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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

10月31日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

【地方教育はここまで進化】ICT×自然で“学びが変わる”──伊那市・山江村・五島市の最先端事例3選

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豊かな自然のなかでの子育てに憧れる一方で、地方の教育環境に不安を持つ人は多いだろう。ところが今、地方の教育は大きく変わってきている。「GIGA(ギガ)スクール構想」によるICT活用で、環境のハンデは解消され、むしろ独自の授業で都市部をリードする地域も登場している。今回は、その中でも特に注目すべき3つのまちを取材した。

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掲載:2025年10月号

CASE1/自然×ICTで探究心を育む 森の教室から広がる学びの可能性(長野県伊那市)

長野県伊那市
長野県南部、2つのアルプスに抱かれた伊那谷にある。豊かな自然を活かした特色ある保育や教育を展開し注目を集め、“教育移住”も増加している。長野県伊那市
長野県南部、2つのアルプスに抱かれた伊那谷にある。豊かな自然を活かした特色ある保育や教育を展開し注目を集め、“教育移住”も
増加している。

自然とデジタルが森の中で融合

校舎に隣接する森の中にある「森の教室」。木々に囲まれた空間に机と椅子、プロジェクターが並び、生徒たちはタブレットを手に夢中で授業に取り組んでいる。自然とデジタルという一見相反するような要素が融合した学びの場だ。ここは長野県伊那市の伊那西小学校である。

全国の小中学生に1人1台の端末と高速ネットワーク環境を整備する国の教育改革プロジェクト「GIGAスクール構想」が本格的に始動したのは2020年。だが伊那市では、その6年前、14年から市内の公立小中学校にiPadを導入し、いち早く新しい学びの形を実現してきた。今では授業見学に全国から自治体関係者が訪れる。

今回は、伊那市ICT活用教推進センターのICT活用教育専門幹・足助さんに話を聞いた。

「自然のなかに持ち出して使うことを前提に、iPadを導入しました。私は理科教諭なのですが、自然観察のとき『対象をよく見なさい』と言っても、子どもたちには難しい。ですがiPadがあると、撮影して拡大したらアリの足に毛が生えていた、といった発見があるんです。すると今度は端末なしでも、アリを見たときに〝こうなっているんだ〞と考えられる目が育つんですよね。子どもたちが主体的に自然を見るための道具として、iPadはとても有効でした。ほかにも、伊那市は天竜川沿いに形成された広大な丘陵に位置し、特徴的な雲の発生が多い地域です。タイムラプス機能で雲の動きを記録すれば、そのでき方を詳しく観察でき、やがては空を見ただけで〝このあと天気はこう変わる〞と予測できるようになるんです」

伊那西小学校では、校舎に隣接する森にタブレットを持ち出し、探究学習を行っている。森の中でもWi-Fi環境が整い、子どもたちは植物観察に夢中。
伊那西小学校では、校舎に隣接する森にタブレットを持ち出し、探究学習を行っている。森の中でもWi-Fi環境が整い、子どもたちは植物観察に夢中。

児童や保護者、地域の人たちも参加してつくった「森の教室」。
児童や保護者、地域の人たちも参加してつくった「森の教室」。

映画制作にまで発展したサマーキャンプでの学び

2019年からは、市内外の小学生を対象にした夏休みの課外活動「伊那市ICTサマーキャンプ」を実施。森の中で動植物の観察や火おこし、パンづくり、家づくりなど多彩な体験を行い、その様子を撮影・編集して動画を制作し、発表まで行う。

「ある年には、4年生の子どもたちが森で見つけたクワの実でジャムをつくり、そのレシピ動画を制作しました。それをきっかけに、2学期には映画制作に挑戦。森の大切さを伝えたいと、脚本、衣装、撮影、編集まで自分たちで役割分担して取り組み、チケットを配って校内上映会を実施。それが評判を呼び、今度は森の中でも上映会を開いたんです。とても感動的でした」

2025年は、初めて低学年の子どもたちも参加。親子で参加できるプログラムも導入した。

「ファミリーレストランなんかに行くと、保育園くらいの小さな子がスマホやタブレットでYouTubeを見てること、よくありますよね。あれ、もったいないなぁと思うんです。授業でいiPadを使うと、子どもたちが『え、こんなことできるの?』って目をキラキラさせるんですよ。いやいや、もともと君たちはこれを持っていたんだよ、と。iPadはYouTubeを観るだけのもの――そ
んなイメージを崩したかったんです。おうちの方にも、学校でこんなふうに使っているんだって知ってほしい。iPadやスマホは、子どもの学びを広げる〝プラスの道具〞になる。そのことを保護者にも感じてもらえる機会になったんじゃないかなと思います」

ICTサマーキャンプでは、活動の様子や成果を動画にまとめ、クラウドで共有。さらにモニターを使ったプレゼンテーションまで行う。
ICTサマーキャンプでは、活動の様子や成果を動画にまとめ、クラウドで共有。さらにモニターを使ったプレゼンテーションまで行う。

自ら脚本を書き、撮影・編集・衣装まで役割を分担し、森の大切さをテーマにした映画をつくり上げた。
自ら脚本を書き、撮影・編集・衣装まで役割を分担し、森の大切さをテーマにした映画をつくり上げた。


今年のサマーキャンプでは、低学年も親子で参加。ポニーふれあい体験をもとに、教師も舌を巻く難問クイズを制作・発表した。

なぜ伊那市はICT教育の先駆けになれたのか

中山間地域でのドローンを使った買い物サポートやAIタクシーの導入など、伊那市は全国でも早い段階から新産業技術の活用を進めてきた。その先進性が教育にも息づく。目指すのは科学や技術、芸術などを横断的に学び、創造力を育む、主体的なSTEAM教育だ。ICT導入以前から、伊那市は「探究的学び」を教育ビジョンの柱に掲げてきた。体験や学びを通じて、子どもたちから自然に「これってなんでだろう」「調べてみたい」「やってみたい」という声が上がり、そこから始まる授業で、自ら課題を発見し、解決する力を育てたいと、地域全体が一体となって学びの場をつくってきたのだ。ICT導入は、その学びをさらにレベルアップさせるものとなった。

また、学校間や教員間での連携・情報共有を支える仕組みも充実している。各校のICT活用支援を担う「GIGAサポーター」を中心に、ICT推進センターが教師のための研修や現場支援を行い、フットワークの軽いサポート体制を実現。こうして伊那市は、先進技術と地域の協力を掛け合わせ、未来へとつながる子どもたちの探究心を育んでいる。豊かな自然と独自の学習環境に加え、子どもたちに充実した学びを与えたいというまちのサポートが揃った伊那市。このように、まち独自の魅力にICTを組み合わせることで、地方の教育環境はこれからますます魅力的になっていくだろう。

長野県伊那市の移住定住支援情報
UIJターンでの就業・創業には最大100万円、住宅の新築・取得には最大150万円の補助金制度がある。伊那市の風景や小学校、田
舎暮らしモデルハウスなどをWeb上の仮想空間で体験できる「伊那MRスクエア」も公開している。
㉄企画部地域創造課  ☎︎0265-78-4111 E-mail:jkz@inacity.jp

CASE2/小さな村だからこそできた! 日本初のICT教育で学力日本一に(熊本県山江村)

熊本県山江村
熊本県南部の中核都市である人吉市に隣接する山江村。教育環境の充実と手厚い子育て支援制度が魅力となり、子育て世帯の移住者が増えている。
熊本県山江村
熊本県南部の中核都市である人吉市に隣接する山江村。教育環境の充実と手厚い子育て支援制度が魅力となり、子育て世帯の移住者が増えている。

学習姿勢が変化自信・自己肯定感もアップ

熊本県山江村は、2011年に全国で初めてICT教育をスタートさせ、日本のICT教育を牽引し続けるまちである。産官学で連携しながらICT教育の実践・研究に取り組んできた結果、2015年には学力日本一を達成。ICTの活用が、子どもたちの学力を向上させる大きな可能性を証明した。

「ICTを取り入れたことで驚くほど生徒たちの授業への食いつきが高まりました。ただ聞いているだけの授業から、ICTにより参加型の授業になったからだと思います。予習や復習の自宅学習も、タブレットを持ち帰ってクラウドにつないで、自主的にやってくる。それまで勉強は『教えられるもの』だったのが、自分から主体的にアクセスして学べるようになった。その姿勢の変化が、学力の向上につながったのだと考えています」(山江村教育長 ・藤本さん)

課題になったのは、教員側の指導力をどのように高めていくか、だったが、小学校が2つ、中学校が1つという小規模なまちだからこそうまくいった。

「中学校を基本にして一緒に動くことができた。教員が一丸となって、山江村のICT教育をどうしていくか考え、進めていくことができたんです」

山江村には高校はない。ICT教育を始める前は、村外の高校へ進学したものの、中退する生徒も多かったという。今は高校でも自信を持って勉学に励み、その後の進学も優秀な結果を残す生徒が多いのだそう。「狭い世界にいたと不安を感じずに、自信と自己肯定感を持つことができるようになったからではないでしょうか」

山江村では英語教育にも力を入れ、英検3級取得者はシンガポール語学研修へ。中学生は現地の生徒とオンライン交流も行っている。
山江村では英語教育にも力を入れ、英検3級取得者はシンガポール語学研修へ。中学生は現地の生徒とオンライン交流も行っている。

グループ学習でもタブレットを使用。生徒たちが主体的に議論を進めることで学びが深まった。
グループ学習でもタブレットを使用。生徒たちが主体的に議論を進めることで学びが深まった。

熊本県山江村の移住定住支援情報
2人以上の世帯に100万円の移住支援金、対象経費の1/2を補助する土地購入補助金、空き家改修補助金がある。「子育てサロン」や「病児病後児保育事業」もあり、安心して子育てができる環境。入学祝金や小・中学校給食費無料、高校生までの医療費助成を実施。村営学習塾の開催や英検受験料無料化、海外語学研修など、英語教育にも力を入れている。
㉄企画調整課 ☎0966-23-3111

CASE3/離島のハンデをICTで超える  つながる学びの島(長崎県五島市)

長崎県五島市
長崎空港または福岡空港から飛行機で約40分、長崎港からジェットフォイルで約1時間30分。島々には透明度の高い白砂のビーチが点在。
長崎県五島市
長崎空港または福岡空港から飛行機で約40分、長崎港からジェットフォイルで約1時間30分。島々には透明度の高い白砂のビーチが点在。

オンライン授業で島外や海外にもアクセス

五島列島最大の福江島を中心に多数の島々からなる長崎県五島市。離島ゆえの制約をICTの導入で乗り越え、さらに子どもたちのコミュニケーション力を育む授業にも取り組んでいる。

「福江島からさらに船で渡る島には、全教科の教員が配置されていないため、福江島にいる教員が兼務しているのですが、フェリーが欠航すると長期間授業ができなくなることもありました。ですがそういった二次離島の中学校2校が文部科学省の遠隔教育特例校に認定され、オンライン授業が可能になったんです」

五島市はグローバル人材の育成を掲げ、ICTを英語教育にも活用している。目標は自分たちの住むまちの魅力を英語で伝えられるようになること。オンラインで海外とつなぎ、実際に英語で会話する。

「言いたいことがなかなか伝わらないこともあります。でも、その悔しさが学びのモチベーションになる。伝わったときには目を輝かせて喜び、その後の授業への意欲も大きく伸びます」

北海道の学校とつないで互いのまちを紹介し合ったり、市内の別の学校と合同授業を行うこともある。1クラスに1人しか生徒がいない学校もあるが、オンラインを活用すれば、他者との交流を楽しみながら学ぶことができる。

確かに塾などの学校外教育サービスは都会ほど充実していない。しかし、求めさえすれば、どこにいてもアプリやオンラインサービスなど、多様な学習方法にアクセスできる。その環境を整え、子どもたちの学ぶ意欲を引き出すこと――それこそがICT教育の大きな役割だ。

オンラインなら世界中と交流が可能。写真はインドネシアとつないだ英語授業の様子。
オンラインなら世界中と交流が可能。写真はインドネシアとつないだ英語授業の様子。

タブレットで窓の外を映し、自分たちのまちを紹介する生徒たち。
タブレットで窓の外を映し、自分たちのまちを紹介する生徒たち。

長崎県五島市の移住定住支援情報
東京圏からの移住で、2人以上世帯に100万円(子ども1人30万円加算)を支給し、子育て世帯引っ越し助成金最大15万円を交付。育児用品の提供や貸し出し、医療費助成など子育て支援が充実。毎月1〜2回のオンライン個別相談のほか、東京・大阪・福岡などで開催される出張相談で移住相談が可能。
㉄地域振興部地域協働課移住定住促進班
☎0959-76-3070

文/揖斐麗歌

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  • 長野県伊那市 長野県南部、2つのアルプスに抱かれた伊那谷にある。豊かな自然を活かした特色ある保育や教育を展開し注目を集め、“教育移住”も増加している。
  • 伊那西小学校では、校舎に隣接する森にタブレットを持ち出し、探究学習を行っている。森の中でもWi-Fi環境が整い、子どもたちは植物観察に夢中。
  • 児童や保護者、地域の人たちも参加してつくった「森の教室」。
  • ICTサマーキャンプでは、活動の様子や成果を動画にまとめ、クラウドで共有。さらにモニターを使ったプレゼンテーションまで行う。
  • 自ら脚本を書き、撮影・編集・衣装まで役割を分担し、森の大切さをテーマにした映画をつくり上げた。
  • 今年のサマーキャンプでは、低学年も親子で参加。ポニーふれあい体験をもとに、教師も舌を巻く難問クイズを制作・発表した。
  • 熊本県山江村 熊本県南部の中核都市である人吉市に隣接する山江村。教育環境の充実と手厚い子育て支援制度が魅力となり、子育て世帯の移住者が増えている。
  • 山江村では英語教育にも力を入れ、英検3級取得者はシンガポール語学研修へ。中学生は現地の生徒とオンライン交流も行っている。
  • グループ学習でもタブレットを使用。生徒たちが主体的に議論を進めることで学びが深まった。
  • 長崎県五島市 長崎空港または福岡空港から飛行機で約40分、長崎港からジェットフォイルで約1時間30分。島々には透明度の高い白砂のビーチが点在。
  • オンラインなら世界中と交流が可能。写真はインドネシアとつないだ英語授業の様子。
  • タブレットで窓の外を映し、自分たちのまちを紹介する生徒たち。

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田舎暮らしの本編集部

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日本で唯一の田舎暮らし月刊誌『田舎暮らしの本』。新鮮な情報と長年培ったノウハウ、田舎で暮らす楽しさ、心豊かなスローライフに必要な価値あるものを厳選し、多角的にお届けしています!

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