掲載:2019年7月号
田舎暮らしを始めてみると、思い通りにいかないことやトラブルにも直面します。ただ多くの場合、それを最小限に食い止めることは可能です。田舎取材歴37年、移住歴20年の本誌ライター・山本一典さんが、そのための心構えをお伝えします。
3つのステップを経て地域社会の一員になる
田舎暮らしを始めるには、準備、移住、地域活動への参加という3つのステップを踏むのが一般的。
準備段階で大切なのは、目的意識を明確にすること、配偶者の合意を得ること、自分にふさわしい田舎を選ぶことだ。失敗しやすいのは「ただ自然のなかで静かに暮らしたい」「行けば何とかなるだろう」という発想をする人。気がついたらやることがない、妻が同行しない、雪や寒さに耐えられない、などの理由で都会へ逆戻りになってしまう。不安があれば移住セミナーに参加する、お試し住宅で地域の実情を知る、といったプロセスが有効だ。なお、「人付き合いが苦手」という人は別荘地またはリゾートマンションに絞ったほうが無難である。
本来の田舎暮らしは、地域社会へ入っていくことを意味する。空き家バンクの利用は、「自治会に加入すること」を条件にしている自治体もあるくらいだ。挨拶回りのやり方は、区長や班長と一緒にタオル持参で1軒ずつ訪問する場合もあれば、地域住民が集まる行事で挨拶する場合もあれば、自宅に招いて会食する方法もある。地域住民も「どんな人が来たのか?」と不安を感じているので、これは重要なプロセスだ。ただ、まれに「移住者は慣れるまで自治会に入らなくていい」「準組合員でいい」という地域もあるので、区長に確認しておこう。
小さな失敗を積み重ねて田舎暮らしを軌道に!
田舎暮らしの失敗で一番多いのは、ズバリ地域トラブルだ。地域活動に参加しない、隣近所とケンカした、田舎は遅れていると批判した、などの理由で地域住民との関係が悪化し、そこにいられなくなってしまうのだ。地域社会では葬式の手伝い、農道の草刈り、河川の空き缶拾い、水路の清掃をする堰普請(せきぶしん)などさまざまな共同作業がある。現代の農村は勤め人も多いので、土日または平日の早朝に行うのが通。移住者に回ってくる役職は持ち回りの班長やPTAの役員くらいだが、地域社会を維持するために必要なものなので、快く引き受けよう。そのうえで、酒飲みや宗教行事を含めて、できないことはできないとはっきり伝えておくことも大切。どっちつかずの態度を取り続けると、できると誤解されかねない。
地域トラブル以外で目立つのは、新規就農者の失敗である。自然のなかで働きたいと農業の世界に飛び込んだものの、思ったように収入を稼げない人が少なくないのだ。素人の移住者がいきなり最初から専業農家を目指すのには無理がある。体験→研修→実践というプロセスを踏んでから就農したほうが、成功する確率が高い。
自給自足すればお金なしで暮らせる、という幼稚な発想で失する人もいる。自分で野菜をつくれば食費が安く抑えられることは事実だが、それは手作業で行う小規模自給を実践した場合で、何十万円もする農機具を購入したのでは本末転倒だ。
田舎暮らしは思い通りにならないことが多い。蒔いた種が翌日の雨で流されたり、収穫物を獣に食べられた人もいる。そういう小さな失敗を積み重ねることで、自分らしい田舎暮らしが軌道に乗るものだ。畑で失敗しても、「また来年やり直せばいい」というくらいの軽い気持ちで臨むことも大切である。
イラスト/吉野歩
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