空き家の活用のために町と東京の企業を橋渡し
活動にあたっては、拠点が必要だ。バービーさんがまず思いついたのは「シンディハウス」と呼ぶ古民家で、もともと陶芸家の父を持つ幼なじみが住んでいた家だった。幼なじみに連絡してみると、ちょうど売りたくても売れなくて困っているという、奇跡的なタイミングだった。
「家と約2700㎡の土地を150万円で譲り受けました。ゆくゆくはポータルハウスにしたいと考えています。さらにもう1軒、50万円で購入した家がありましたが、安全面を考慮して建物は解体しました。この空地の活用方法もみんなで考えたいと思っています」
栗山町の調べでは、町内には280軒ほどの空き家があるという。しかし、空き家を手放したくても流通の仕組みがない、ほしい人に知ってもらうための拡散力がない、老朽化した建物を解体する資金がないといった課題がある。バービーさんは、こういった空き家問題を専門に手がける空き家活用株式会社(アキカツ)と、栗山町との橋渡しも行ってきた。
「空き家問題について議論する『空活会議』を行ったり、栗山町の未活用の家をアキカツさんに紹介してもらったことで徐々に空き家が流通し始めたりと、少しずつ動きが起こっています。私の土地を活用して、面白い事業をしてくれる方も募集していますので、ぜひ『#栗山町ワクワクプロジェクト』で検索してみてください」
さらに、空き家を活用した「街ごとホテル」という、壮大なプロジェクトも計画中だ。大阪府東大阪市の布施(ふせ)商店街周辺では、空き家への宿泊(SEKAI HOTEL 布施)と溶接などの町工場体験(MACHICOCO)を組み合わせた、マイクロツーリズムを行っている。これを栗山町でもやってみたいという計画だ。
「例えば、DIYの愛好家のニーズを取り入れたツアーを開催できないかと思っています。ノスタルジックな空き家を、みんなで楽しみながらDIYしてもらう。自分がリノベーションにかかわって、愛着の生まれた家を泊まれるようにすることで、栗山町を第二のふるさとと思ってほしいんです。栗山町の魅力は、長期間滞在してこそわかるものが多いですから」
コミュニケーションも東京とは大きく違う
さまざまな活動に取り組むなかで、町の人とのコミュニケーションの取り方がわかってきた部分もあったという。
「私が譲り受けた150万円の古民家は、仲間に協力してもらいながら、4〜5年ほどかけてゆっくりリノベーションを続けています。しかし、水道が通ったので水回りのリフォームを地元の業者さんにお願いしたのですが、東京の業者さんと比べてペースがあまりにゆっくりで、発注の仕方も違う。また、別の業者さんと打ち合わせしていると、バカにしているのか!と言われたこともありますが、そのときは何に怒っているのかわからなかったんです」
東京のコミュニケーションに慣れたバービーさんにとって、地元の人びととの価値観の違いは大きなものだった。そこに助け船を出してくれたのが、地元で大工をしているお兄さん。バービーさんの取り組みには賛成してくれていたが、それまでは積極的にかかわることはなかったという。
「風呂やトイレの施工について取り持ってくれて以来、町の業者さんとの間で、意図を通訳してくれるようになったんです。兄が間に入ってくれることで、私のやりたいことが業者さんに通じるようになり、ワンクッション挟むことで、かえって意思疎通がスムーズになりました」
それでも、価値観の違いはまだ残っている。コロナ禍であってもなお、直接会って話をしないと何も始められないという考えは、根強く残っているようだ。
「オンラインで会議をしても、自分の顔が画面に映ることに慣れていないのか、戸惑ったり固まったりして、直接会ったときと同じように話してもらえない人もいました。東京では試行錯誤はあったものの、現在ではリモート会議が定着しつつありますが、田舎ではパソコンを使うことすら慣れていない人も少なくないのが現状です」
コロナ禍は都市と地方の差を埋めるチャンス
もちろん「直接会う主義」には、信頼関係を構築するためには対面することが必須という考え方が含まれている。わざわざ足を運び、拠点をつくり、居住するからこそ信用し、共に活動を行うに足りる人だと考える風土なのは充分に理解できるのだが、もどかしい部分もある。
「それでも、変化の兆しは感じています。例えば農業なら、これまでJAさんを通して販売することがほとんどでしたが、オンライン直売所を通じて販売する人が増えてきました。コロナ禍で考える機会が増えたことで、ネットを活用したり、個人で活動するきっかけが生まれた人もいます。停滞していたものが動き出し、都市と地方のギャップを埋めるチャンスなのかもしれません」
栗山町が好きだからこそ、町の魅力を知ってもらい、ポテンシャルを引き出したいというバービーさん。
「もちろん、町をよくしたいという思いや、故郷がなくなっては困るという危機感もありますが、いまは栗山町の魅力に共感してくれる人を大切にしたいと思っています。私はリノベーションや『街ごとホテル』だけでなく、農産物の加工品づくりや自然を生かしたイベントなど、やりたいことの『妄想』をいろいろするんです。協力してくれる方や応援してくれる方からも、あれをやりたい、これをやってほしいというアイデアをたくさんいただきます。そうしてかかわるみんなが楽しんでくれることが、町の活性化につながっていくと思うんです」
文/渡瀬基樹 写真/鈴木千佳
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