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田舎暮らしの本 2月号

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田舎暮らしの本 2月号

1月4日(土)
990円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

井上真央さんインタビュー「移住というのは、もともと興味のあるテーマでした」|映画『サンセット・サンライズ』

観る者の心を捉える真っすぐな眼差しと人懐こい笑顔が印象的な、俳優の井上真さん。最新作は映画『サンセット・サンライズ』。楡周平(にれ・しゅうへい)による同名小説を宮藤官九郎が脚色した“移住エンターテインメント”です。映画のこと、田舎暮らしの夢、俳優として今思うこと。井上真央さんに聞きました。

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掲載:2025年2月号

田舎暮らしの本のインタビューを受ける井上真央さん
いのうえ・まお●1987年生まれ、神奈川県出身。主な映画出演作に『八日目の蝉』『謝罪の王様』『白ゆき姫殺人事件』『焼肉ドラゴン』『カツベン!』『一度も撃ってません』『大コメ騒動』『わたしのお母さん』など。

 

多くのテーマが入り混じった、田舎を描いた脚本に共感

「移住というのは、もともと興味のあるテーマでした。原作や宮藤さんの書かれた脚本を読むと、移住や田舎暮らしだけでなく、震災、コロナ禍、空き家問題とさまざまな要素がちりばめられていました。百香(ももか)という役は、心に抱えるものは大きいのですが、表には出さず、淡々と日常を過ごしているところから始まります。一歩前に進もうとするときの葛藤を自分なりに演じられたらなと思いました」

 映画『サンセット・サンライズ』への出演の決め手を、井上真央さんはそう振り返る。舞台は岩手県、宮城県の海沿い、南三陸のまちをモデルにした〝宇田濱町〞。百香は父と二人暮らし。

 「百香自身が過去を語るようなシーンはないのですが、震災から流れた月日を思うと、あまりつらい過去に引っ張られ過ぎずに、静かにしまっておくことを意識しました」

 百香は、空き家問題を担当する役場の職員。それでいて自身も、海の見える一戸建ての空き家を抱える家主でもある。「まずはこの家をどうにかしないと」と、空き家情報サイトに登録。即座に、「4LDKで家賃6万円、ってウソでしょ!?」と、東京のサラリーマンが食いつく。それが、菅田将暉演じる西尾晋作だった。

 「昔、一度だけご一緒したことがありました。当時、菅田さんはまだ高校生くらいでしたが、とても真面目な方で、なんでも吸収させてください!みたいなフレッシュさがあって。だいぶ時が経っての共演でしたが、今回は役柄のせいもあってか、いい意味で力が抜けていて、どのシーンも楽しみながら演じている印象でした。とても器用で、魚を捌くのも、釣りも、練習するたびに上達してましたし、劇中に出てくる絵まで描いていて。なんでもできてしまうので、『スター!』と呼んでいました(笑)」

 一緒に暮らす父が漁師でもあって、百香も魚料理は手慣れたもの。井上さんの手つきは、まさに地元の人のそれに見える。

 「〝なめろう〞をつくるのは、芸能界一早いとスタッフの方に言ってもらえました(笑)。もともと料理はしますし、アジも好きでしたが、三枚おろしから捌くことはあまりなかったので練習しましたね。大きなお鍋でタコを丸ごとゆでたり、普段できないようなこともできたので楽しかったです。塩でもみにもまれ熱湯に入れられるタコに同情しながらも、みんなでおいしくいただきました」

 地元の人が集まる居酒屋で、そして百香の手料理として、映画にはむちゃくちゃおいしそうな、三陸の郷土料理が続出する。またそれを晋作が、「うま〜!」と絶叫しながらじつに気持ちよく食べていく。

 「〝塩辛と白ワインのマリアージュ〞とか、脚本の時点ですでにおいしそう!と、読むたびに思っていました。映画に登場するものはほぼいただきましたが、なかでも印象に残ったのは〝あざら〞。白菜の古漬けを魚のアラと酒粕で煮込んだもので、おいしかったですね〜。東京の自宅に戻ってから、百香のように塩辛を手づくりしたんですけど、それはあまりおいしくなかったかな……」

 晋作が移住したのはコロナ禍真っただ中。2週間の自主隔離期間は、主に百香が生活の面倒を見る。晋作は在宅ワークの合間、こっそりと家を抜け出し、海で釣りざんまいの日々。

 「オフの日に一度だけ、菅田さんの釣りの練習についていったんです。餌は、ゴカイじゃなくて……イソメ! 手でちぎって針につけるので、苦手な方もいるみたいですが、特に抵抗はなくて。幼いころ、夏休みに祖父母が住む田舎の川で、ミミズを集めてよくやっていたので、懐かしい!と思いながら。結局小さなフグがたくさん釣れて、かわいかったものの、もちろん食べられないので、大きくなるんだよ〜と逃がして。気づけばあっという間に帰る時間になっていました」

 今回も、「あれ、もう日が暮れるの?」というくらい、時間が経つのを忘れたそう。そんなふうに自身も田舎でのロケを、まるで〝お試し移住〞のように楽しんだ。

 「完成した映画を観たときは撮影から時間が経っていたので、懐かしい気持ちにもなりましたし、好きだった景色がたくさん映っているのがうれしかったです。地元の方も、喜んでくださったらいいなって。それと同時に、それぞれの問題には、新しい価値観を受け入れていくうえで、過去や思い出とどう向き合うかという共通したテーマがあるのかなと」

 流行りというより、もはや定着した感のある〝断捨離〞も同様に思えるそう。井上さん自身は、「ちょっと苦手」だとか。

 「思い出が蘇ると捨てられなくなることってありますよね。形が変わることへの不安から、所有することに固執してしまったり。でも、モノはいつか朽ちていくもので、本当の意味で思い出に変えたり大事にしていくには、新たな形を受け入れることも必要なんだろうと、空き家問題と重ねながら考えていました。前に進むために、新しい形を受け入れるというのは、コロナの影響もありますよね。時代や価値観が猛スピードで流れていくからこそ、誰もが考えさせられることかもしれません。必要なのは何かを捨てることでも、諦めることでも、忘れることでもない。過去を大事にしたうえで、今を大事にすればいい――。映画にはそんな想いも込められているのかなと思いました」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける井上真央さん

 

大自然とたくさんの動物に囲まれて暮らしたい

 「田舎暮らしにはとっても憧れます。お試し移住もしてみたいし、田舎の物件や空き家バンクをのぞいたりしています」

 田舎暮らしへの憧れは、かなり本気度が高いよう。

 「物件情報を見るのも好きなんです。空き家なら全部をキレイにしてしまうのはやり過ぎかも? 水回りだけリフォームする?などと考えたり。平屋や土間、囲炉裏や縁側ってやっぱりいい。昔から大事にされてきたものっていいなぁって」

 では、海と山ならどっちがいいですか?と尋ねると、「ううむ」と考え込んでいる。

 「出身は神奈川で、海が比較的近いところだったので、やっぱり海の見える景色は落ち着きます。学校は小高いところにあって、山道のような通学路を歩くのも好きでした。だから海側でも山側でもどちらでもいい。そういう開けた景色を毎日見られるところがいいですね」 

 今は東京に暮らしながら、文鳥やメダカを飼っているそう。

 「自然に囲まれ、動物に囲まれて暮らしたいというのが小さいころからの夢です。ネットで移住した人の体験を見て、陽とともに起きて陽が沈んだら眠る暮らしってうらやましいなって」

 テーブルの上に置かれた本誌に目を移し、「物件も載ってるんですか!?」と驚く井上さん。ニワトリの写真を見つけ、「この子たちを飼いたいんです。それで朝、その鳴き声で起こされたい」と笑う。

 「田舎に暮らしたら、チャボとか鳥をいっぱい飼いたい。スズメも好きなので庭にエサ台を置いて野鳥観察。あとカメ、ヤギ、できればロバも。爬虫類も飼いたいけど、ヘビはちょっと……。昔、飼っていたインコを丸のみされたことがあるので恨んでます(笑)。トカゲは好きです」

 「それ全部を飼ったら、もう動物王国ですね!」と言うと、「そうですね」と笑っている。なんとなく嫌われ者な気がするカラスも好きだというから、相当な鳥好きなのは確か。

 では人間はどうでしょう?と水を向けてみる。映画にも、田舎あるあるネタとして、密な人間関係が笑いとともに織り込まれている。

 「私の住んでいたところも、宇田濱まではいきませんが密だったなぁと。都会には都会の住みやすさがあり、田舎には田舎のおもしろさがある。どちらのよさもありますよね。映画には、晋作の隣人として白川和子さん演じる茂子さんが登場しますが、私にもそんな存在のおばあちゃんがいました。家でひとりのときに来てくれて、何を煮込んだ!?というぐらい、茶色いおかずを持ってきてくれたりしました(笑)。おいしかったな、そういうの懐かしいなぁって思い出しました」

 

チャレンジした20代から、30代を迎えて思うこと

 年齢を重ねても変わらないかわいらしさと、年齢相応の大人の女性としての落ち着き。一見矛盾するような要素が、井上さんの中ではごくナチュラルに共存している。そんな彼女は30代後半へ突入する今、俳優として何を思うのだろう?

 「20代は、チャレンジすること、その中で達成感を味わい、また新たなチャレンジをする。そんなことを繰り返してきました。30代を迎え、これからどんな自分でありたいか考えたときに、これまでの経験を大事にしながらも、もう少しだけ自身の正直な気持ちに目を向けてもいいのかなと」

 人から与えられるもの、求められることへがむしゃらに応えようとする、それは20代で一区切り。

 「無理をすることよりも、大切にしたいことは何かをより深く考えるようになったかもしれません。一つひとつの問題にゆっくり耳を傾けられるようになりました」

 そんなふうに仕事への意識が20代のときとは明らかに異なる今、演じるという作業は、彼女の中でどう変化しているのだろう?

 「役の心情を深く掘り下げていかなければと改めて思いました。器用にやろうとせず、一生懸命向き合える自分でいたいですね」

 

『サンセット・サンライズ』

(配給:ワーナー・ブラザース映画)

『サンセット・サンライズ』(ⓒ楡周平/講談社 ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会) 『サンセット・サンライズ』(ⓒ楡周平/講談社 ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会)
●脚本:宮藤官九郎 ●監督:岸 善幸 ●出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅 健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世 ほか ●1月17日(金)より全国公開
ⓒ楡周平/講談社 ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/ 

東京に暮らす西尾晋作(菅田将暉)は、空き家情報サイトで南三陸・宇田濱町の一軒家を見つける。コロナ禍でリモートワークが進み、大企業に籍を置いたまま “お試し移住”。大家の百香(井上真央)とその父(中村雅俊)のサポートを受け、町になじんでいく。やがて晋作の会社が宇田濱町の物件に目をつけ、空き家活用プロジェクトをスタートさせるが……。

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 
ヘアメイク/秋鹿裕子(W) スタイリスト/皆川bon美絵

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  • 田舎暮らしの本のインタビューを受ける井上真央さん
  • 『サンセット・サンライズ』(ⓒ楡周平/講談社 ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会)
  • 『サンセット・サンライズ』(ⓒ楡周平/講談社 ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会)

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