住民の協力のもと、ごみを28品目に分別して、8割以上も再資源化している大崎町は、自治体として15回も資源ごみリサイクル率日本一を達成。これらの取り組みが埋立処分場の延命やごみ処分の費用削減へとつながり、その成果は雇用や教育にも役立っている。世界的にも評価されている「大崎リサイクルシステム」について聞いた。
掲載:2024年4月号
鹿児島県大崎町(おおさきちょう)
鹿児島県の東南部、大隅(おおすみ)半島の東側に位置し、人口は約1万2000人。町の北部には山林や原野、南には志布志湾(しぶしわん)に注ぐ3つの河川沿いに水田地帯が広がっている。農業、漁業が基幹産業で、「鹿児島黒牛」や「かごしま黒豚」をはじめ、養殖ウナギなど豊かな食が自慢。大崎海岸はウミガメの産卵場所として有名。鹿児島空港から車で約1時間10分。
住民協力でごみ分別を実現。雇用や収益を生み出す
南部は美しい志布志湾に面し、北部は多くの農畜産物を育む大地が広がる「食材の宝庫」大崎町。これまで14回も資源ごみリサイクル率日本一となり、2018年にはSDGsの先進的な自治体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」で内閣官房長官賞を受賞、2019年には「SDGs未来都市」に選定された。
そもそも大崎町には、ごみを燃やす焼却処理施設がない。1990年に隣の志布志市と一部事務組合で埋立処分場を建設したが、埋立ごみが増加し、予定より早く満杯となる見込みとなった。
志布志市にある埋立処分場。残余年数がひっ迫していたが、「大崎リサイクルシステム」の導入により約40年の延命が可能となった。
「焼却処分場の建設なども検討しましたが、財政的に維持していくのは厳しい。そこで選んだのが、ごみを徹底して分別してリサイクルし、埋立ごみを減らして埋立処分場の延命を図る方法でした」と環境政策課の池田圭佑さんは話す。
ごみの分別には住民の協力が不可欠だ。集落のリーダーたちと行政が協力し、約150の集落に3カ月かけて説明会を実施。その回数は延べ約450回にもなった。「ごみ処理は他人事ではなく、自分たちの問題であること」をていねいに説明した結果、住民の理解が得られ、3品目から始まった分別品目は16品目まで広がった。
現在では、分別は28品目となり、住民自治組織である「大崎町衛生自治会」が組織され、役員等が収集日に立ち合って、わからない分別などを共同分別している。そこから住民同士の交流が生まれたり、新しい住民には地域のことを教えたりと、コミュニケーションの場にもなっているという。
ごみの分別から始まった大崎町の取り組みは、さまざまな方面へと広がっていく。まずは民間の㈲そおリサイクルセンター設立により雇用が生まれた。また、分別した生ごみや草木から有機堆肥をつくり、堆肥の販売とその堆肥を活用して栽培した菜の花から生成された菜種油の販売で収益が出るようになった。
ごみの収集日には、住民が立ち会い、分別の指導を行う。そこで、住民同士の交流が生まれ、コミュニケーションの場にもなっている。
生ごみや草木は、民間事業者「そおリサイクルセンター大崎有機工場」で完熟堆肥となり、菜の花畑に撒く。菜種から食用油「ヤッタネ!菜ッタネ!」をつくり販売。
2018年からは、リサイクルによる収益をもとに町外に進学した学生が就職などで戻ってきた際に奨学金の返済金を全額補塡する「リサイクル未来創生奨学金」を創設。
「大崎リサイクルシステム」は海外からも評価され、独立行政法人国際協力機構JICAの「草の根技術協力事業」によりインドネシア共和国、バリ州等で事業展開している。
2020年には、SDGsの推進を目的とした官民連携組織「(一社)大崎町SDGs推進協議会」を設立し、情報発信や企業との連携、SDGs教育などを行っている。また、埋立ごみの約3割を占めている紙おむつについても取り組みを始め、企業と連携した水平リサイクル(※)の実証実験もスタート。
ごみを分別するという方針に舵をきった大崎町。リサイクル率は全国平均約20%のところ大崎町は80%を超え、ごみ処理事業経費は全国平均1人当たり約1万7000円のところ大崎町はその約3分の2。懸念されていた埋立処分場は今後40年ほど使える予定だ。
「住民のみなさんの協力があってこそ実現しました。今後も、できる限りごみを再資源化していきたいと思います」
インドネシア共和国において、ごみの分別・排出・収集・運搬処理のシステムづくりの技術指導を実施。写真は、現地住民向けの説明会の様子。
大崎町では、北海道東川町と連携し、「リサイクル留学生プロジェクト」を行っている。東川町で日本語研修を行い、大崎町でリサイクル研修を実施し、外国人留学生を資源リサイクルを普及する人材として育成する。
海も海岸もきれいな大崎町には、毎年、ウミガメが産卵のために訪れる。
大崎町のSDGsここがすごい
ごみを分別しリサイクルすることで、埋め立てるごみを減らす方法を選んだ大崎町。「大崎リサイクルシステム」は世界にも認められている。
●住民の協力のもと28品目のごみ分別を行い、低コストを実現
●ごみのリサイクル率は84.0%(2021年度)、リサイクル率日本一を15回も達成
●埋立処分場は、現在の残余年数として40年ほど使える予定
●「大崎リサイクルシステム」は海外にも認められ、インドネシア共和国等で事業展開
「ごみを分別し再資源化するシステムは、とても素晴らしいもの。次世代へとつなげていきたいと思います」(大崎町環境政策課 池田圭佑さん)
大崎町のここがオススメ!
横瀬海岸では、全国でも珍しい競走馬を海岸で調教している様子を見ることができる。
温暖な気候と良質な地下水に恵まれた大崎町は、ウナギの一大産地。ほどよい甘みと脂ののりがいい良質なウナギとして人気が高い。
大崎町移住支援情報
体験型宿泊施設がオープン。移住者の住宅取得に補助も
ごみ分別などリサイクルに取り組んでいる大崎町。体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI(サーキュラーヴィレッジホステルグルリ)」がこの春オープン。施設の一部は地域の資材を活用していて、町の暮らしの様子や家庭ごみの分別体験ができる。また、住宅の新築または購入で高断熱などの加算がある「環境配慮型定住住宅取得補助金」もある。
問い合わせ:大崎町企画政策課 ☎099-476-1111(内線223)
https://www.town.kagoshima-osaki.lg.jp/so_densan/kurashi/ijuteju/sokushin/
※「GURURI」については,大崎町SDGs推進協議会に問い合わせを。
「circular village hostel GURURI」では、地域で使われていた素材や家具を活用している。
「空き家バンクによる物件紹介もしています。『食材の宝庫』大崎町へぜひお越しください」(大崎町企画政策課 長重友翔さん)
文/水野昌美 写真提供/鹿児島県大崎町
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