公害克服のノウハウを活かし、リサイクル産業を集積するなど、環境への取り組みを経済発展につなげてきた北九州市。「SDGs未来都市」選定は初年度の2018年。市民の力を再構築し、次世代エネルギーの拠点化などの事業も進める。
掲載:2024年3月号
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福岡県北九州市(きたきゅうしゅうし)
福岡県の最北端、関門海峡を隔てて本州に面する九州の玄関口。人口約91万5000人は九州第2位の政令指定都市。北九州工業地帯の中核を担い、鉄道、道路、港湾の交通結節となっている。年平均気温16.6℃。新幹線で博多駅から小倉駅まで約15分、新大阪駅から約2時間10分。羽田空港から北九州空港へ約90分。高速道路ICまで市内全域から10分以内。
産官学民での公害克服からSDGsのトップランナーへ
北九州市は1901年の官営八幡製鐵所操業開始以来、重工業を中心に発展を続けた。戦後の高度成長期に大気汚染や水質汚濁などの公害が深刻化すると、市民と行政、企業が協力してこれを克服。さらにそのノウハウを活かし、アジアの各都市への環境国際協力にまで発展させた。
97年にスタートしたエコタウン事業では、臨海部に環境コンビナートともいうべきリサイクル産業団地を開発。CO₂の削減に貢献するとともに、産業振興と地域活性化につなげている。市役所でSDGsを担当する政策課の白川賢一さんは言う。
「60年代に始まった公害克服への取り組みをリードしたのは市民、なかでも婦人会でした。彼女たちは『青空がほしい』と運動を進め、産・官・学・民が協力して取り組む流れができあがりました。それが現在にまでつながっています」
リサイクルの研究機関や工場が集積した北九州エコタウン。域内の連携も進み、廃棄物の循環システムが構築されている。
響灘では国内最大級の洋上風力発電所の建設が進む。臨海部では、風力発電関連産業の総合拠点や水素の供給・利活用拠点などの形成を目指す。(写真提供:Vestas Wind Systems A/S)
内閣府が2018年から選定を始めた「SDGs未来都市」。そこには「経済・社会・環境の三側面の統合的取り組みによる相乗効果の創出」「多様なステークホルダーとの連携」といった理念が求められている。
北九州市ではすでに04年に、市民、NPO、企業、大学などによる「北九州市環境首都創造会議」が、市の環境ビジョン「環境首都グランド・デザイン」をまとめている。掲げられた基本理念は「『真の豊かさ』にあふれるまちを創り、未来の世代に引き継ぐ」で、その実現のための3つの柱は「共に生き、共に創る」「環境で経済を拓く」「都市の持続可能性を高める」。「SDGs未来都市」に初年度選定された29都市だが、北九州市はなかでもトップグループを走る自治体だといえよう。
市では女性の〝はたらく〞を応援する「ウーマンワークカフェ北九州」、市内55カ所を超える「子ども食堂」、シニア世代の活躍を応援する拠点づくりなど、暮らしやすいまちづくりにも力を入れてきた。市民主体の防犯防災・青少年育成・生涯学習・保健福祉活動などの拠点として、小学校区単位を基本に置かれた「市民センター」の役割も大きい。SDGs未来都市選定後は、こうした社会面の充実も含めた、より広い連携が進んでいる。
市内で活発な子ども食堂。市は、民間団体と共同で「子ども食堂ネットワーク北九州」を設立して運営を応援、食材やボランティア情報の提供などを行う。
「出張こども大工」も提案型プロジェクトの1つ。工務店と障がい福祉サービスの事業所が連携し、アップサイクルした建築端材で、幼稚園児がイスを製作。
「オール北九州でSDGsを推進しようと集まったのが『北九州SDGsクラブ』です。会員数は市民・企業・学校・NPOなどの団体を合わせて昨年度末で2100を超えました」
企業や学校などが、教育や資源循環、環境美化、防災、健康など、多岐にわたる課題の解決に向けて新たなプロジェクトを提案。毎年の交流会の開催など、北九州市のSDGs推進を図るさまざまな取り組みが会員間の連携によって実現している。金融機関と行政が連携協定を結び、会員企業のSDGs経営をサポートする体制も整えた。こうしたなか、「北九州SDGs登録制度」に登録してSDGsに取り組む市内の事業者は600を超える。
「いま準備しているのはSDGsの認証制度です。企業の成長と社会課題の解決の同時実現につながることを期待しています」
「北九州SDGsクラブ」の交流会。企業、市民、NPOなど多様な人びとが出会い、新たなアイデアが生み出される。
北九州SDGsクラブの会員が提案した「北九州のまちを美しく! プロジェクト」。清掃活動の成果をアプリを用いて地図上で見える化。
小倉駅近くの商店街に設けられた「北九州SDGsステーション」は、ワークショップやイベントをはじめとした情報発信の拠点。
北九州市のSDGsここがすごい
市民が中心となり、課題解決から未来への都市づくりを行ってきた北九州市。その取り組みは多岐にわたる。
●公害をきっかけに市民・行政・NPO・企業・大学などのパートナーシップが育まれ、環境と経済を両立発展させる思考が根付いている
●国際協力、環境関連産業の構築、パートナーシップを促進する仕組みづくりなど、50年以上にわたって時代ごとに先駆的な取り組みを続けてきた
●市民主体のまちづくり、子ども、女性、シニア、障がい者などを応援する仕組みづくりが進んでいる
「小中学校ではSDGs教育が進み、企業との連携も活発です」(北九州市政策課の白川賢一さん)
北九州市のここがオススメ!
北九州市立響灘(ひびきなだ)緑地「グリーンパーク」は市内最大の都市公園。大芝生広場、じゃぶじゃぶ池など、子どもたちに人気のスポット。
国際貿易港として開かれた門司(もじ)港。大正期には出入港船舶数全国一を誇った。当時の建築は「門司港レトロ」として残し活かされている。
北九州市移住支援情報
コスパ抜群! 一人ひとりの暮らしのニーズに応えられるまち
北九州市は交通インフラや医療、子育て支援などが充実していながら生活コストが低い、住むなら今が旬のまち。移住支援も豊富で、先輩移住者などにチャットで相談できる「バーチャル北九州市」や、移住応援特典を紹介する無料会員制度「北九州市すまいるクラブ」などがある。詳細は移住応援公式情報サイト「北九州ライフ」を検索。
お問い合わせ:北九州市政策課 ☎︎093-582-
https://kitakyushulife.jp/
移住者の交流会は希望者も交え、リアル+オンラインで行われている。
「コンパクトで、都会と自然、人との距離、すべてがちょうどよい街です。ご飯がおいしく、工業夜景やレトロな街なみも魅力です」(北九州市政策課 藤永佑衣さん)
文/新田穂高 写真提供/福岡県北九州市
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