SDGsは17の持続可能な開発目標のなかからテーマを定め、2030年のゴールを目標に取り組んでいくもの。郡山市が選んだのは、全国でも珍しい「全世代健康都市圏」の創造だ。その背景や進捗状況などを現地で聞いた。
掲載:2023年10月号
【福島県郡山市(こおりやまし)】
東北新幹線、東北・磐越自動車道、福島空港が利用できる東日本のクロスポイント。福島県最大の商工業都市で、医療関係の企業や研究所も多い。一方で猪苗代湖などの自然に恵まれ、サイクリングやSUPを楽しむ人も急増中。郡山市を含む近隣17市町村「こおりやま広域圏」との連携も強めている。東京から東北新幹線で最短76分。
「全世代健康都市圏」をテーマに選んだ理由
令和元年に福島県内初の「SDGs未来都市」になった郡山市は、東北初の「自治体モデル事業」にも選ばれた。この地域は同市を含む17市町村で「こおりやま広域圏」を形成しており、その連携も視野に入れた「全世代健康都市圏創造事業」が先進的な取り組みと評価されたのだ。
「環境をテーマにしたSDGsが多いなか、健康に着目した事例は全国でも珍しく、多くの反響をいただいています。健康に取り組むことにしたのは、少子高齢化で生産年齢人口の維持や健康寿命の延伸がより重要になっていること、東日本大震災と原発事故の発生で子どもを含む全世代の健康確保に関心が高まったことが背景にあるんですよ」と郡山市政策開発課SDGs推進係の河野将之(こうのまさゆき)さんは語る。
来年2024年で市制施行100周年を迎える郡山市は、明治時代に猪苗代湖から農業用水の安積疏水(あさかそすい)を引き、工業用水と水力発電の電力を確保。交通の利便性に恵まれた東日本のクロスポイントであることから、健康医療産業や再生可能エネルギーの研究所も集積。健康という難しいテーマに取り組む素地が、郡山市には備わっていたのだ。
四季折々の花が咲き誇る国内最大級のウインドファーム(風力発電所)。猪苗代湖の南に位置する標高約1000mの布引(ぬのびき)高原に建設された。
福島県の「医療用機械器具の部品等生産金額」全国1位を支えている「ふくしま医療機器開発支援センター」。市内企業による医療関連産業の新規参入の促進も担っている。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)福島再生可能エネルギー研究所(FREA)では、CO₂削減に向けた実証実験などを実施している。(ⓒ国立研究開発法人産業技術総合研究所)
令和3年には福島県立医科大学と包括連携協定を結び、市からは医療・介護・健診などのビッグデータの提供、医大はそのデータに関する高度な知見と専門性による分析を行う共同研究を実施。つい最近、成果報告会が行われたばかりだが、子育て・医療・介護関係機関で情報を共有し、研究成果の市民への還元を目指している。
市が収集した膨大な健康データの分析により、郡山市民の抱える健康課題が明らかになってきた。小・中学生の肥満率が高い、働き世代の運動不足の割合が高い、急性心筋梗塞で死亡する高齢者が多い、などはその一例だが、課題が明らかになれば対策も見えてくる。減塩・野菜摂取といった食の見直し、運動不足の解消、高齢者の社会参加を柱とする健康づくりキャンペーンを展開。ターゲットを明確にしたアプローチにより、健康確保と健康寿命の延伸というゴールが見えてきたのだ。
こうした取り組みについて市民はどう受け止めているのか。郡山市では令和4年に「市民意見レーダー」と呼ぶアンケート調査を実施。「幸福かどうか判断する際に重視した事項」では「健康状況」と答えた人が68.9%と1位、まちづくりの満足度に関する質問では1位が「医療」、4位が「健康づくり」という結果が出た。郡山市の取り組みは、市民の日常生活の満足度と一致しているのである。
周知活動の徹底により、SDGs認知度が上昇
ベビーファースト宣言をしている郡山市は、子育て支援も重視。市内5カ所に子育て世代包括支援センターを設置するほか、子どもの遊び場も各地に建設。3年前からは待機児童もゼロ、今年度は公立小・中学校の給食費完全無料化も実現している。
もちろん、SDGsの周知活動にも力を入れており、学校で出前講座を行ったり、各学校での取り組みを教育実践事例集としてまとめ、横展開するなどしている。また、心と体の健康応援サイト「ココカラこおりやま!」という健康ポータルサイトを開設し、積極的に活用している。さらに、毎月17日を「SDGs DAY」とし、ごみ分別など身近なテーマをSNSで発信。
「SDGsは高尚なものととらえられがちですが、車をやめて自転車通勤にしませんかとか、キャンプを楽しんだあとはごみ拾いをしましょうとか、日常のわかりやすいテーマをSNSで取り上げています」と河野さん。
SDGsの認知度は活動当初の11.5%から今年度は87.5%まで上昇。意識の高まりはデータにはっきりと表れている。
市内のクリーンセンターにオープンした体感型環境学習施設では、ごみ分別の大切さなどが学べる。気候変動に対応した取り組みの1つだ。
カードゲームなどを通じてSDGsの基礎が学べるワークショップ。民間企業や広域圏職員とも連携しながら実施している。
こおりやま広域圏内において、特に優れた取り組みを行う企業や学校、住民などを「こおりやまSDGsアワード」として表彰。これまでに4回実施し、一般・教育の部門などで48の企業や学校などを表彰している。
郡山市のSDGs ここがスゴイ!
郡山市は、全国でも珍しい「全世代健康都市圏」の創造をテーマにし、「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた。主な取り組みを紹介する。
●全国でも珍しい全世代の「健康」というテーマに着目
●健康関連の大学や研究所と連携し、その成果を住民に還元
●身近なテーマで健康に関するあらゆる情報を発信
●徹底した周知活動で市民にSDGsを浸透
「全世代の健康をテーマに活動を展開しています」(政策開発課 河野将之さん)
郡山市移住支援情報
移住体験ツアーや移住相談会も実施!
こおりやま移住・定住ポータルサイトでは、移住者インタビューや「こおりやま広域圏」の癒やしスポットなどを知ることができる「移住・定住Times」を掲載。メール、電話、オンラインによる移住相談も随時受け付けている。
●お問い合わせ先:郡山市政策開発課 ☎️024-924-2021
こおりやま移住・定住ポータルサイト - 郡山市公式ホームページ
市制施行を記念して大正13年に建設された郡山公会堂。郡山の飛躍的発展の象徴だ。
「まずは、お気軽にご相談ください!」(政策開発課 池下直樹さん)
文/山本一典 写真提供/郡山市
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