平成の大合併にも与せず、富山県内で唯一の村として独立を貫く舟橋村。ユニークな仕組みで全国から注目を集める学童保育施設「fork toyama」は、なぜこの小さな村で生まれたのか。その鍵を握るのは、東京からやってきた初の移住者だった。
掲載:2024年8月号
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富山県舟橋村 ふなはしむら
富山平野のほぼ中央に位置する、3.47k㎡の日本一面積の小さな自治体。人口約3300人。各1校ある小・中学校は村内のどこからも徒歩圏内。村の中央部にある富山地方鉄道越中舟橋駅から富山駅まで約15分でアクセスでき、近年は隣接する富山市のベッドタウンとして人口・世帯数ともに大幅な増加傾向にある。写真は富山県民の心の拠り所、立山連峰。「夕暮れ時にfork toyamaの脇の畑から眺められる、ピンク色に染まる立山がお気に入り」と岡山さん。
村の子育て環境に共感し取材者から移住者へ
岡山史興(おかやまふみおき)さん(39歳)
1984年、長崎県生まれ。一般社団法人fork代表理事、トゥ株式会社(,too)代表取締役。2017年に70seeds株式会社(現トゥ株式会社)を起業。「共在者としてうねりをおこす」をミッションに、企業・地域のブランディング支援などに取り組む。2018年、富山県舟橋村に移住。2022年7月に学童保育施設「fork toyama」を運営開始した。写真/自身のお子さんも利用しているため「パパ」として認知されている岡山さん。現在は1日平均30〜40人が利用する。公式Instagram (@fork_toyama)では、子どもたちの日々の様子やカフェのメニューなどの情報を発信中。
高木林に囲まれた敷地にたたずむガラス張りの建物。そこにノートPCと向き合う1人の男性の姿があった。
「この離れの建物がカフェスペース。普段はここで仕事をすることも多いんです」
オンラインミーティングを終え、一息ついた岡山史興さんはそう話を切り出した。ガラス越しには、小学校の授業を終えて続々とやってくる子どもたち。木漏れ日の差す穏やかな風景がたちまちにぎやかになった。
富山県舟橋村にある学童保育施設「fork toyama」。岡山さんが代表を務めるこの施設には、全国からこれまで50を超える企業や自治体が視察に訪れているという。その関心の矛先は、本施設の「みん営」というユニークな取り組みにある。「みん営」とは「みんなで営む」という意味の造語。保育料ゼロを実現する、新たな学童保育運営の仕組みだ。
岡山さんの舟橋村との出合いは、自身が運営するウエブメディアの取材がきっかけだった。
「日本一面積が小さいのに、人口が増え続けている村があると聞き、面白そうだなと。当時の村長に話を伺い、子育てを地域課題としてとらえていること、それでいて行政頼みにならず、当事者同士が有機的に連帯し合うありように共感したんです」
その取材は岡山さんの心をとらえ、翌2018年、ついに移住を決意。地縁が一切ない、初の東京からの移住者となった。
「mori」と名づけられた庭。あえて遊具は設置されていないが、子どもたちは遊びの天才。季節に合わせていろいろな遊びが自然と生み出される。
越中舟橋駅前の古民家を改築し、2023年5月に正式オープンしたfork toyama。富山市の「studio SHUWARI」と「WARMTH坂口工務店」による建築。県産材を用いた温かみを感じられる空間だ。
fork toyama
住所/富山県中新川郡舟橋村竹内325 https://fork-toyama.com
READYFOR(支援募集) https://readyfor.jp/projects/forktoyama_membership
危機感から生まれた新たな学童のかたち
村唯一の学童施設の、民間への運営委託を行政が決定したのは、移住から3年後のこと。翌年にお子さんの小学校入学を控えたタイミングだった。
この突然の方針転換は、当事者たる親たちに大きな動揺を与えた。「子育て共助の村」の、事実上の後退だったからだ。
「みんなの不安はもっともだし、何より僕が納得したところに預けたかった」と、学童の新設を構想した岡山さん。協力者を探す一方で、改めて学童を取り巻く諸問題を学び、本来、学童は地域や企業を含めた社会全体で支え合うべき存在なのでは、と思い至った。
未来の選択肢を増やし、子育てと地域社会がより近しくなる学童を――。「fork(選択肢)」の名と「みん営」はこうして生まれたのであった。
運営費は企業や団体の協賛や個人の継続寄付、そして今年からは行政の補助金によっても賄われる。学童施設に併設するカフェやコワーキングスペースも大切な収益源。同時に地域コミュニティとの接点としての役割も岡山さんは期待する。
「学童と直接かかわりのない方々にも、一杯のコーヒーをきっかけに課題や運営に興味を持ってもらえればうれしいですね」
岡山さんを日本一小さな村へと導いた、子育て中心の緩やかな共同体の連帯。fork toyamaは、その文脈を継ぐ新たな実践の場といえるだろう。
ガラス張りの外観が印象的な「noki fork cafe」。カフェが内と外をつなぐ軒(のき)になるようにと名づけた。庭に面し、カフェで過ごしながら子どもたちの様子を見守ることができる。
男の子が夢中になっていたのは自分たちで捕まえてきたムカデの飼育。のぞき込むと「見て見て、ミミズを食べるんだよ!」と誇らしげに教えてくれた。
岡山さんの専門領域はPR。企業や自治体のブランディングを手がける自社の強みを生かし、fork toyamaの企業スポンサーとのコラボレーション企画を行っているのも「みん営」の特徴だ。
「新しい暮らし」へのアドバイス
移住のハードルを下げる移住支援金。いまは多くの自治体で支給されていますが、その金額の多寡で移住候補地を選ぶのは本末転倒です。支援金はあくまで補助的なものと考え、目先のお金よりも自身の価値観やライフスタイルを軸に検討することがやはり大切。僕は支援制度を活用せずに移住しましたが、「子育て」という明確なポイントがあったため迷いはありませんでした。
「そもそもの移住の目的を明確に!」
舟橋村の移住支援情報
立山連峰をあおぐ日本一小さな自治体。子育て世代の移住を支援
富山市中心部へ電車で約15分、車で約20分とアクセスがよい舟橋村。令和元年に完成した村営の子育て支援住宅「リラフォートふなはし」では、同居する児童1人当たり月額5000円を家賃から減額(月額最大1万円、最長2年間)する補助制度を用意。こども園や小・中学校、学童保育施設はすべて徒歩圏内にあり、子育て世代に優しい施策を展開している。
問い合わせ/総務課 ☎︎076-464-1121
http://www.vill.funahashi.toyama.jp
村の中心部に位置する村営住宅「リラフォートふなはし」には、20世帯が入居可能。
子育て支援センター「ぶらんこ」。
「水と緑に恵まれた舟橋村。3300人の『大家族』がお待ちしています!」
総務課 喜田義樹さん
文・写真/永島岳志 写真提供/舟橋村
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