北海道の大雪山のふもとの町で、20年以上もソーセージを製造してきた食肉加工場の事業と店舗を承継し、ホットドッグ店を開業した小山内さん夫妻。その味と店名は、東京のホットドッグ店から受け継いだものだ。2つの想いを継いだ夫妻に話を聞いた。
掲載:2024年9月号
北海道上川町(かみかわちょう)
北海道のほぼ中央に位置し、人口は約3200人。大雪山(だいせつざん)国立公園の玄関口であり、北海道有数の規模を誇る層雲峡(そううんきょう)温泉を有する上川町は、豊かな自然と観光資源に恵まれている。特産品は、大雪高原牛や大雪高原野菜など。旭川空港から上川層雲峡ICへ約1時間。
おいしさが評判を呼び、スポーツイベントにも出店
大雪山連峰のふもとにあり、石狩川(いしかりがわ)が流れる上川町は、豊かな大地と清流に恵まれている農畜産物の産地。2022年春、JR上川駅の駅前にホットドッグ店「マチガイネッエゾベース」がオープンした。切り盛りしているのは、小山内力(おさないちから)さん(39歳)と妻の沙紀(さき)さん(39歳)。2人は、精肉加工店「山麓の四季」のオーナー・安部さんからソーセージなどの加工場と居酒屋だった店舗を引き継いだのだ。
小山内力さんと沙紀さん。「事業を継ぐことにプレッシャーもありましたが、お話をいただいてうれしかったです」と力さん。
上川駅前の店舗は、元居酒屋だった。こちらも食肉加工場と併せて引き継ぎ、自分たちで改装した。
店内には、2人が好きなアメリカンキャラクターが壁一面に並ぶ。
北海道厚真町(あつまちょう)出身の力さんは、関東で働いていたときに遊びに行った名古屋で沙紀さんと出会い、結婚を機に名古屋へ。休みには四国を巡っていた2人は、瀬戸内での暮らしを考えるように。情報を得ようと参加した移住フェアで、たまたま上川町のブースに立ち寄った。町では「フードプロデューサー」の地域おこし協力隊を募集していて、任期終了後は新規開業支援補助金が受けられることを知る。
「私はホットドッグ店、妻は喫茶店開業が夢だったので、起業の支援が受けられるのはいいなと思いました」と力さん。沙紀さんも「ブースに展示してあった層雲峡の紅葉の写真にひと目惚れでした」と振り返る。20年2月、2人は上川町へ移住した。
地域おこし協力隊として着任し、カフェや子どもの遊び場が併設された未来型公民館「大雪かみかわ ヌクモ」を拠点に活動。そのヌクモのカフェで提供していたのが、精肉加工店「山麓の四季」のソーセージだった。
協力隊の活動と並行して開業に向けて準備を始めた力さんは、安部さんにお願いしてソーセージ製造の見学へ訪れた。そこで思いもかけない提案を受ける。
「加工場に行ったら、安部さんから『跡を継ぎませんか?』といきなり言われて。驚いたけど、僕のホットドッグにはここのソーセージがないと困るし、いずれは自分でもソーセージ製造をしたいと思っていたので、『継ぎます!』って答えました」
見学初日に事業承継となったのだ。さらに、当初は店舗なしのキッチンカーで開業する予定だったが、安部さんが所有していた店舗も譲ってもらえた。
「安部さんは、外から来た若い人を応援したい、それが町の賑わいにつながればという想いがあったのではないでしょうか。とても、ありがたかったです」
店舗は町の補助金を活用して自分たちで改装。じつは、店名の「マチガイネッエゾベース」は、東京・秋葉原にあった「マチガイネッ」という店から継いだ。
「そこのチリミートが最高で、閉店したと聞いて味を承継したいと思ったんです。東京へ行ってレシピを教わり、店名も引き継ぐ了承をいただきました」
ソーセージは、旭川周辺から生の豚肉を仕入れ、冷凍はせずに加工。温度や豚肉の水分量で練り具合を変えるなど、こだわっている。
看板メニューの「なっち」は、自家製ソーセージに納豆とチリミート。意外な組み合せだが、病みつきになるおいしさだ。
提供するものは手づくりにこだわり、ソーセージだけでなく、パンも自家製。一度食べると病みつきになるとファンが増えていった。最近では、スポーツイベントの出店も多い。
「当時のアイスホッケーチーム『ひがし北海道クレインズ』の方が食べに来てホットドッグを気に入ってくださり、大雪アリーナの出店をお声がけいただきました」
当初はキッチンカーもなかったが、多くの人が購入してくれた。その後も評判が評判を呼び、ほかのアイスホッケー会場での出店や、さっぽろ東急百貨店での期間限定出店、音楽フェスでの出店へとつながっていく。
「出店で食べたのをきっかけに来店してくれたり、お客さま同士の交流が始まったり、関係が広がっていくのがうれしい。いつか上川町で『マチガイネッエゾベース』の冠の音楽フェスをやりたいです」と目を輝かせる。
明るい2人との会話を楽しむお客さんも多い。ポップな店内だが、提供するものは厳選した食材を用いている。「北海道の食材の豊かさには本当に驚きました」。
イベント出店が増えて、設備投資したキッチンカー。夏は蒸し暑く、冬は寒いが、これにより出来たてを提供できるようになった。
小山内さんからアドバイス
一から店舗を用意して開業となると、多額の資金がかかります。居抜きだと費用は抑えられますが、田舎には居抜き物件はほとんどありません。事業承継は、設備や顧客といったベースがあるところから開業できますから、メリットは多いです。移住して起業・開業を考えているのなら、事業承継も視野に入れるといいかもしれません。
マチガイネッエゾベース
北海道上川郡上川町中央町582番地
☎090-9434-3647
営業時間:水・木・金17:00~21:00、土11:00~17:00、日11:00~15:00
休み:月・火
※キッチンカー出店のときは店はお休み。出店情報などはSNSで確認。
Instagram:@machigaine.ezo
X:@36no4s
上川町移住支援情報
住まいの補助が充実。移住体験住宅も用意
空き家・空き地バンクの登録物件を購入して改修する場合、最大80万円を補助している。また、町内で住宅を新築した場合は最大250万円、町内の事業所に勤務して民間賃貸住宅を借りて転入する場合は家賃を月最大2万円(40歳未満などの要件あり)助成するなど、住まいの支援が充実。移住前に暮らしが体験できる移住体験住宅も用意している。
お問い合わせ:上川町地域魅力創造課 ☎01658-2-4063
移住・定住 | 北海道上川町 (hokkaido-kamikawa.lg.jp)
移住体験住宅は1LDKで、家具・家電付き。7日以上1カ月まで利用可能で、1日2000円。
「雄大な自然に囲まれて暮らせます! 仕事もいろいろありますよ」(上川町地域魅力創造課の戸田さん)
文/水野昌美 写真提供/マチガイネッエゾベース、北海道上川町
この記事の画像一覧
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする