絶景の秘境や珍しいスポットを求めて全国を旅していた添田和宏さんが、「田舎にもう一つ拠点を持ちたい」と思い立ったのは5年前のこと。コロナ禍で自由な旅が難しくなったなかで選んだスタイルは二拠点居住だった――。
掲載:2025年1月号
群馬県下仁田町 しもにたまち
世界遺産に登録された荒船風穴をはじめ、奇岩で有名な妙義山や荒船山がそびえる美しいまち。人口は約6200人。こんにゃくと下仁田ネギが特産品。上信越自動車道下仁田ICまで都心から約1時間30分。上信電鉄の下仁田駅まではJR高崎駅から約50分。
貯金200万円で見つけた理想的な山中の空き家
添田和宏さん
生まれも育ちも東京都八王子市。特別養護老人ホームに勤務する傍ら、日本全国の秘境を旅して回る。貯金200万円で群馬県下仁田町に家を購入し二拠点居住をスタート。購入した家は築29年の3LDK。敷地は裏の山の一部も含まれ、約110坪。「適度な高低差もあって、開拓していて楽しいです!」と添田さん。
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「これは逆にチャンスかもしれないと思い、旅で得た知識を活かして、以前から憧れていた田舎での暮らしを始めようと決意したんです」
そう振り返るのは、コロナ禍を機に下仁田町での二拠点居住をスタートした添田和宏さん。日本中を旅してきた経験と持ち前の行動力で、各地の空き家バンクを徹底的に調べ、当時の貯金200万円で理想の物件を探し求めた。
「ただ、自分が本当に田舎に合うかはわからなかったので、完全移住は考えていませんでした」
東京での仕事や多くの友人がいる生活とは別に、もう一つの居場所を持つこと。それが添田さんにとって理想の田舎暮らしの形だった。そうして2020年7月、下仁田町の山里に一軒家を購入。隣家と程よく離れた山中の小さな集落は、添田さんが思い描いた「仲間が集い、ストレスフリーで心からくつろげる場所」をつくるのにうってつけだった。
「予想外だったのは、両親が積極的に同行を楽しんでいるんですよね」と添田さんは笑う。
そう、この家を購入して以来、一番の同伴者は旅仲間ではなく、父の秀夫さんと母の恵美子さんだった。
父の秀夫さんと2人で敷地周りの修繕を楽しむ。「次第に規模が大きくなって、コンクリートミキサーまで買ってしまいました(笑)」。
家庭菜園のための畑も準備中だが、山から来る害獣の被害が大きい。パイプとネットで防護ケースを自作した。今年はショウガやミョウガがたくさんできたそうだ。
居間で親子3人でくつろぐ。購入時は前の住人の残置物も多かったが、せっせと片付けて今はキレイに。建物はしっかりしていて、大きな修理は必要なかったそうだ。
じつは秀夫さんは数年前、がんにより大きな手術を受けた。家の購入と術後のリハビリはちょうど同時期のことだった。
「普通なら安静にするところですが、父にもガンガン働いてもらいました」
介護の現場で働く添田さんは、動かずにいると逆にからだが弱ってしまう高齢者が多いことをよく知っていた。前の所有者が残していった家財の片付けや庭の草刈り、階段や歩道の整備まで、父と母に協力を依頼。家族で作業を進めた結果、「気がつけば父も元気に歩き回るようになりました」とのこと。
今では両親も下仁田への同行を楽しみにし、庭の整備や手入れに励む。
「家族3人、普通に生活していたら持てなかった価値観を共有できました。これからもガーデニングや菜園を開拓していきたいですね」
訪れるのは両親だけではない。多くの友人もこの拠点に集い、添田さんの下仁田での暮らしは大いに盛り上がっている。
「友人家族の子どもたちが楽しんでくれるのがうれしいです」
そして、自分の家族もいつか増やせたら……、そんな夢を添田さんは笑顔で語ってくれた。
「道の駅しもにた」まで車で約15分。特産のこんにゃくやネギをはじめ、おいしい食材がたくさん手に入る。「高速を下りたら、まずここに寄って食材を買い込むのが定番です」。
道の駅にある観光案内所は空き家バンクの窓口も兼ねている。物件購入や移住後の手続きなどで、いろいろと相談に乗ってもらったそうだ。
日本中を旅する添田さんは登山や沢登りも楽しむ。「下仁田を選んだ理由の一つが、魅力的な山と川に近いことです」。
添田さんの二拠点LIFE!
◆滞在頻度と滞在期間
2週間に一度、1泊2日の滞在がスタンダード。もちろん友人らを招待するときなどは変更する。仕事の休みは不定期なので「逆に空いてる平日を使えるので助かる」そう。
◆移動手段
自動車を使用。八王子ICから高速に入り、下仁田町まで約2時間。「あまり近過ぎると旅気分が盛り上がらないので、ちょうどよい距離かなと思ってます」。
◆滞在時の生活費
スーパーで購入する食材が中心で1万〜3万円程度。「下仁田のおいしい食堂に行ったりもしますね」。食費のほかにDIYの資材も買うが、それについては工事内容による。
◆二拠点LIFEへのアドバイス
「 物件を買う前にビジョンを明確にしましょう。ずっと付き合う趣味だと思って建物や敷地、周囲の環境をチェックしてみて。あと、情報を持っている地元の人とのつながりを大切にしてほしい。私の場合は、それが観光協会でした。お得な情報だけでなく、災害情報や人付き合いなど相談に乗ってもらえることは少なくないです」
下仁田町の移住の問い合わせ
全国トップクラスの子育て支援! 結婚・出産~成人までトータルでサポート
自然豊かで災害にも強い下仁田町では、全国トップクラスの子育て支援を用意。町で出産・子育てするとトータルで1人当たり100万円以上の支援が受けられる。その2大施策が満1歳から5歳まで毎年10万円を支給する「育児支援金」と、保育所・認定こども園の完全無料化。ほかにも「入学祝い金」や小・中学校の「給食費無料化」、結婚や出産へのお祝い金など、手厚いサポートが揃っている。
問い合わせ:企画課地域振興係 ☎0274-64-8809/下仁田町暮らしの相談窓口 ☎0274-67-7500
上信電鉄の終点駅でもある下仁田駅。妙義山や荒船山の登山客も多く利用する。
「下仁田町暮らしの相談窓口で、移住や住まいなどへの相談に対応しています。人と人とをつなげるお手伝いもさせていただきます!」(移住コーディネーター 津金澤英美さん)
文・写真/阪口 克 写真提供/添田和宏さん、下仁田町
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