今回の困りごとは、物件の登記。田舎物件には、未登記はもちろん、未相続といったきちんとしていないものがあります。どうしてなのか、ベテランライターがお答えします。
業者に古民家の物件資料を請求したら、「未登記」と書いてありました。確認したら、「あなたが費用を負担するなら登記できます」と言います。固定資産税は買主に切り替わるそうなので、納得して契約したら、今度は「未相続が判明した。売主が調整を進めるから、少し時間がほしい」と業者から連絡がありました。田舎物件はどうして「未」の付く物件が多いのか、理由を教えてください。
神奈川県在住 高見さん●62歳
未登記の売家が田舎に多い理由
田舎物件のデータでは、未登記という言葉がよく出てくる。建物の登記をしていないという意味だが、なぜそんな現象が起きるのだろう。
不動産登記法には、「完成または所有権移転から1カ月以内に建物表示登記をしなければならない」とある。表示登記に加えて所有者をはっきりさせる保存登記まですると、費用は通常10万~15万円前後。そのお金がもったいない、土地は自分のものなのに家だけが第三者に権利を侵害されるはずもない、と考える人が多いのだ。
田舎で未登記が多いもう1つの理由は、現金で家を建てる習慣が強いこと。住宅ローンには保存登記が必要だが、そのプロセスを踏まない人が多いのだ。建物が未登記でも所有者は固定資産税を徴収されるし、高見さんが不利益を被る心配はまずない。どうしても登記したければ土地家屋調査士に頼むのが普通だが、費用は買主負担というケースが多い。
未相続の物件は司法書士の判断を
高見さんが契約した古民家は未登記だけでなく、未相続という事実まで発覚した。親族が亡くなれば相続登記するのが常識だが、田舎は未相続というケースが少なくない。資産価値が低かったり、昔の家督相続の名残もあるようだ。
では、相続登記していない建物を自分名義にするには、どのようなプロセスが必要なのだろう。登記名義人が亡くなれば、その相続権は配偶者とすべての子ども、子どもが亡くなれば孫などにも及ぶ。大正や昭和初期の生まれなら、相続人が10人以上というケースも珍しくない。そのすべての相続人に、遺産分割協議をしてもらう必要がある。善意で判を押す人もいれば、なかには代金を要求する人も出てくるものだ。
未相続の問題は国でも審議中だが、相続の事実を確認するには、専門家である司法書士の判断を仰ぐことが大切。売主の言葉だけを信用し、全額を支払うのは危険である。
文・写真/山本一典 イラスト/関上絵美
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