築100年以上の家屋で「庭文庫」を営む百瀬さん夫妻。開業当初は古本屋としてスタートし、最近は新刊も販売。さらに宿泊業と出版業にも挑戦している。ゆるりとした空気を放ちながら、マイペースに前進していく夫妻を取材した。
掲載:2024年6月号
CONTENTS
岐阜県恵那市 えなし
名古屋から車や電車で約1時間。市街地にはスーパーや総合病院、JR恵那駅や高速道路のICがあり、ほどよく便利な恵那市。少し離れると、恵那山や木曽川(写真)の雄大な自然を感じられる笠周(りっしゅう)地域、里山文化が残る恵南(けいなん)地域があり、豊かなライフスタイルを送ることができる。
山に囲まれた古本屋として開業資金約20万円でスタート
百瀬雄太さん、実希さん
雄太さんは東京で生まれ、小学5年生から19歳まで岐阜県恵那市で育った。大学時代は神奈川県で過ごし、2015年に母が暮らす中津川市へUターン。実希さんは沖縄生まれ。大阪の大学を卒業後、イベント企画会社に勤務。東京へ弾き語りライブに来ていた雄太さんにひかれ、実希さんは岐阜県に移住。2018年に結婚、2021年に第一子が誕生(取材時は保育園に登園中)。
「庭文庫」は木曽川を望む高台にある。赤いアーチを描く武並橋(たけなみばし)が目印。住まいはここから車で3分ほどの場所にある。
本の分類、コーヒーの抽出などの業務をこなす雄太さん。実希さんは接客や経理などを担当。
庭文庫
住/岐阜県恵那市笠置町河合1462-3 営/ 13:00〜18:00
休/火・水・木曜 https://niwabunko.com
山に囲まれた恵那市笠置(かさぎ)地区で「庭文庫」を営む百瀬雄太さん・実希さん。古本に加え新刊も扱い、カフェ、宿、出版とさまざまなことに取り組む2人だが、ここに至るまでには数年の月日があった。
「移住前、ソローの『森の生活』を読んでいて、山暮らしに憧れていたのですが、ももちゃん(雄太さん)が暮らす岐阜には山も川もある。移住後は2人でお店をやってみたいな、やるなら古本屋?など話をしていました。ただ、お金も人脈もない。どうしようかと考えていたときに恵那市地域おこし協力隊が募集されていたのです」
2016年10月、実希さんは恵那市地域おこし協力隊に着任。空き家バンクの紹介業務などに就きながら、雄太さんとともに古本屋開業に向けての準備も進めた。そんなとき、友人の紹介で賃貸物件にも出合う。木曽川を見下ろす高台に立つ物件はひと目見て気に入るも、すぐには契約に至らず。そのため、イベントなどで本を販売する出張古本屋を2人で始めることとなった。手持ちの古本の中で売ってもよいと思った本は30冊程度。
SNSで本を譲ってくれる人を募集したところ、300〜400冊の本が集まり、1年後には在庫が2000冊ほどに。18年3月には賃貸物件の契約が成立。開業資金は約20万円。家具は物件にあったもの、譲ってもらったものを使い、所有者の厚意で物件の修繕も行ってもらった。実店舗がオープンしたのは18年4月。名古屋をはじめ遠方から足を運ぶ客も増えた。また、将来的には宿泊業と出版業も考えていたため、クラウドファンディングに挑戦。400万円以上の資金を集めた。
実希さんの出産やコロナ禍を経て、2つの夢は実現。出版業としては、自社レーベル「あさやけ出版」を立ち上げ、20年9月に詩集『聲(こえ)』を、続いて詩集『石』も出版。23年3月には宿も開業した。1日2組限定で、予約は公式サイトのみだが、客層は高校生から80代までさまざま。季節により変動はあるものの、週末や長期休暇は満室になることも多い。宿泊客を見送るときは、雄太さんのギター演奏で2人がカントリーロードを歌うのが定番となっている。
「今、2人で『庭文庫』をやっていることが、とてもしっくりきているんです。たまに本のイベントに行って、人とたくさん会うことも楽しんでいるのですが、店に帰ってきて周りの風景を見渡すと、〝ここはいい場所だな〞とつくづく思うんです」
書棚は仕事、建築、田舎暮らし、ネコ、音楽など、ゆるやかにジャンル分けされていて、眺めているだけでも楽しい。
宿泊は1日2組限定。洋室(写真)と和室があり、空室・料金確認、予約は公式サイトからできる。
深緑色の木曽川を見下ろす縁側は2人のお気に入りの場所。
【百瀬さん夫妻からアドバイス】
周囲の人たちを尊重しながらも自分の考えをしっかりと持つ
店をやっているといろんな方からアドバイスをいただくのですが、自分が違和感を持つことには気づき、流されない力が必要だと思います。ただ、周囲の方を尊重したり、感謝したり、その気持ちは忘れないようにしています。経済面では、家賃、保険、車両費などの固定費はできるだけ抑えることをオススメします。
「無理なく店を続けていくことが大切」
恵那市移住支援情報
2024年から始まる新しい子育て支援に注目
恵那市は、さらに子育てしやすい町を目指し、2024年度から「子育て支援パッケージ」として、新たな子育て支援事業を開始。これまでの医療費の18歳までの無償化をはじめ、さまざまな支援に取り組む。詳細はWEBサイトを参照。移住支援としては、移住の先輩が移住定住サポーターとなり、移住検討者の恵那暮らしをサポートする仕組みもあるのが心強い。
問い合わせ/移住定住推進室 ☎0573-26-2111
えなし子育て応援なび「えなっ宝」
https://www.city.ena.lg.jp/kosodate/oshirase/12631.html
移住支援ポータルサイト「グットローカルえな」
https://kurashi.enalifebizsupport.jp
桜や紅葉が美しい、恵那峡さざなみ公園の夜明け。
農村風景が広がる岩村には、岩村城跡がある。
「空き家バンクをはじめとした移住定住情報については、移住支援ポータルサイト『グットローカルえな』に最新情報を掲載してます。ぜひ、ご覧ください」/移住定住推進室 水野香代子さん
文/横澤寛子 写真/田中貴久 写真提供/恵那市
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