ネウボラはフィンランド語で「相談の場」を意味する子育て支援制度。北杜市では、妊娠前から子育て期に渡り親子に寄り添い、地域みんなで子どもを育てる環境づくりが進められている。
掲載:2025年11月号
CONTENTS
山梨県北杜市 ほくとし
山梨県北西部に位置し、八ヶ岳や南アルプスなど名峰に囲まれた人口約4万5000人のまち。清らかな水と澄んだ空気、星空や四季折々の景観が魅力で、子育て世帯の移住先として人気を集める。東京から車で約2時間。
北杜市がつくる、子育て世帯の安心拠点
同じ窓口で切れ目なく子育てをサポートするフィンランド発祥の制度「ネウボラ」。日本でも「子育て世代包括支援センター」として各地で導入が進んでいる。東京からのアクセスがよく、豊かな自然に恵まれていることで人気の移住地・山梨県北杜市も、この「ネウボラ」を取り入れている自治体の一つだ。総務省が公表した2024年の市区町村間移動者数では、転入超過433人と県内最多を記録し、子育て世帯の移住も年々増えている。
「『ネウボラ推進課』という名前になったのは2022年4月ですが、母子保健と相談の包括支援体制は2015年ごろから行っています」(ネウボラ推進課課長・坂口さん。以下同)
子育て世代包括支援センター(ネウボラ推進課)には、保健師・助産師・栄養士・社会福祉士・公認心理師・家庭児童相談員・利用者支援専門員が常駐。妊娠・出産・子育てはもちろん、不妊、DV、虐待など幅広い相談に対応している。
保健センター内には、0〜3歳の子どもを遊ばせながら保護者同士が交流できる「つどいの広場」も併設。予約不要で気軽に訪れ、子育て相談ができるのが魅力だ。
「フィンランドのネウボラは、一家族を同じ保健師が継続的に担当することがメリットです。北杜市でも地区ごとに担当支援員を決め、できるだけ同一の職員が継続対応するようにしています」
ネウボラ推進課には、保健師・助産師・公認心理師・栄養士・社会福祉士・家庭児童相談員・利用者支援専門員が常駐。親子が気軽に職員のもとを訪ねる姿が見られる。
ネウボラ推進課が入る「子育て世代包括支援センター」。妊娠期から子育て期までの相談窓口を開設している。親子が集える「つどいの広場」も併設。
家庭の状況に合わせて、変化する悩みに応える場所
ネウボラとのつながりは、母子健康手帳の交付時から始まる「担当保健師・助産師・栄養士による面談で、家庭の状況や体調を伺います。以降は、それぞれの状況に合わせて支援をしていきます」
妊娠中や産後の体調の変化に始まり、母乳や赤ちゃんの成長についての心配、その後も離乳食やイヤイヤ期、トイレトレーニング、ほかにも職場復帰についてや、第二子誕生後の上の子への対応など……、子育ての悩みは次々と変わり、また家庭によってもさまざまだ。
そんなとき、子どもの成長や家庭の状況をよく知ってくれていて、いつでも相談できる相手がいることが、どんなにか心強いことだろう。
「『ここに来れば解決できる』『職員が笑顔で迎えてくれてホッとする』といった声をいただいています」
子育て世代包括支援センターで行われる、乳幼児健診や離乳食教室、マタニティカフェ、ベビーマッサージ教室などを通して、自然と同年代の子どもを持つ仲間ができる。
子育て世代包括支援センター内にある交流スペース「つどいの広場」。ここで出会った子育て仲間と登山に出かけたり、アクセサリーを手づくりしてマルシェに出店するなど交流が広がっていくことも。
ネウボラがつなぐ、地域と家族の輪
北杜市の地域おこし協力隊として働く大輪崇人さんは、2023年に東京都練馬区から北杜市へ移住してきた。移住を考えるきっかけになったのは、長女の茉暖ちゃんの誕生だった。
イベント業界で働いていた大輪さんは、勤務時間が深夜に及ぶことも多く、休日も不規則。
「このままの働き方で得られるものと、家族との時間を天秤にかけたとき、答えは『家族』でした」(大輪さん。以下同)
家族の時間を大切に、自然豊かな環境で子育てをしたいー、そう考え、地方移住を決意。
「東京での子育ては、周りの目を気にしたり、治安の心配もあって、常に気を張っていたように思います。自然環境のよいところで、子どもをのびのびと遊ばせたいと思いました」
移住先として北杜市を選んだのは、父の生まれ故郷だったからである。
「北杜市は、東京から渋滞のなか何時間もかけて自然を感じに来る人がいる場所。そんな素晴らしい自然が日常にあるなんて、ぜいたくですよね。東京のように遊具がたくさんあるような公園はありませんが、家族で近所を歩くだけで、きれいな水、澄んだ空気、山々の美しさを五感で味わえます」
友人もいない土地での子育てだったが、不安を感じることはほとんどなかったという。
「『つどいの広場』には、移住したばかりのころから家族で通いました。支援員さんにちょっとした悩みも気軽に相談できました。ここで子育て仲間もできたんですよ」
【北杜市の移住者】大輪崇人さん、妻の梨奈さん、長女・茉暖(まの)ちゃん(3歳)、長男・優然(ゆうぜん)くん(1歳)の4人家族。長女が1歳だった2023年4月に、地域おこし協力隊として北杜市へ移住。2024年1月には長男も誕生した。
「天の川や日本三大桜の一つ、山高神代桜など、移住してから子どもと一緒にたくさんの素晴らしい景色を見ることができました。これからもここでしかできない体験を家族でたくさんしていきたいですね」(大輪さん)。写真は「つどいの広場」で行われたはいはいレースに参加したときのもの。
近所に住む移住者さんの菜園で収穫体験をさせてもらうこともある。北杜市では、すべての市立保育園に「教育ファーム」があり、子どもたちが土に触れながら学ぶことができる。
移住者にとっても心強いネウボラ制度
「担当の支援員さんは、フランクに話ができる距離の近い存在です。子どもたちの名前を覚えて気にかけてくれる。子育てに伴走してくれる存在がいるから、安心して子育てができているのだと思います」
移住者に限らず、北杜市では少子化や家族形態の変化により、近くに子育ての相談相手がいない世帯が増えている。
「相談の場がなければ引きこもっていた」「つらいときに話を聞いてくれた職員は命の恩人だった」といった声が届くほど、ネウボラは生活面・精神面の大きな支えになり得る。
「自然豊かな北杜市では、お弁当を持って公園に出かけるだけのことが、大満足なアクティビティになるんです」(大輪さん)。写真は「白州・尾白の森 名水公園べるが」。
子育て世帯が利用できる「子育て支援住宅」に住んでいる。写真は共有庭。ここから雄大な山々が眺められる。「ご近所さんは同じ境遇の家庭ばかりなので、とても住みやすいんですよ」(大輪さん)。
“地域で育てる”を形に
「課題は、核家族化が進み、近くに助けてくれる人がいない家庭が増えていること。だからこそ、〝地域で子どもを育てる〞環境づくりを進めています」(坂口さん)
2025年8月には、子ども世代・親世代・祖父母世代が「子育て」というテーマを通じて交流できる3世代交流スペースがオープン。さらに、地域の人が集う既存の公園に、子育て世代から要望の多かった大型複合遊具を設置し、幅広い世代が集える「ほくともりっこパーク」が11月にオープンした。
北杜市では、こうした多世代のつながりを育む取り組みが次々と行われ、地域全体で子育てを支えようという雰囲気が広がっている。
北杜市のオススメスポット
道の駅南きよさと
毎年4月初旬~5月上旬は約400匹の鯉のぼりが空を彩る! ケーブルカーで花の森公園へ行けば、収穫やピザ焼き体験も楽しむことができる。
白州・尾白の森 名水公園べるが
親水公園での水遊びや尾白川の流れを利用したウオータースライダーが人気。季節に応じた体験イベントがあるほか、温泉やレストランもあり、一日楽しめる。
オオムラサキ自然公園
自然の地形を生かした約6haの自然公園。農村風景が広がり茅葺きの小屋や水路、木道が整備されている。オオムラサキセンターでは、一年を通じて国蝶「オオムラサキ」をはじめ、たくさんの生き物と触れ合える。
まきば公園
県立八ヶ岳牧場の一角につくられた公園。ポニーやヒツジと触れ合うことができ、山梨こだわりの食材を使ったレストランや売店も楽しい。
北杜市の子育て支援
●ファミリー・サポート・センター
子育ての援助を受けたい人と行いたい人を市がマッチング。保育園や学童の送迎、リモートワーク中の預かりなど利用が増えている。
●チャイルドシート購入補助
車が必須の北杜市では、6歳以下の子どもを持つ保護者にチャイルドシート購入費の一部を補助している。
●産後ケア事業(宿泊型) ※生後5カ月未満
育児に不安や負担を感じる母が子とともに宿泊し、母体ケアや育児相談、沐浴・授乳指導などを受けられる支援事業。
●My助産師訪問事業 ※生後1年未満
市内の助産師が自宅を訪問し、沐浴指導や母乳管理、体重測定などを実施。外出が大変な時期でも安心して相談できる。
●子育て情報サイト「やまねっと」
子育て世代が情報を入手しやすいよう、子どもの成長に合わせた情報や保育園・つどいの広場の行事の様子を発信している。
市内には公立保育園9園、公立認定こども園3園、病児・病後児保育園1園、家庭的保育施設1施設、事業所内保育施設2施設がある。写真は「わかば保育園」。
「子育て支援センター つくしんぼルーム」は、保育園に隣接するログハウス風の地域子育て支援センター。園児たちと触れ合う時間も。
北杜市の移住支援
●北杜市移住支援金交付事業費補助金
東京圏から北杜市へ移住し、就業や起業などの条件を満たした人が対象。単身者は60万円、2人以上の世帯は100万円を支給。18才以下の子ども1人当たり100万円加算。
●子育て応援マイホーム補助金
市内に家を新築・購入する子育て世帯を対象に、建築・購入費の10%を補助。新築・建売は最大150万円、中古住宅は最大100万円まで。移住してきた家族にも人気の制度。
●子育て支援住宅(はっぴいタウン)
通学や通院、買い物に便利な立地に3棟54戸を整備。子育て世帯向けに設計された市営住宅で、市外・県外からの移住者もリーズナブルな家賃で入居可能。ミキハウス子育て総研の「子育てにやさしい住まいと環境」認定を取得している。
「たかね図書館」には、靴を脱いでくつろげる絵本コーナーもあり、ゆったり過ごせる。
「いずみフレンドパーク」には、「金田一春彦記念図書館」のほか、広場や児童館、プールもある。
「移住の先輩としてのアドバイスは『決断すること!』。早いに越したことはありません。まずはお試し住宅を利用してみるのもオススメです!」(地域おこし協力隊 大輪崇人さん)
【問い合わせ先】
北杜市ふるさと納税課シティプロモーション担当
☎0551-42-1324
https://www.city.hokuto.yamanashi.jp/teijyu_ijyu/
文/揖斐麗歌 写真提供/北杜市、大輪崇人さん
この記事の画像一覧
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする
















































