旅行とは異なり、移住先となると、温泉だけではなく、暮らしやすさも重要です。温泉評論家の石川理夫さんに、「お湯よし、暮らしよし」の名湯・温泉地を選んでもらいました。まずは、石川さんが移住先に選んだ別府温泉郷を紹介します。
掲載：2025年11月号
石川理夫さん（いしかわ・みちお）●温泉評論家。日本温泉地域学会会長。主な著書に『温泉の日本史』(中公新書)、『一生に一度は行きたい温泉100選』(宝島社ムック)、『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)、『温泉の平和と戦争』(彩流社)など。2024年4月に東京から別府に移住した。
厳選総数と湧出量は日本一！ 多様な温泉が選び放題
湯けむり上る別府の市街
美しく弧を描く別府湾と温泉の母なる山・鶴見岳と伽藍岳（がらんだけ）の間の扇状地に市街地が広がり、湯けむりが上る別府市（べっぷし）。別府八湯（べっぷはっとう）ともいわれる別府温泉郷は、市内にある八つの温泉郷の総称。源泉（湯元）総数と湧出量は日本一で、源泉数は全国の約一割を占め、泉質は大分類で日本最大級の７種類が揃う。色も香りも肌ざわりも多様な温泉が選び放題だ。
高温でよく温まるナトリウム-塩化物泉は、鉄輪（かんなわ）温泉エリアの蒸気井からほかの地域へも供給され、あちこちで湯けむりが上っている。硫黄泉なら明礬（みょうばん）温泉エリア、美肌湯系のナトリウム-炭酸水素塩泉なら別府駅周辺エリアの宿や共同浴場で満喫できる。ひと口に別府へ移住といってもさまざま。海と山の眺望や泉質など、自分の温泉志向を満たせるエリアを探すのもいいだろう。
鉄輪むし湯
床下からの蒸気が噴き出す石室で伝統の蒸し湯体験ができる。鉄輪温泉ではあちこちに蒸し場があり、蒸気で食材を調理する「地獄蒸し」も楽しめる。
別府温泉郷鉄輪温泉「さくら亭」
奥に別府湾と高崎山、手前に市街地と温泉郷を一望。鉄輪温泉の高台にある絶景の宿「さくら亭」の家族風呂のひとつで撮影。
別府温泉保養ランド
別府市明礬にある「別府温泉保養ランド」の天然泥湯。全国屈指の濃厚な泥湯が堪能できる。
住民は温泉供給会社から自宅に配湯されるか、近くの共同浴場で朝夕温泉に浸かり、英気を養う。ご近所同士、アパート・マンション付設の温泉浴場を含む共同浴場の多さは統計でもわからないほど。地区運営の共同浴場の会（組合）員になるか、割引回数券で安く利用できる。
温泉郷・別府の魅力は、人口12万人を切っても国際観光都市としての活力とインフラが整っていること。これには在学生の４割強を多国籍な留学生が占める立命館アジア太平洋大学など、大学が３つもあることも大きい。病院やケア施設が多いのも温泉療養都市としての実績ゆえ。温泉の豊富さは生活面の安心も支えているのだ。
竹瓦温泉
別府駅からほど近い市営竹瓦温泉は唐破風造りの建物で、別府温泉のシンボル的存在の日帰り温泉。砂湯も体験できる。
別府温泉郷♨データ
泉質：塩化物泉を主に大分類で7種類
泉温：40～100℃
移住者リポート「別府に移住して温泉を楽しんでいます！」
自宅前が共同浴場！ 温泉が身近に
後藤可奈子さんはイラストレーターで漫画も描き、グラフィックデザイナーの夫と中学生の子どもがいる。兵庫県出身で長く福岡市で暮らし、結婚を機に夫の出身地の大分市に移って10年。隣町で刺激のある観光都市別府にひかれ、住むなら別府と３年前に築30年の物件を見つけて移り住んだ。家の目の前には、市有区営共同浴場の日の出温泉。自治会に入ると頼まれて夫妻で番台や会計の手伝いも。温泉はすっかり身近な存在に。別府は温泉＆アートのイベント、アーティストも多く、仕事のつながりが増えていくのも楽しい。
自宅の目の前、入浴者が多い共同浴場「日の出温泉」。
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