紀伊半島中央部に位置する十津川村は山林と渓谷が多くを占め、日本有数の秘境とも。全国に先んじた人口減少や高齢化、基幹産業の林業の担い手不足といった課題解決策として、守り継がれてきた大自然や歴史・文化を活用する取り組みが行われている。
掲載:2023年12月号
奈良県十津川村(とつかわむら)
奈良県の面積の5分の1ほどを占める日本最大の村。人口約2900人。約96%が山林に覆われ、渓谷周辺に小さな集落が点在。生活用鉄線吊り橋として日本最長の「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」など、大自然と調和した観光資源も豊富。村内中心部へは和歌山線五条駅からバスで約3時間、大阪市内から車で約2時間30分。
森林活用の幅を広げて、災害に強く活力ある村へ
十津川村があるのは、鉄道も高速道路も通っていない、標高1000m超級の山々に囲まれた紀伊半島の奥深く。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する祈りの道「小辺路(こへち)」や、「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」が村内を通る。ほかにも、全国初の「源泉かけ流し宣言」をした十津川温泉郷、国の名勝の瀞峡(どろきょう)など、雄大な自然を背景とした質の高い観光資源が数多い。
標高1000mほどに位置し、「天空の郷」とも呼ばれる果無(はてなし)集落。日本の原風景を保つ集落内を世界遺産の古道が通る。
湯泉地(とうせんじ)温泉、十津川温泉、上湯(かみゆ)温泉からなる十津川温泉郷では、2004年に全施設で全国初の「源泉かけ流し宣言」をした。
一方で、課題になっているのが、古くから村の経済を支えてきた林業のテコ入れ。人口減少や高齢化、安価な外国産材の普及などにより、手入れの行き届かない森林が増えているという。村では2011年の紀伊半島大水害をきっかけに、山を守るための林業再生に取り組み、その流れをくむかたちで18年に「持続可能な森林保全及び観光振興による十津川村SDGsモデル構想」を立ち上げた。
「林業と観光との両軸で好循環を生み出していくことがテーマです。まずは適切な管理を行うことで災害に強い健全な森づくりを実現するとともに、産業振興としても林業・木材産業の取り組みを推し進めています」
そう話すのは、企画観光課の鈴木悠太(すずきゆうた)さんだ。
かつては山から伐り出された木材の多くを、丸太のまま素材として出荷していたが、現在は村内の木材流通加工センターで製材、加工、仕上げまで一貫して手がけ、付加価値の高い建材として近畿圏の工務店などへ直接販売している。
村産材の商品展開の拠点としては、かつての製材加工施設をリノベーションした家具のギャラリー&カフェ「KIRIDAS(キリダス)」を、村の木工作家たちが集まって運営。雇用創出や村外への情報発信効果も期待されている。
都市部への供給に加え、村内での木材活用も早くから進めている。12年に開校した十津川中学校、17年に開校した十津川第二小学校は、教育環境にも配慮した村産材による木造校舎にこだわった。さらに、今年度中には役場庁舎前に、全国的にも珍しい木造2階建ての災害対策本部拠点施設が完成する。
「一般の住宅にも村産材を広げていくため、新築、増改築、改修に利用する場合、木材購入費に対して木材利用促進事業補助金を交付しています」と鈴木さん。
森林のエキスパート「フォレスター」が持続可能な森づくりのために幅広く活動。県の専門教育を受けた職員が派遣されている。
十津川村の木を使い、十津川村でつくられた家具や木工品を製造、展示・販売する拠点「KIRIDAS」。
住民が支え合う長屋スタイルの村営住宅「高森のいえ」と「西川のいえ」を整備。高齢者世帯の孤立を防ぐ取り組みで、村内の自宅との二地域居住も可能。
豊かな森林を生かした観光振興で注目される取り組みが、フランスの技術を導入して20年に誕生したアウトドア施設「空中の村」だ。「多種多様な樹種からなる欧米のような美しい混交林のなかにあり、ファミリーやカップルから80代の夫妻まで、満足して遊んでいただいています」と、運営代表で元地域おこし協力隊のジョラン・フェレリさんは手応えを話す。
「森の新しい活用法を広めたい」と、フランス出身のジョラン・フェレリさん(左)は森林体験型のアウトドア施設「空中の村」を立ち上げた。右は企画観光課の松﨑さん。
森の環境を生かしながら、空中ウオーク、ツリーハウス、空中テントなどを設けた「空中の村」。村産の木材も各所に使用。
十津川村のSDGsここがスゴイ
世界遺産の熊野古道、源泉かけ流し宣言をした上質な温泉をはじめ、地域資源が充実。森林の活用による伸びしろは大きい。
●適切な管理体制を整え、災害に強い森づくり
●一貫した生産体制で産業振興と雇用の創出を図る
●公共施設から一般の住宅まで、村産材の活用を推進
●林業だけにとどまらない森林の活用法として、森林のレクリエーション施設が誕生
「十津川村ではSDGsが提唱される以前から同様の取り組みを進めてきました」(十津川村企画観光課 鈴木悠太さん)
十津川村のここがオススメ!
奈良・三重・和歌山の3県にまたがる国特別名勝の瀞峡。吉野熊野国立公園内随一の渓谷美を誇り、下流の下瀞(しもどろ)は「瀞八丁」と称えられる。
夏に村内各地で開催される盆踊りの一部は、室町時代の風流踊に由来し、「十津川の大踊」として国の重要無形民俗文化財に、2022年11月にユネスコ無形文化遺産に指定。
十津川村移住支援情報
空き家改修費補助は補助率90%で最大250万円
空き家バンク登録物件の改修に要する費用に対し、補助率90%、最大250万円の補助金を用意している。また、村内で新たに起業する場合、経費の4分の3、最大150万円を「がんばる事業者応援事業補助金」として交付。村内バスやデマンドタクシーなどの交通支援をはじめ、きめ細かな定住支援も実施している。
問い合わせ:十津川村企画観光課 ☎️0746-62-0004
https://www.vill.totsukawa.lg.jp/iju/
移住相談窓口では支援に関する多彩なツールを用意。テーブルには十津川村産材を使用。
「保育所から中学校までの給食費無料、保育料無償化なども実施しています」(十津川村企画観光課 松﨑友哉さん)
文・写真/笹木博幸 写真提供/十津川村
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