茅野市は諏訪湖から八ヶ岳へと続く高原のまち。山麓の別荘地は以前から人気を集めてきたが、最近では転職を伴う子育て世代からも注目されている。製造業を中心に多くの企業が人材を求め、移住&転職希望者とのマッチングを行う仕組みも充実。よりよい仕事と子育てを求めた移住ができる。
掲載:2025年2月号
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長野県茅野市 ちのし
八ヶ岳連峰の裾野から諏訪盆地に広がる高原都市。明治期の製糸業から、昭和の高度成長期には諏訪湖周辺が「東洋のスイス」と呼ばれる内陸工業地域に発展。蓼科高原は軽井沢に次ぐ人気別荘地。人口約5万5000人、年平均気温12.7℃。JR中央本線特急で新宿駅から茅野駅まで約2時間5分。写真/東に八ヶ岳を望む標高770~1200m。西側にJRや中央自動車道が走る市街地が展開する。
地域に根差した仕事を求め、転職を決めて茅野市に移住
安田さんファミリー
安田泰三さん(48歳)、真由美さん(50歳)、真之介くん(11歳)、隆太郎くん(7歳)は昨年4月、東京都文京区から茅野市に移住。泰三さんは茅野市内の建築設計会社に勤務、真由美さんはフリーランスの編集者としてリモートワークを中心に都内の出版社の仕事を継続。安田さん家族のお気に入りの場所は広い敷地を持つ茅野市尖石縄文考古館。夏には昆虫を探しに出かけた。市内には縄文遺跡が多数ある。
「コロナ禍を経て都市一極集中から地方に目が向き出したと感じはじめました。そうしたなかで、そのときかぎりの都会の建築が少し物足りない、もっと地域に根差した建築を手がけてみたいと思うようになったんです」
都内で建築設計の仕事に携わり、専門学校の講師も務めていた安田泰三さん。茅野市内の会社が人材を求めていると知ったのは、地方での活躍の場を意識して間もないころだった。
「建築を学んでいたころの同級生が勤めた先の建設設計会社です。〝まちを元気に〞を掲げて設計施工に留まらず飲食業やジムなどにも業務を広げはじめていました。興味を持ってしばらく兼業のリモートでかかわらせていただいた後、昨年4月に移住、転職したわけです」
現在、勤務するオフィスの同僚は20人ほど。うち3人ほどが移住組。地元のメンバーが多くを占めるが、ほとんどの人が進学や就職で一度東京や名古屋方面で過ごした経験を持つという。
「リモートの助走期間もあったので、転職当時も同僚から『前からいるみたい』と言われてました。とはいえ関係する業者さんが同級生だったり知人の知人だったり、地方ならではの人脈があるのは常に感じます。妻が近隣の下諏訪町出身で、それを話せるのは助かります」
店舗の設計などでは、いかに人の集まる店にするか、施主をはじめ、かかわるみんなが知恵を出し合う。
「1人ではなく、話をするなかでデザインの手がかりを探していけるのは面白いですよ」
クワガタ観察で盛り上がる家族4 人。「茅野に来て虫が苦手な人が多かったのは意外でした」と真由美さん。
家族はみんな昆虫が大好き。クワガタは多種類飼育中。棚には真之介くんが好きな仏像の本も。
のびのび過ごせる小学校。畑があるのが当たり前
真由美さんは都内の出版社の仕事をリモートでこなし、月に1〜2度は打ち合わせのため上京する。
「実家のある下諏訪は特急通過駅ですが、あずさが停まる茅野駅は東京が近く感じます」
安田さんファミリーの住まいは茅野駅から約1.5㎞ほどのまちなかの賃貸一戸建て。スーパーなども徒歩圏で、〝ほどよく便利〞と真由美さんは言う。
「親からは、住むなら少しでも下のほうがいいと言われました。駅や市街地から離れて標高が上がるほど気温は低くなるので、下は雨でも上は雪という日がありますから」
とはいえ安田さんの住まい選びの決め手は子どもたちが通う学校だった。長男の真之介くんは障害を持つため小中学校に特別支援学級のある校区を探した。
「茅野市への転職を決めたあと、市の移住窓口に相談しました。特別支援学級のある学校をリストアップして見学できるように連絡をとってくれたのは助かりましたよ。何校か回って、小中学校の校舎が新築されたばかりのまちなかの校区を選びました」
文京区も学童などの支援は手厚かったが、中学に進学すると支援が途切れる。民間の放課後等デイサービスは激戦で、真之介くんの中学進学以降のことが気にかかっていたという。
「中学進学と同時にフルタイムの仕事をやめる親も多かったですが、茅野市では働き続けられると思います」
学校で子どもたちが遊ぶ様子は、都内と比べると茅野市のほうが活発に見えるそう。小学校には大きな畑が必ずあった。
「見学先で、次男はいつの間にか地元の子とサッカーをしてました。帰りには『うちの学校に来いよ』って声をかけられて。子どもたちは出会った人に挨拶してくれますし、のびのびしているのは、都会では元気過ぎる次男にも合っていますよ」
安田さんが勤務する(株)イマージ。自宅から約2㎞で子どもたちの通学と一緒に徒歩で通勤する日もある。
もともと店舗をつくる予定の部材を流用したというオフィス。1階の接客スペースはカフェのよう。
店舗やオフィスなどさまざまな建物の設計を担う。
同僚とは常にコミュニケーションをとる社風。知恵を出し合ってデザインに磨きをかける。
企業と移住転職希望者のマッチングも充実
茅野市は年間転入人口2106人、転出人口2080人(令和5年)と、地方都市としては人の出入りが比較的多い。転出入先は県外が半数以上を占める。市内の事業所数は2671。小売り業や宿泊・飲食サービス業の事業所が多いが従業者数は製造業が最多で9000人を超えている(令和3年度経済センサス)。茅野市移住・交流推進室の田中啓吾さんは言う。
「市内の求人で多いのは製造業ですが、そのほかの業種も仕事はたくさんあります。市内の各小学校には放課後6時30分まで児童を預かる学童クラブが校内にあるので、子育て世代も働きやすいと思います」
市は商工会議所や宅建協会の民間団体と連携して「楽園信州ちの協議会」として移住促進を展開。相談件数は増加中で昨年400件ほど。子育て世代からは住まいと仕事の相談が多い。
「転職についてはハローワークのほか、転職事業を展開する地域企業とも協力して、企業ニーズや社風に合わせたきめ細かなマッチングが無料でできます。市では子育てと転職を合わせた移住相談ツアーも企画しているので、気軽にお問い合わせください」
【私も茅野市に移住しました】
移住に踏み出すきっかけは、地域の人と出会える見学会
安田さんと同じ会社で住宅部門を担う久村周一さんは、家族4人で都内から茅野市に転職移住して9年になる。東日本大震災を契機に移住を考え、なじみのあった長野県で、東京の住まいから利用しやすい中央線沿線の八ヶ岳山麓に目を向けた。
「自治体の移住見学会に参加し、先輩移住者の方と話をして背中を押されました」
移住先の仕事探しは長野県のアンテナショップ「銀座NAGANO」の転職面談会を通じて進めた。実際のマッチングは長野県内の転職エージェントが担当。
「 異業種でしたが前職の経験を生かせるところに転職できました。各企業が何を求めているか、細かく把握しているのは地元エージェントならではですね」
久村周一さん。移住後は賃貸住宅に住みながら土地を探し、八ヶ岳を見渡せる場所に自らの設計で家を建てた。勤務先は茅野市移住相談協力店「楽ちのステーション」に登録、相談に応じる。「自然と便利さが共存ちょうどいい田舎です。
【茅野市の転職へのサポート】
■諏訪地域の求人情報を集めたWEBサイトもチェック!
茅野市を含む諏訪地域の6市町村は通勤や買い物など生活圏を共にする。エリアを6市町村に広げれば製造業や観光業、建設業などさらに多数の企業が人材を求めている。この地域の求人情報を集めたWEBサイト「八ヶ岳WORK&LIFE」もある。
https://8work.jp
仕事をテーマにした移住セミナーは都内でも行われている。
■就活カフェKiiTOS
茅野市で企業の採用支援を手がける会社が運営するカフェは、茅野駅前の商業ビル地下にある。地元企業の採用担当者と求職者をつなげる場として、市の施設「ワークラボ八ヶ岳」と交流拠点連携協定を結ぶ。
https://kiitos-cafe.com
■茅野市の就農支援
冷涼な気候を生かし、花き、野菜、果樹の栽培が盛ん。市では関係機関と連携して農家の見学や体験、里親研修による技術習得なども後押しする。昨年は若手農業者が就農希望者を呼び込もうと「信州ちの就農LABO」を立ち上げた。
【茅野市の子育て支援】
■こども医療費助成
高校3年生までの子どもの医療費のうち、1医療機関につき上限月額500円を超える分を支給。
■こども館0123広場
0~3歳の子どもと保護者が無料で自由に遊べる場所は茅野駅に直結する「ベルビア」にある。常駐するスタッフによる毎日の遊びの時間や月の行事のほか、子育て相談なども行う。
■CHUKOらんどチノチノ
「ベルビア」内につくられた中学生、高校生世代の居場所。彼らと応援する市民の話し合いをもとに建設された。運営も中高生を中心に行っている。
「CHUKOらんどチノチノ」には中高生が無料で使えるバンドスタジオやダンスルームもあり、ライブコンサートも行われる。
【茅野市の移住定住支援情報】
大都市圏や市内でのセミナーやツアーは毎月開催
移住や転職のセミナーは毎回テーマと会場を変えながら市内、東京、大阪、名古屋などで年間30回以上行われる。1月には中古物件の改修セミナーを東京で、移住体験談と移住相談のセミナーを大阪で予定。2月には現地での物件見学とJAFの雪道講習会をセットにしたツアーも企画中。詳細はWEBサイト「ちのくらし」を参照、または市移住・交流推進室まで。
問い合わせ/移住・交流推進室(楽園信州ちの協議会事務局) ☎0266-72-2101
「ちのくらし」 https://rakuc.net
昨年2月には保育園体験入園と子育て関連施設見学ツアーが行われた。
「夏の涼しさだけでなく、冬の茅野市の住み心地も一度訪れて体験してください!」
(移住・交流推進室 田中啓吾さん)
文・写真/新田穂高 写真提供/茅野市
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