会社の中でも責任ある役職だった永見さんだが、コロナ禍で仕事が大きく変化し、第一次産業にかかわりたいという希望をかなえるために移住した。一家7人全員が気に入ったという島根の地で漁業に挑戦。これまでの経験とスキルを生かして、新たな試みを始めている。
永見輝晃(ながみてるあき)さん●33歳
静岡県出身。34歳の妻と、7歳と5歳の双子、両親との7人で松江市に移住した。1年間の産業体験を経て、2021年10月から一人前の漁師として定置網漁を行う会社で働いている。
島根県松江市
島根県の県庁所在地で、山陰地方最大の都市。人口は約20万人。城下町として発展し、松江城などの歴史的な建築物や、独自の和菓子文化で知られる。近年ではIT企業の進出も盛んだ。
永見さんが働く野井漁港は、松江市街から北東へ14kmほどの日本海沿い。沖に浮かぶ築島(つくしま)は無人島だ。
一家7人でワゴン車で西日本各地を回った
リフォームを行う横浜の建築会社で、営業担当として働いていた永見さん。店舗を2つほど任される責任者として、社長の片腕となって働いていたが、コロナ禍で仕事が大きく変化する。
「私の営業方法は、顧客のニーズを親身になって聞くスタイルで、対面で行うことが必須のものでした。テレワークではまったく仕事にならず、今後も復活できるかわからない。そこで40〜50代になったらできればと思っていた、自然が多い場所での生活を、思い切って始めることにしました」
妻子だけでなく、静岡県に住んでいた永見さんの両親も一緒に移住することに。移住先を選ぶため、家族7人でワンボックスカーに乗って、四国や九州の各地を回った。農業がしたかったので、有機栽培や自然農を手がける農家が多い自治体を訪問。最後に着いたのが島根だった。
「落ち着いた雰囲気を、家族全員が気に入りました。また、移住相談に対応してくれた『ふるさと島根定住財団』の方がたや、産業体験などでお会いした皆さんもとても親切だったんです。20年の8月に前職を退職し、9月に松江へ移住しました」
松江の住居は、もともと民宿だった建物。3LDKの離れ(倉庫・車庫付き)に永見さん夫婦と子どもが、母屋の2階に両親が住んでいる。
1年間の漁業体験で師匠と仲間に巡り合う
島根県には「UIターンしまね産業体験」という制度がある。農業、漁業、林業などの指導を受ける間、経費の一部が1年間助成されるというものだ。
「私は第一次産業をすべてやってみたいとお願いしたのですが、最初に体験した漁業が楽しかった。師匠をはじめ、周りの皆さんに仲間として迎え入れてもらったので、結局1年間漁業体験をすることになりました」
現在は定置網漁のほか、ワカメや岩ガキの養殖を行っており、漁業権も取得した。妻や両親も農業の産業体験を受け、イチジクの生産などを行っている。
「養殖はいまのところ、趣味レベルの規模ですが、今後は周りの人にも協力してもらって、収益をアップさせる方法を考えていきたいですね。道の駅などの直売所だけでなく、ITや通販を活用して販路を広げ、ブランド化して単価もアップさせるなど、これまでの経験やスキルを生かして取り組んでいきたいと思います」
永見さんが養殖した岩ガキやワカメは「ツクツク!!」や「食べチョク」などの通販サイトで販売している。両サイトで「永幸丸」と検索。
しまね移住情報ポータルサイト くらしまねっと https://www.kurashimanet.jp/
文/渡瀬基樹
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする