兵庫県の最南端、四国と本州の間に位置する淡路島は、本州と島を結ぶ世界最長の吊り橋・明石海峡大橋と四国へつながる大鳴門(おおなると)橋が架かったことで近年、急速に観光客が増加している人気のリゾートアイランド。この淡路島で、Jリーグ加盟を目指す唯一のプロスポーツチーム「FC AWJ(エフシー エーダブリュージェイ)」が島を大いに盛り上げています。
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応援してもらうことでもっと強くなれる
“島クラブ”への方向転換
島内のいたるところで目にするFC AWJのポスター。Jリーグ加盟を目指す、“街クラブ”ならぬ“島クラブ”の認知度はグングン上がっています。チームの創設は2018年ですが、2022年に団体のCOO(最高執行責任者)に就任したのが三上昴さんです。
大学までサッカー部に所属していた三上さんは、大学卒業後は、サラリーマンとして証券会社で7年間務め、「サッカーに関わる仕事がしたい」との思いで2019年から沖縄のFC琉球(当時J2、現J3リーグ所属)の代表取締役社長を務め、2022年に現職に就任。三上さんに、就任当時から現在の活動について伺いました。
スポーツツーリズムによる発展の可能性など、淡路島の魅力を語っていただいた三上さん
「島には島の魅力がある。これまで沖縄にいて、島の魅力を感じていました。今度は、『淡路島という場所に価値あるものを作りたい、スポーツを通じで地域を盛り上げたい』という思いで2022年に加入しました。それまでは、サッカーで勝ち上がってきたチームでしたが、僕らは、“地域に愛され、応援されるから強くなる”というスタイルです。強いから応援されるのではなくて、地域を背負って地域に応援されるから強くなれると。そういうクラブを作りたいという話をして、共感してくれている選手たちが集まっています」(三上さん)
午前中に練習をして午後は就労
メンバー全員が島外からの移住者
サッカー教室や学習塾などで、子どもたちの選択肢を広げる環境を作っている
現在、関西1部リーグに所属するFC AWJのメンバーは全員が島外からの移住者です。選手は午前中に練習、午後は地元の提携企業で就労し、夜には、現在80人ほどの生徒がいる地元のサッカー教室で子どもたちを指導します。サッカー以外でも、高齢者施設での運動教室や、地域の保育園と連携し、「子どもを対象とした運動能力向上教室」と「保育士を対象とした勉強会」などを実施しています。
「選手にはクラブの子どもたちの指導だったり、小学校を訪問してもらったりと、いろんな形で協力してもらっており、ポスターを島中に貼ることで、今は女子高生でさえ7、8割は僕らのことを知ってくれている。淡路島においては、『ヴィッセル神戸』よりも認知度があるかもしれないというくらいのポジショニングが作れています」(三上さん)
地域の人と関わりながらサッカーをする意義
自分のためだけにサッカーをしなくなった
2025年1月に加入した市川侑麻(ゆうま)選手は埼玉県出身の現在27歳。地元の少年団でサッカーを始め、高校は名門の流経(流通経済大学付属柏高校)でインターハイ準優勝を経験し、国士舘大学経て、「東京23FC」で2年間、J3の「アスルクラロ沼津」で1年、その後「福井ユナイテッドFC」で1年プレーしたあと、アスルクラロ沼津時代のコーチで、現FC AWJの田尻大基監督の誘いを受けて加入しました。
「加入が決まってすぐにこちらに来ました。それまで淡路島には来たことはなかったですし、どこにあるのかも知りませんでした。なので、ここまで大きい島だとも、(神戸や大阪に)こんなに行きやすいとも思わず、もっと孤立したところだと思っていた」(市川選手)
“泥臭く走る愚直の男!”として自慢の走力でチームに勢いをもたらす市川選手
市川選手は現在、週3日は提携企業のショップで物販の販売に従事しています。アフタースクールで学童や保育園での運動教室、デイケアでの体操教室を行う以外にも、チームの営業活動にも関わっています。
「これまでもチームのイベントの一環として、子どもたちや地元の方と接する機会はありましたが、ここで多くの方と関わることで気持ちの変化をすごく感じています。これまでは、自分のためにサッカーをしていましたが、本当にたくさんの方が応援してくれたり、気にかけていただいて『頑張ってね』とか『見ているよ』と言われることで、頑張ろうって力になっています。サッカーは地域の人と関わりながらすることに意味があると思うようになりました」(市川選手)
“コノシマトユメヲミヨウ”
プレーヤーである以上、強いチームでプレーしたい、より高みを目指すことは重要です。そうした考えのもと、市川選手もこれまで移籍を繰り返してきました。ところがFC AWJに加入するにあたり、新たな価値観も芽生えてきたようです。
「プレーヤー目線でいったら、『日本代表になりたい』とか『海外に行きたい』、『少しでも多くのお金をもらいたい』。そういう気持ちは本当に大事だと思います。ただ、スポーツはそこだけじゃないと思うようになりました。スポーツ選手にとって選手寿命は長くない。だから、サッカーをしている間に何かを得てやめたいという気持ちが次第に強くなりました。FC AWJに来た理由は、『ここだとそれが実現できる』と思ったからです」(市川選手)
選手にとって、スクールは「サッカーが自分のためだけではない」ことを実感する場にもなっている
“コノシマトユメヲミヨウ”というスローガンがあります。少しでも多くの人が僕たちのチームとか、スポーツを通じて、週末が楽しみになってくれたり、『淡路島ってこんなに面白かったんだ』と思ってくれたり、そういう実感が積み重なって、気づいたら島も大きくなったということをずっと続けていきたいと思っています」(市川選手)
誰かの何かになることで、ようやくプロになる
得られるものしかない
市川選手には淡路島の魅力についても伺いました。
「そこまで閉鎖されてもないのですが、とはいえ島なので集団の意識みたいなのもあります。そういうのが僕にとっては心地良くて・・・。立地面だと、都会にもすぐに行けますし、海が近くて自然がそばにあるので、なんとなく時間がゆっくりな感じがするのはいい。これはメンバーとも話しています」(市川選手)
サッカーをプレーするだけではないFC AWJの魅力について、市川選手はさらに続けます。
「地域の方と関わったり、イベントも多いので、僕みたいなマインドの選手にはすごく合っている。このチームで、考え方とかビジョンに触れるのは、サッカーをやめてからの人生にもすごく役立つものがあると思います。サッカーの面では、理解がすごく深まる。技術もつきますし、サッカーに対する考え方が変わるような指導をしてくださったり、それだけでも来る価値があるというか、成長できる。誰が来ても本当に得られるものしかないというのが魅力です」(市川選手)
僕らみたいな若い集団だからできること
淡路島は東京23区ほどの大きさながら、人口は約100分の1。若者層の流出による人口減少と高齢化が進んでいます。そこでFC AWJは、淡路市・洲本市・南あわじ市の島内3市と包括連携協定を提携し、スポーツを通じた地域活性化を推進しています。
「子どもたちが流出して帰ってこないというのは典型的な地域課題です。サッカーの例でも分かりやすく、ちょっとうまかったり、もうちょっとサッカーやりたいとなれば、簡単に徳島や神戸に行く。そのなかで、淡路島にサッカーが学べる環境があれば、逆に徳島とか神戸から通ってくる子が増えるはず。それは教育も一緒だと思うんですけど、僕らはいま学習塾を運営していて、子どもたちの選択肢を広げるような環境を作っています。これは非常に大きなチャレンジであり、僕らみたいな若い集団だからできると思います」(三上さん)
“島”に移住し、“島”とともに成長を続けるFC AWJのメンバーたち
淡路島は観光地として注目されていますが、「実際に住んでいる地元の人は淡路島の良さをまだまだ実感していない」と三上さんは言います。
「スポーツを通じて淡路島に貢献できたら、大きな意味があると信じてやっています。そのなかで、外から見た淡路島と、実際に住んでいる方とのギャップをどうやって埋めるかが課題です。実際に住んでいる地元の人のほうが、淡路島の良さをまだまだ実感していない。選手たちには感謝しています。サッカーがうまいからプロではなくて、淡路島の人をはじめ、誰かの何かになることで、ようやくプロフェッショナルになっていくと思います」(三上さん)
日本最速の潮流から生まれる“鳴門の渦潮”のごとく、「淡路島に熱狂の渦を起こそう」と活動するFC AWJ。島外出身だからこそ淡路島の魅力を実感できる選手たちが多いのは強みでしょう。淡路島だけでなく、全国に大きな“渦”を巻き起こす未来は近いのかもしれません。
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マイヒーロー
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