かつてアメリカンフットボールやプロレスの世界で活躍した起田高志さんは、新たな生き方として、十和田市が誇る奥入瀬渓流のこけの森に着目。「小さな奥入瀬」と題するこけ玉とひょうたんランプを考案し、国内はもとより海外からも高い評価を得ている。
掲載:2025年10月号
CONTENTS
青森県十和田市 とわだし
十和田市は人口約5万7000人を有する青森県南部の都市。十和田八幡平国立公園を代表する十和田湖や奥入瀬渓流といった自然環境に加え、近年はアートのまちづくりでも注目される。中心市街地へは東北新幹線七戸十和田駅から車で約20分、三沢空港から同約40分。写真は国の特別名勝および天然記念物に指定されている奥入瀬渓流。
奥入瀬の景観をヒントにオリジナル商品を展開
奥入瀬モスボール工房 代表 起田高志さん
1981年、十和田市生まれ。東京の広告会社への就職とともに、大学時代から始めたアメフトでは、社会人リーグで日本一を経験。その後、体格と個性を生かしてプロレスラーへ転身。現在は鍛えたパワーでこけ玉を握り、ひょうたんランプを制作し、地域課題の解決に奮闘中。起田さんは、こけの英語「moss/モス 」から“、プロモスラー”と呼ばれている。こけの帽子は定番のコスチュームで、装着すると気分が高まるそう。https://www.mossball.jp
十和田湖から唯一流れ出る奥入瀬川。上流域の奥入瀬渓流では300種類以上のこけが生息し、屋久島や北八ヶ岳と並び、日本の貴重なこけの森に選定されている。その傍らで奥入瀬モスボール工房を営むのが、起田高志さん(44 歳)。ひなびた温泉郷に施設を整え、「小さな奥入瀬」をお届けするというテーマで独自の商品や制作体験を提供する。
起田さんは「人の心を動かす生き方がしたい」と、25歳でプロレスの世界へ。やがて満員の後楽園ホールでファンの歓声を浴びるまでになったが、大けががきっかけで30歳のときに引退を決意。次の生き方として思い至ったのが、レスラー時代の過酷な日々に癒やしを与えてくれた趣味のこけ玉だった。
2011年、十和田市へ帰郷して自宅の作業小屋で制作を開始。こけを丸めたものに目玉を付けて「こけ玉ちゃん」としてネットで販売すると、売れ行きは順調だった。一方で単一の商品だけでは先行きが限られるという課題も抱えていた。そんなある日、気分転換に奥入瀬渓流を訪れて衝撃を受けたそう。
「無数に転がる岩にびっしりとこけが生え、シダや樹木が茂り、至る所に天然のこけ玉が広がるような光景。こけ玉でこの景観を表現できれば、地域の魅力を伝えると同時に事業にも結び付くと確信しました」
こうして奥入瀬渓流沿いに工房を開店。使う苗木はブナやモミジなど、奥入瀬で見られる樹木を選定。国立公園の奥入瀬では自然物採取が禁止のため、こけや苗木を育てる農家を探し、ゼロから関係を築いていった。
当初は奥入瀬渓流館内に出店していたが、2021年に移転して奥入瀬モスボールパークとして拡張。奥入瀬モスボール工房と奥入瀬ランプ工房に加えてフォトジェニックスポットも。
「小さな奥入瀬」と銘打ったこけ玉2000円~。苗木は奥入瀬に生育しているものと同じ樹種を使う。紅葉や芽吹きなど季節の楽しみもある。
起田さんが生み出す特産品【こけ玉とは?】
植物の根を土で球状にくるみ、表面にこけを貼り付けた園芸品。形状のかわいらしさからインテリアとしても人気。起田さんの作品は、奥入瀬渓流で見られる「こけむした岩」をモチーフに制作。環境保護の観点から、こけや苗木はすべて契約農家から仕入れている。
続いて、新たに開発した商品がひょうたんでつくった「奥入瀬ランプ」だ。
「こけをルーペで見ると、それぞれ異なる造形美に感動します。この模様をランプの明かりで表現しようとひらめきました。こけ玉は植物検疫で国外へ持ち出せませんが、ランプなら海外からの旅行者にも思い出として持ち帰っていただけます」
狙いは的中し、唯一無二の商品として好評。台湾やニューヨークなどの海外出展でも、奥入瀬の自然をデザインに取り入れた物語性が高く評価された。
「ひょうたんは栽培、加工、販売の六次産業化を実現。会社全体で現在18人の雇用を生み出し、結果的に地域への貢献にもつながりました。幼少期から奥入瀬での感動を体験してもらうため、小学校などからの見学はボランティアで受け入れています」と起田さん。ゆくゆくは、奥入瀬を目指して世界中から人が集まるブランドへと高めていくことが目標だという。
自家栽培のひょうたんを使った個性さまざまなランプが彩る奥入瀬ランプ工房。
多様なこけの造形美を表現した奥入瀬ランプ6800円~。好きなデザインでつくれる制作体験は特に人気。
地元の小学生たちが課外活動で毎年訪れるほか、県内各地の親子レクリエーションでも利用されているという。
特産品を生み出すためのアドバイス
「売りたいものではなく、お客さまが求めているものの本質をとらえ、商品化することが大切です。奥入瀬渓流の場合、『散策後に何かできないか』『荒天時はどう過ごそう』という課題も。その声に応えることが、思い出づくりになる私たちの事業に結び付いています」( 起田さん)
十和田市&奥入瀬の魅力はここ!
- 十和田湖や奥入瀬渓流といった世界に誇れる自然観光地がある
- 十和田市はニンニクの生産量が日本一。健康によい熟成黒ニンニクも!
- 奥入瀬は自然との距離が近く、子どもからお年寄りまで散策しやすい
- 奥入瀬の風景は歩くごとに違う表情を見せ、毎日散策しても飽きることがない
【十和田市 移住支援情報】
碁盤の目に整備された美しいまち利用料無料のお試し住宅も!
十和田市現代美術館を拠点としたアートのまちとしても知られる十和田市。中心市街は碁盤の目に整備されており、田舎過ぎず、都会過ぎない“ ちょうどいい”環境が整う。市では移住を希望する人の「十和田暮らしを体験してみたい」というニーズに応えるために「移住お試し住宅」も開設。移住者の住宅取得には最大150万円の補助もあり。
問い合わせ/政策財政課人口減少・定住自立圏係 ☎0176 -51- 6712
「日々コレ十和田ナリ」https://towada-iju.com
「移住お試し住宅」は利用料無料、2泊3日から9泊10日まで利用可能。
サクラの名所としても知られる官庁街通り。
「田舎過ぎず都会過ぎず、ちょうどいいまちです。ぜひ遊びに来てください!」(十和田市移住コンシェルジュ 渡邊ゆうみさん)
文/笹木博幸 写真提供/奥入瀬モスボール工房、十和田市
この記事の画像一覧
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする
































