旅行とは異なり、移住先となると、温泉だけではなく、暮らしやすさも重要です。温泉評論家の石川理夫さんに、「お湯よし、暮らしよし」の名湯・温泉地を選んでもらいました。ここでは、長野県の野沢温泉を紹介します。
掲載:2025年11月号
石川理夫さん(いしかわ・みちお)●温泉評論家。日本温泉地域学会会長。主な著書に『温泉の日本史』(中公新書)、『一生に一度は行きたい温泉100選』(宝島社ムック)、『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)、『温泉の平和と戦争』(彩流社)など。2024年4月に東京から別府に移住した。
温泉は村の共有資産! 13カ所の共同浴場を無料開放
外湯「大湯(おおゆ)」
野沢温泉には13の外湯が点在し、地元の人はもちろん、観光客やスキー客にも無料で開放している。「大湯」は野沢温泉のシンボル的外湯。
北信濃の標高1650mの毛無山(けなしやま)と千曲川(ちくまがわ)の間の緑豊かな斜面に広がる野沢温泉村(のざわおんせんむら)は、麓のブナ林が涵養(かんよう)した地下水と自然湧出泉の宝庫。鎌倉時代の地頭職文書に「湯山」と記された野沢温泉は、上杉謙信と武田信玄が対峙した戦国時代にも平和な湯治場として保たれた。
雪質に恵まれた野沢は「スキーと温泉」で知られ、冬はオーストラリアをはじめ長期滞在のインバウンド客でにぎわう。そのため温泉街である村の中心部にはB&Bやバール、カフェなど多彩な施設・店舗が増え、多様な人手が求められている。
野沢温泉がニセコと違うのは、外国資本など外部資本には温泉資源を売買しない点だ。信州の多くの温泉地もそうだったように、野沢では水源や温泉資源は村の大切な共有資産。村の自治組織が「総(惣)有」し、共同で管理運営してきた。シンボルの大湯をはじめ13カ所の共同浴場(外湯)も「湯仲間」が清掃して維持管理し、観光客にも無料開放している。
「温泉を買いたい」という外国人が、「温泉は売り物ではない」と説明を受けて逆に感動し、ここで暮らしたいと移り住んだ話を聞いた。豊かな温泉と地域共同体のつながり、伝統的な祭事を守る野沢にひかれて移り住む外国人も増えている。
唱歌「おぼろ月夜」に歌われた菜の花畑で育つ野沢菜は熱い硫黄泉が湧く「麻釡(おがま)」でゆでてこそ、本物の味わいとなる。本物の名湯・野沢ならでは、である。
麻釜(おがま)
90℃以上の源泉が湧き出て湯だまりをつくっている「麻釜」。ここは野沢温泉の台所とも称され、地元の人が山菜や野菜などをゆでる様子が見られる(熱くて危険なため、地元の人以外は立ち入り禁止)。
外湯「真湯(しんゆ)」
13カ所ある外湯の一つ、「真湯」。
野沢温泉♨データ
泉質:含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉ほか
泉温:40~88℃
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