たちが入ることによって、農業の担い手として働けたり、今までの価値観をいい意味で壊せる環境なので、そういう場所を求めている人にはお勧めしたい。人数は少ないし、サッカーの経験も全然違う。そういう選手たちと一緒にサッカーをやる環境が、そもそも初めてだったので、考え方とか価値観とかはすごく違いがあって面白い。初代キャプテンは赤ちゃんをここで出産して、ママさんプレーヤーでやれた。いろんな人がサッカーを続ける場として、その選択肢になれば。それが、今後の女子サッカーの新しい形になっていくんじゃないかな」(山下選手)

 チーム創設から10年。今もメンバーは少数ですが、一歩一歩着実に地域とともに成長しているFC越後妻有。元井監督は「今の日本に欠落しているものを僕らは学び続けながら活動している」と言い、山下選手は「私たちが守っていく、使命感がやりがいになっている」と言います。ここではスポーツの枠を超えた価値が、地域に笑顔を創り出しています。

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  • 棚田の保全活動に励みながらトップリーグを目指す女子サッカーチーム「FC越後妻有」が熱い!スポーツの枠を超えた価値を地域に!
  • 「監督の仕事は米づくりで言えば肥料。与えすぎるとダメ」と指導論を語ってくれた元井監督
  • 加入5年目の今季からキャプテンに就任した山下選手
  • 高齢化によって担い手が少なくなった棚田の保全に従事するメンバー
  • サッカー教室は子どもから大人まで、誰でも参加OK。選手だけでなく監督も参加
  • 体操教室もお年寄りだけでなく、子どもたちから誰でも参加でき、年間を通して行われている
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マイヒーロー

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「MY HERO(マイヒーロー)」はスポーツに特化した企画・制作会社です。地方で頑張るアスリートや競技団体を取材し、「スポーツ×田舎暮らし」をテーマにした記事をご紹介していきます!

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