全国2位の女性の就業率55.6%(※)を誇る福井県。なかでも鯖江市は57.9%と県内トップに立つ。メガネをはじめ地域の地場産業であるモノづくりは、働く女性たちに支えられてきた。その風土を生かそうと、市は女性が活躍しやすいまちづくり事業を推進。空き家対策で誘致したサテライトオフィスがキッズスペースを設けるなど、子育て中の女性を応援する。
(※令和2年国勢調査 就業状態等基本集計)
掲載:2024年12月号
CONTENTS
福井県鯖江市 さばえし
福井県の中央部、福井市の南側に隣接する。1905年に始まったメガネづくりが発展し、メガネフレームの国内シェア9割以上、まち全体が生産を担う一大産地となった。人口約6万8000人。年平均気温14.8℃。東京駅から北陸新幹線経由、福井駅よりハピラインふくいで鯖江駅へ約3時間30分。
共働き率ナンバーワンのまち、子育て女性のニーズに応える
「子育てと仕事をハッピーに」をコンセプトに空き家を活用したキッズスペース付きオフィスをつくり、子育て世代の女性に業務委託を行うLIFULL FaM(ライフルファム)。2018年にオープンした鯖江市のサテライトオフィスは、もともと都内で始まった事業の地方版第1号である。 福井県の共働き率は全国1位、なかでも鯖江市は就業率、共働き率ともに県内一高い。また、福井県は控えめだが真面目な性格の女性が多いといわれる土地柄。そして鯖江市は、03年に「鯖江市市民活動によるまちづくり推進条例」を制定、14年には女子高校生によるまちづくりグループ「鯖江市役所JK課」の発足など、新しい施策に積極的に取り組んでいる。
「こうした鯖江市の特徴は、LIFULL FaMの事業にぴったり。ぜひここにオフィスを出してみようと考えました」
と言うのはLIFULL FaMで地方展開を手がける秋庭麻衣さん。鯖江市が空き家活用のオフィス誘致のため実施したお試しツアーをきっかけに事業所の設置を決めた。市の空き家リフォーム助成金も得て戸建てを改装したオフィスには、ワークスペースの隣に子どもが過ごせる部屋も設けた。
「キッズスペースを置いたのは鯖江の1年前にオープンした都内のオフィスが最初です。当時、保育所の待機児童が大きな問題になっていて、子どもを預けられずに仕事ができない方が一定数いました。それなら『預けずに働ける機会を増やしてもよいのでは』と始めたわけです」
鯖江市では待機児童こそいなかったが、当時は希望する保育所に入れないケースが見られた。幼稚園に入るまでは子どもを預けずにと考えるニーズもあり、オフィスで専任のシッターを置いて対応した時期も。LIFULL FaM鯖江オフィスに勤務する北村惠美さんは言う。
「いまは常に子連れで来る方は少なくなっていますが、園に入れるまでの半年間だけとか、夏休みの小学生と一緒にとか。コロナ禍で小学校が休校になったときは、『オフィスに連れてきていいよ』と柔軟に対応してもらって、私も1カ月ほど子連れ出勤しました。助かりましたよ」
LIFULL FaM 鯖江オフィス
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」などを運営するLIFULLが運営する「ママの就業支援事業」。地方オフィスは鯖江市のほか、鳥取県雲南市、岩手県釜石市、宮崎県宮崎市でも展開中。住所/鯖江市日の出町7-42 https://lifull-fam.com
鯖江オフィスで働くママさん社員。
キッズスペースで仲よく遊ぶ子どもたち。スタッフ同士で目を配り、夏休みなどは専任のシッターが参加する。
お互いさまのチームワークで、子育てと仕事を両立させる
LIFULL FaMの事業内容は、各企業から仕事を受託し、フリーランスとして登録したメンバーに仕事を発注するもの。主な仕事は企業のSNS運用代行や広告運用、女性向け記事などの執筆、運営会社が営む不動産関連のデータ入力など。
「案件ごとにディレクターが受注先の要望を聞き、マニュアル化して登録しているメンバーに仕事の内容を伝え、進捗を管理しています」
と秋庭さん。メンバーの多くは未経験のお母さんだという。
「パソコンの仕事は初めてという方もいますが、必要なスキルは動画の講座で研修していただいています。また、フリーランスは初めての方が多いので、最初にその心構えやビジネスマナーの研修も行います」
北村さんは鯖江オフィスがオープンしてほどなく、転職してメンバーに加わった。
「新オフィスを紹介する地元のローカルニュースを、父がたまたま見て教えてくれたんです。私の生活にマッチしているなと感じて面接を受けました」
北村さんは現在、ディレクターとしてフルタイム勤務するが、メンバーは各自の裁量で仕事の量や時間を決められる。
「『1カ月に10時間しか働きません』では普通の仕事はなかなかないと思いますが、ここではそういう働き方もできます」
と北村さん。業務は例えば「来週の金曜日までにこの入力を10件仕上げて」といった内容で、「今日は子どもがなかなか寝ないから明日やろう」といった対処ができ、子育てと両立しやすい。
受注した各案件は、1人のメンバーに任せるのではなく3〜4人のチームで進めている。
「子育て中は子どもの急な発熱などで休むケースも多いですが、チーム全員がお互いさま。気持ちがわかるので、そういうときも誰かが助けてくれます」
こうした働きやすさが受け入れられて、当初2人で始まった鯖江オフィスの人数は現在、社員3人、登録メンバー25人。福井県内全体のスタッフ数49人は全国最多となっている。
「登録はほとんどが口コミ、ママ友の紹介です。保育園や小学校が一緒とか、子育てイベントで知り合ったとか。多いのは未就学児のお母さんですね」
慣れたメンバーは自宅のパソコンでテレワークするが、最初はマニュアルを確認したり、レクチャーを受けたりと、安心して仕事を進めるにはメンバーが集まるオフィスが欠かせない。
「一緒に来る子どもたちは隣の部屋で遊んだり宿題をしたり、みんなでわいわい楽しく過ごしています。メンバーと子どもたちを交えてランチやパーティーをする機会も多いです」
テレワークではスタッフ同士のリモートでの打ち合わせも多い。北村家は学校から帰った子どもがパソコンの向こうのスタッフに手を振るのだとか。
「メンバーは子どもも含めて知った仲で、子どもにとって親戚のおばちゃんみたいな感じなのでしょう。それでも子どもに、『ママのお仕事楽しそうだからママの会社に入る』と言われたのはちょっとうれしかったです」
子どもがいるのが当たり前のオフィスは、特殊ではなくママにとって自然な空間。
子育てしながら地方で仕事。鯖江から広がる新モデル
「鯖江市役所JK課」に象徴される市民協働と女性活躍を推進してきた鯖江市は、LIFULL FaMなど新たな風を呼び込みながら、さらにその動きを前進させている。
21年には女性活躍を推進する経営者の会『さばえ38(さんぱち)組』が発足。昨年から始まった「鯖江市子育て世代応援企業」では、仕事と家庭を両立できる職場環境づくりを進める企業を認定する。鯖江市商工観光課の酒井智行さんは言う。
「LIFULL FaMさんの事例などをきっかけに、ほかの事業者さんにも環境づくりを広げていきたいです。現在は就業規則の見直しや育児中の短時間勤務の導入、代替要員の雇用などの整備を後押ししています」
オフィス開設が地域に好影響をもたらすとわかったのは、LIFULL FaMにとっても収穫だったと秋庭さんは言う。
「若年層女性の人口減少はどの地域でも大きな課題です。雇用の選択肢が少ない点が理由に挙げられ、私たちはテレワークで解決していきましょう、子育てしながら活躍できますというモデルをつくる。これをPRして働きたいお母さんの輪が広がると、移住にも魅力的な地域だなと思ってもらえるはずです。そんな提案をいま、各地の自治体で始めているところです」
「鯖江市役所JK課」は市の市民協働推進プロジェクトとして発足した。ミーティングでお菓子が食べられるのがご褒美の「ゆるいまちづくり」。
女性活躍を推進! 鯖江市の注目施策
女性活躍支援プログラム「Rintoss IN」
福井県出身のプレゼンテーション講師で書家の前田鎌利氏が代表を務め、鯖江市にサテライトオフィスを置く株式会社固(かたまり)による女性活躍支援事業。女性活躍のロールモデルとなる全国の女性経営者・管理職・リーダーが福井県で講演し、交流の場も設けられている。
夢みらい館・さばえ
鯖江市男女共同参画推進拠点施設。SDGsジェンダー平等推進の啓発をはじめ、世代間交流の講座や、LGBTQなどに関する学習会を開催。子育てや健康などをテーマとしたピアサポートサロンを開催するほか、女性相談窓口、生理用品の提供など、女性に寄り添った取り組みも行う。運営は市民団体「夢みらいWe」が担う。
まだある! 鯖江市のオススメ
西山公園
鯖江藩第7代藩主間部詮勝(まなべあきかつ)が、領民の憩いの場とするため自ら鋤や鍬を持って庭園を造成、1856年に「嚮陽渓(きょうようけい)」と名づけたのが発祥。大正期にはサクラ、昭和にはツツジが植えられ、市民の憩いの場となっている。日本の歴史公園100選認定。
つつじまつり
約5万株のツツジが咲き誇る西山公園は日本海側随一のツツジの名所として有名。毎年5月の連休に開かれるつつじまつりは、例年20万人の来場者でにぎわい、来年64回目を迎える。音楽イベントやさまざまなアトラクションを開催している。
西山動物園
西山公園内にある市営動物園で入園無料。日中友好のシンボルとして北京動物園から希少動物の寄贈を受け、1985年に開園。レッサーパンダの繁殖で国内有数の実績を誇り、鯖江生まれのレッサーパンダが全国の動物園で活躍。園内の「レッサーパンダのいえ」では屋内で間近に観察できる。
鯖江市の子育て支援
●出産・子育て応援事業
妊娠時と産前産後の伴走型相談支援と、妊娠時と産後の応援ギフト(各5万円相当)を支援。
●子ども医療費助成
高校3年生相当の年齢まで保険診療医療費自己負担分や入院時食事代などが無料。
●すくすく保育支援事業
0~2歳児クラスの第2子以降の子どもの保育料免除。第3子以降の子どもの3~5歳児クラスの副食費を月額4500円まで減免。
●鯖江市家庭育児応援手当支給
保育所などを利用せず、自宅で第2子以降の0歳から2歳児を育てている世帯に対象児童1人当たり月額1万円を支給。
●乳児用紙おむつ等購入助成券
新生児訪問から7~8カ月児訪問までに、市内店舗で利用できるおむつ券4000円分を助成。
●すみずみ子育てサポート事業
家庭で一時的にお子さんの養育ができないときに一時保育や家事支援などのサービス利用料を軽減。
子育て支援センターにじいろ
「子育て支援センターにじいろ」には親子のための室内の遊び場、在宅子育て家庭専用施設「なかよしルーム」があり、保育士が担当する。
鯖江市 移住支援情報
モノづくりに興味を持って移住したい若者を応援
メガネのほか漆器や和紙、繊維などの工房、企業が集まる鯖江市では、モノづくりのまちに興味を持つ人を増やし持続可能な地域づくりを目指す工場見学やワークショップなども行われている。移住では東京圏から移住した場合、最大100万円を支給。そのほかにも子育て世代応援企業に就職すると最大20万円の奨励金が支給される。また、空き家取得とリフォームにそれぞれ最大90万円の支援がある。
問い合わせ/総合政策課 ☎0778-53-2263
https://www.city.sabae.fukui.jp/about_city/shinoshokai/teiju_koryu_info/index.html
移住相談の様子。住まいや暮らし、仕事のことなど、気軽に相談しよう。
「ぜひ一度鯖江市を訪ねて、このまちのモノづくりを感じてみてください」
総合政策課 葛野泰央さん
文/新田穂高 写真提供/LIFULL FaM、鯖江市
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