本誌2月号・第13回「住みたい田舎ベストランキング」[人口20 万人以上のまち]の子育て世代部門で、第3位にランクイン。宇都宮市は、東京に通勤も可能な地方都市として高い関心が寄せられている。子育て世帯に寄り添う独自の支援制度と、魅力の多い子育て環境を取材した。
掲載:2025年3月号
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栃木県宇都宮市 うつのみやし
北関東最大の中核都市。都会の利便性と豊かな自然が共存した環境が魅力。東北新幹線やJR宇都宮線が通っており、東京への移動が便利。東北新幹線を利用すれば、宇都宮駅から東京駅まで最短48分でアクセスできる。人口約51万人。
東京駅まで新幹線で最短48分。東京が通勤圏のほどよい田舎
リモートワークの定着と、都内の住宅価格の高騰により、東京圏在住の子育て世帯が、東京近郊の地方都市への移住に関心を寄せている。なかでも注目が集まっているのが栃木県宇都宮市だ。2024年度(4月1日から12月末日時点)の相談窓口を経由した移住者数は242名。そのうち110名が子育て世帯だ。
宇都宮市の魅力はなんといっても東京へのアクセスのよさだ。東北新幹線を利用すれば、宇都宮駅から東京駅まで最短48分でアクセスできる。移住希望者の傾向を、宇都宮市都市ブランド戦略課移住定住促進グループの大貫貴臣さんに伺った。
「昨年度は東京圏からの移住者が多い傾向にありました。移住後もリモートワークを活用しながら東京の会社で働いている方がほとんどです。東京が通勤圏内で、都市機能も備えながら、自然が豊かで、住宅費も安い。妊娠や出産を機に宇都宮への移住を検討される方が多いですね」
市では、2023年7月から東京圏に通勤・通学する新幹線定期券購入の補助制度をスタート(自己負担額の1/3、上限額月1万円 ※通勤手当を除く)。宇都宮市に住みながらの多様な働き方をサポートしている。
全国初の全線新設LRT・ライトラインが開業
宇都宮市では、都市機能を集約して拠点化し、各拠点を公共交通網でつなぐ「ネットワーク型コンパクトシティ」を掲げ、住民が必要なサービスにアクセスしやすいまちづくりを進めている。その「ネットワーク型コンパクトシティ」を支える公共交通ネットワークの東西方向の基軸として、2023年8月、全国初となる全線新設の次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」が開業した。
ライトラインは、高齢者の移動や、渋滞の影響を受けにくい通勤・通学手段として多くの住民に利用され、2024年11月には利用者数が累計600万人を突破した。
「ライトライン停留場の近くに住んで、車を持たずに生活されている移住者さんもいます。通勤や買い物、レジャーなど、目的に応じた場所に移動することができるので、不便なく生活できているそうです。東京圏に通勤する際も、ライトラインなら渋滞や駐車場を気にせずに宇都宮駅まで行くことができます」
子どもの通学や習い事への親の送迎が必要なくなるなど、子育て世帯にとってのメリットも多そうだ。車内はバリアフリーで、ベビーカーのまま乗り入れることもできる。
「現在は宇都宮駅東側エリアを運行しているライトラインですが、西側エリアへの延線も計画されています。また、宇都宮駅西口は再開発による複合ビルの建設や公共空間再編に向けた検討が進むなど、今後さらなる地域の活性化が期待されています」
ライトラインは、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までを約50分で結ぶ全長約15kmの路線だ。快適でスムーズな移動を実現し、地域の交通渋滞の緩和にも寄与している。
保育士の就労支援を強化。学童の整備で待機児童ゼロ
宇都宮市は、2024年度(4月1日時点)に保育所等と学童保育の待機児童ゼロを達成している。子どもの預け先に悩む必要がないのは、共働きの子育て世帯にとっては大きなメリットだ。保育所等における待機児童ゼロの達成は8年連続。長期的に定員に余裕のある保育所運営が維持されている。
「待機児童が発生してしまう最も大きな要因は、保育士の人材不足です。宇都宮市では,保育士の確保と定着率の向上のために、栃木県内の保育所などに就業すると返済が免除される就学資金貸付、就職準備金貸付、保育料の一部貸付。処遇改善のために給料上乗せや家賃補助などの支援制度を設けています」
宇都宮市公立保育所の正規保育士の過去10年の動向を見ると、約半数が県外の大学の卒業者だという。支援制度の存在が、就職先として宇都宮市を選択する後押しにもなっていそうだ。
学童保育(放課後児童クラブ)については、「子どもの家」として運営。公立小学校ごとに設置されており、保護者の就労などの利用基準を満たす小学1年生から6年生まで、希望者全員が利用することができている。また、「子どもの家」と市教育委員会、地域、学校が連携して、工作やスポーツなどの体験や、英語教室・理科実験などの補助的学習「放課後子ども教室」を実施。これらは希望するすべての児童が対象だ。
送迎負担の軽減などに寄与。「送迎保育ステーション」
宇都宮市は「共働き世帯が子育てしやすいまち」として評価が高い。その理由のひとつが、共働き子育て世帯の「あったらいいな」をかなえる独自のサービスの存在だ。送迎保育ステーション事業は、保育士が添乗する送迎バスで提携する保育所などまで送迎を行うサービス。登園前の朝の時間と降園後の夕方に子どもの一時的な預かりを行う。3歳児クラス以上の園児を対象に、月曜日から金曜日まで、朝は7時から、夜は20時まで利用できる。通勤で利用する駅で子どもを預けることができるので、保護者の送迎負担を軽減するのに加え、早朝保育や夜間保育が必要な家庭へのニーズにも応える。また、送迎保育ステーションが利用できることで保育施設の選択肢が広がり、待機児童の解消にもつながっている。
「特に東京圏に通勤される方にも非常に便利なサービスです。送迎が駅近郊で済むのは大きな時短になるのではないでしょうか」
宇都宮ならではの病児保育事業も、共働き子育て世帯にとって「かゆいところに手が届く」サービスだ。保育所で子どもが体調不良になった際、保護者がすぐに迎えに行けない場合は、病児保育施設の看護師や保育士が代わりに園児を迎えに行ってくれる。さらにはその後、医療機関の医師による診察を受け、保護者が迎えに来るまで病児保育施設で一時的に預かる対応を行っているのだ。遠方に通勤している場合、子どもの体調不良時の対応は懸念点のひとつだ。このようなサービスがあることが、子育て世帯の移住検討の後押しになるだろう。
2024年2月、宇都宮市は『宮っこを守り・育てる都市宣言』を制定した。子どもたち一人ひとりが、人間力を高めながら、自分らしく当たり前に成長できるよう、地域社会全体で守り・育てるまちを目指している。
「子どもや子育て世帯の抱える問題が複雑化・多様化しているなかで、宇都宮市に住んでいてよかった、住み続けたいと思ってもらえるよう、引き続き、結婚・出産・子育ての希望を実現できるまちづくりに取り組んでいきます!」
宇都宮駅東口近隣の「送迎保育ステーション」から、保育士が添乗する送迎バスで、提携する保育所などに送迎する。提携先は21施設。
保育所などへの登園前の午前8時までと、降園後の16時以降は、送迎保育ステーションで過ごす。送迎保育ステーションの利用料は月2000円。18時から20時までは延長利用料が発生する。
家族時間の充実と理想の環境を求めて、東京から移住
◆1組目/篠崎さんファミリー
篠崎圭将さん、楓さん、悠花(はるか)ちゃん。圭将さんはIT関係の会社にフルリモートで勤務。楓さんは東京の不動産関係の会社で働いているが、現在育児休暇を取得中。
篠崎圭将さんは、妻の楓さんの妊娠をきっかけに、昨年5月、楓さんの実家がある宇都宮市内に移り住んだ。移住後も夫婦ともに東京の会社に勤務。圭将さんの会社は、コロナ禍を機にフルリモートが可能になったので、東京の本社に出勤するのは月に1〜2回程度だ。出社の際は、東北新幹線で上野まで行き、そこから乗り換えて約20分。想像していた以上に“あっという間”だという。
「 高くて狭い東京の住宅環境が移住を考えた理由のひとつでした。宇都宮は東京都内に比べて圧倒的に土地が安いので、夫婦の理想が詰まった注文住宅を建てることができました。日々の生活の満足度が格段に上がりました」
Uターンである楓さんも、改めて宇都宮市で子育てをするメリットを実感しているという。「東京に住んでいるころは1~2時間待つことが普通だった妊婦健診が、宇都宮では待ち時間がほとんどない。生活に必要なものも揃っていて不便はないし、東京のように人が多過ぎない。住むのにちょうどいいんです」。
移住後すぐに長女の悠花ちゃんが誕生。新しい場所での家族3人の時間を存分に楽しんでいると、圭将さん。
「平日は9時から17時半までが勤務時間。出勤の必要がないので朝もゆっくり娘と遊ぶ時間があります。休日は、栃木県内の観光へ。日光や那須も近いので楽しいですね」
◆2組目/夫代(ふだい)さんファミリー
夫代貴昭さん、沙樹さん、陸斗くん、悠斗くん。貴昭さんと沙樹さんはともに熊本県出身。貴昭さんは独身時代から約10年間、沙樹さんは結婚後約2年間宇都宮で生活。その後、7年間の東京での生活を経て、宇都宮市にIターン。
「 東京に住んでいるときから、3人目がほしいねという話をしてはいたのですが、当時住んでいた家の広さを考えると難しいなと思っていました。現実的に考えられるようになったのは宇都宮に引っ越してきてからですね」
夫代さんファミリーは、2023年11月に東京から宇都宮市に移住した。沙樹さんは妊娠中で、間もなく出産予定だ。夫代さん家族が暮らす賃貸マンションは、東京で住んでいたマンションと同程度の家賃。間取りは子どもたちの部屋がつくれる部屋数があり、2台分の駐車場も付いている。市外から転入した子育て世帯対象の家賃補助金もあった。
「 東京では新宿にあるIT関係の会社に勤めていました。どうしても家の広さときれいさは妥協できず、最寄り駅からも遠い日野市の物件に住んでいました。そうすると、通勤に片道1時間半かかる。家族での時間をもっとしっかりとりたいと思ったのも、移住を決めたきっかけです」
移住後は家から車で約10分の距離にある、建築関係の会社に転職した。
「 家族で過ごす時間は格段に増えました。休日のレジャーも楽しんでいます。自宅から車で10分程度のところにある『道の駅うつのみや ろまんちっく村』は、温泉やプール、農場やドッグランもあって、家族のお気に入りスポット。息子の所属するバスケットチームの活動に参加したり、家族ぐるみの地域コミュニティにも参加して、子育てについての情報交換も楽しんでいます」
教育環境も充実! 宇都宮市 注目の取り組み
子育ての各段階において切れ目のない支援制度を整備している宇都宮市。子どもの体験や教育を充実させる施策も豊富だ。また「スーパースマートシティ」の実現を目指しており、デジタル技術の活用も進んでいる。
◆子育ての相談に24時間対応「教えてミヤリー」
子育てやごみの分別など日常生活に関する問い合わせに、LI NE上でAIが自動応答するサービス。24時間365日対応。また、自分や子どもの生年月日や受信したい情報を登録しておくと、利用者に合わせた必要な情報を受信できる。
◆英語に触れられる夏のイベント「イングリッシュキャンプ」
英語を母国語とする47名のALT(外国語指導助手)が参加する、英語力向上と国際交流を目的とした小・中学生対象のプログラム。3~4人の小グループで英語を使いながら、さまざまな野外活動を実施する。ほかにも、地域企業の協力を得ながら行われる職業体験「宮っこトライ」(写真下)など、独自の体験プログラムがある。
宇都宮市のオススメスポット
市内には子どもと一緒に楽しめる多彩なレジャー施設や文化施設がある。公園は1104カ所、可住地面積1㎢圏内に約3.2カ所あり(※2024年4月1日時点)、どこに住んでも身近に公園があるという環境だ。
八幡山公園
宇都宮市の中心部に位置し、園内にある宇都宮タワーからは市内を一望。大型複合遊具やゴーカートが楽しめるほか、タンチョウヅルやカピバラのいる動物舎もある。春には約800本のサクラが咲く花見スポットとしても人気。
水上公園
コンビネーション遊具や噴水、健康遊具などが設置された、幅広い年代が楽しめる公園。乳幼児も遊べる遊具コーナーもある。噴水広場があり、夏には多くの親子が水遊びを楽しみに訪れる。
宇都宮市の子育て支援
●第2子以降の保育料の無償化
●こども医療費助成
18歳までの医療費無料
●多子世帯支援事業
第2子以降の一時預かり保育事業などの利用料を全額補助
●うつのみや出産応援金
妊娠届出時の面接後、5万円を支給
●もうすぐ38(みや)っ子応援金
妊娠8カ月期の面接を受けた妊婦を対象に、3万円を支給
●うつのみや子育て応援金
赤ちゃん訪問(こんにちは赤ちゃん事業)の面接後、5万円を支給
●宇都宮市若年夫婦、子育て世帯及び新卒採用者等家賃補助金
居住誘導区域の民間賃貸住宅に転入する子育て世帯などに家賃の一部を補助
●宇都宮市マイホーム取得支援事業補助金
居住誘導区域や地区計画を定めている一部の区域に住居を取得する子育て世帯などに住宅取得費の一部を補助
子どもの家(放課後児童クラブ)のようす。
宇都宮市の移住定住支援情報
移住定住相談窓口「miya come(ミヤカム)」がJR宇都宮駅東口直結の複合施設「ウツノミヤテラス」3階にオープン。移住に関する助成金などの支援制度や、しごと・住まい、子育て・教育環境の相談などに、専門の相談員がワンストップで対応している。
営業時間/11時~19時 定休日/火曜、年末年始
☎ 028-616-8710 ✉ miya-come@alto.ocn.ne.jp
「miya come」にはキッズスペースもある。Instagram/@miya_comeでも情報を発信中だ。
「移住情報は市の移住・定住応援サイト(u-good-choice.jp)をご確認ください!」
(都市ブランド戦略課移住定住促進グループ 大貫貴臣さん)
問い合わせ/都市ブランド戦略課移住定住促進グループ
☎028-632-2115
文/揖斐麗歌 写真提供/宇都宮市
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